花粉症②

 赤縁メガネが特徴的な白石さんは、窓際の席でいつも本を読んでいるような、そんな静かな人だった。もちろん学校で話すことはまずない。


「具合でも悪いんですか? 誰か呼びましょうか」


 とはいっても、こんな通勤通学ラッシュの電車内で身動きなんてとれるわけがない。彼女の言葉にオッサンが「大丈夫ですよ」と微笑む。


「ただの花粉症です……今日に限ってマスクを忘れてしまって」


 ――ほら、ビンゴ。

 笑顔のおっさに対して、白石さんの顔がメガネと同じ色に染まる。慌てた様子で「そうでしたか!」と言う白石さん。

 でも、そのあとすぐに彼女の口元もオッサンと同じように緩んだ。


「もしよかったら、このマスク使ってください。私、予備持っているので」


 そう言って、彼女は袋に入ったマスクをオッサンに差し出す。

 オッサンは「ありがとうございます」と言って、次の駅で下車した。その数分後、電車は学校の最寄りの駅に到着した。


 学校への道すがら、白石さんの少し後ろを歩く僕。

 案の定、彼女はマスクをしないで何度も鼻をかんでいた。


「はあ……」


 僕は誰にも聞こえないくらいの小さなため息をついて、彼女の肩を叩いた。

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