オッサンの真実①
懐かしい夢を見た。娘のちひろが産まれた時のものだ。
理解のある上司に休みをもらって急いで病院へと駆けつけた。まだ夫の立ち会いというのが一般的ではなかった頃、私は分娩室の前で祈るようにそのときを待ち続けた。そして、妻は元気な女の子を産んだ。――結婚二年目の春のことだった。
「なぜ、今この夢を……」
寝室で呟いて、枕元の時計に目を移す。いつもより一時間も早く目が覚めた。なんとなくもう一度寝る気にはなれず、ゆっくりと仕事の準備をしようとベッドから身体を起こした。
昨晩余ったものをおかずに、ひとり朝食を食べる。いつもなら昼食用の弁当を作ってから朝食に取りかかるのだが、あのような夢を見たあとだとなんとなくやる気が起きない。
「久しぶりにコンビニにでも寄るか」
誰も答えをくれないそのつぶやきは、ただの独り言として真っ白な天井に吸い込まれていった。
*
妻との出会いは、お見合いだった。
近所の世話焼きおばさんが『良い人がいるから! あんたにはちょーっと勿体ないけど』と紹介してくれたのが、妻のやよいだった。
社会人5年目――私が23の時のことである。
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