オッサンの真実②

 初めてやよいと顔を合わせたのは、大きな桜の木がある料亭でのことだった。

 正直、そのときのことはあまり思い出したくない。緊張もあったが、目の前に座るやよいがあまりにも美しくて、自分は随分と粗相そそうをした記憶がある。

 やよいは私よりも二つ年上で、たったそれだけの差なのに、かなり落ち着いている印象だった。

 桜の木のある庭園に出た時だ。着物を召していた彼女を支えようと、横向きで歩きながら黙って手を差し出した。


「あっ」


という、やよいのか細い声が聞こえたすぐ後だった。

 ゴン、と側頭部を大きな灯篭にぶつけた。痛かった。年下なりにカッコつけようと思ったが逆効果である。

 痛みと情けなさで頭を押さえた私の手に、やよいが優しく自らの手を重ねた。


「おもしろい人ね」


 やよいがそう言った瞬間、柔らかな風に乗ってふわりと桜が舞う。その中で優しく微笑む彼女に一瞬にして全てを奪われた。――この人とずっと一緒にいたい、この笑顔をずっと守りたい、そう思った。


 口下手な私は、想いを口にする代わりに何度も彼女に手紙を送った。


 そして、初めての顔合わせから二か月後――私は彼女にプロポーズをした。

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