25話 君の名は

「で、ディーン。話ってなんだ?」


 事が終わったら話がある、と言われていた俺は、再び裏庭に戻った。


「サムはどうした?」

「ああ、よーく『お話し合い』をしたら分かってくれたよ」

「……そう」


 一体何をしたのやら。そう思いながらディーンをみると彼はなんだか思い詰めたような顔をしている。


「ディーン?」

「……お前、悠斗だろ」

「はい!?」


 確かにそうですけど! その……なんで? なんでディーンがシャルロットの中身の俺の名前を知っている?


「な……なんのことかしら。私はシャルロットよ」


 俺はとりあえずしらばっくれてみることにした。


「やっぱり悠斗だ」

「何を根拠に……」

「あっ! クラス一の美少女美月ちゃんが水着で歩いてる!!」

「えっ、どこどこ!?」


 えっ、まさか? 慌てて確かめると、ディーンが笑い出した。


「嘘だよ。でも動揺したな。つまりお前は悠斗だってことだ」

「ディーン……お前、何者だ。こんなしょうもないことを言うのは、もしかして……明良?」


 くそっ、騙された!! 

 まさかと思いながら俺が問いかけると、ディーンはこくりと頷いた。


「そう、梶本明良かじもとあきらだよ」


 俺はまじまじとディーンを見つめた。相変わらずのワイルド系イケメンだ。

 俺の知ってる梶本明良はちょっと口数の少なめな、言っちゃあなんだけど凡庸なタイプだ。気が良くてつるみやすい友達だった。


「お前のどっこが明良なんだよー」


 俺はディーンを指差しながら大笑いをした。するとディーンはくわっと噛みつきそうな勢いで俺を怒鳴りつけた。


「お前が言えたことかよっ」

「はっ!!」


 確かに……俺なんか金髪美少女になっちゃってるもんな……。


「……そんなんになってるから見つけるのに苦労したぜ」

「本当に明良なんだ……」

「ああ、まだ疑うなら担任のあだ名言おうか? ハゲモグラ」

「ぶっ! マジかよ!! お前明良か!!」


 ディーンはどこか得意気ににやっと笑った。


「ようやく分かったか」

「ああ……だけどなんで明良がここに?」


 俺がそう訪ねると、ディーンの顔色がサッと変わった。


「お前、覚えてないのか?」

「え?」

「一緒に学校の階段から落ちたんだよ……俺とお前は」

「……そうだっけ」


 俺は死んだ時のことはまるで覚えていない。俺のとぼけた返事に、ディーンはハーッと深いため息をついた。


「ああ、それで悠斗は死んだんだ。……そして俺はお前が下敷きになって助かった。でも、自分が許せなくて……毎日悔やんでいたらある日ここに呼ばれた。分かっていたのはこの世界のどこかに悠斗が居るってこと。……まさかシャルロットになっているとは思わなかったけど」

「ずっと俺を探していたのか? もしかして明良も正規ルートを成立させる為に?」

「ああ、そうだ。お前を生き返らすために」


 俺達はじっと見つめ合った。なるほど、設定の割にはディーンがエマとの間にほとんど介入してこなかった訳だ。


「……明良はそれでいいのか? 明良は今も生きてるんだろう?」

「それはっ……」


 できるかどうかも分からない賭けに、友人を巻き込むことに俺は躊躇を覚えた。

 しかし、俺がそれを口にすると、ディーンは俺の手を掴んだ。


「嫌なんだ、俺の所為で悠斗は死んだ。そんな後悔を抱えるなんて」

「明良……」

「あっ」


 俺が勢いに飲まれてぽかんとしていると、ディーンは慌てて手を離した。


「ご、ごめ……ん」

「な……なに赤くなってんだよ」

「だって……自分で鏡見て見ろよ」

「中身は椎名悠斗だっての!」


 こ、こいつ俺のシャルロットの外見に惑わされやがって……!

 まあそれも仕方ないか、お互い彼女もいないしロクに恋愛なんてしてなかったし。


「お前よくそれでああもスカしてられたな……」

「あれは必死で……!」


 なるほど、俺が悪役令嬢に苦心していたように、ディーンも当て馬ヒーローを演じていた訳だ。


「目的は一緒……ということは」

「ああ、協力する。二人で一緒にこの世界から抜けだそう」


 ディーンが手を伸ばした。俺はその手を握り返す。……たから頬を赤らめるなって!

 まあいい。これで心強い味方が出来た。問題は……。


「マイア!」

『はいいいいっ』


 俺は背後に隠れていたマイアを引き摺りだし、問いつめた。


「……お前どこまで知ってた?」

『私はなにも知りませんの! ずっと悠斗の側にいましたし! 私が認知できるのはゲームの一部だけ。追加キャラなんて聞いてないですよ』

「ふーん……」


 俺の剣幕にマイアは青い顔をしてふるふるしている。どうやら嘘はついていないようだ。


『きっとこれはゲームシステムが与えたビッグチャンスなの! 友情パウワーでサクサク攻略しましょ!』

「……ま、それもそうだな」


 ようやく俺はマイアから手を離した。すると、ディーンが口をあんぐりあけてマイアを見ている。


「そ、それなんだ? うさぎ? ももんが?」

「この世界の案内人だよ。明良にはいないのか?」

「ああ。最初にゲームの説明を受けただけだ。……ずるいな」

「俺なんかゲームクリアで首ちょんぱだぞ! いいじゃないかこれくらい」

『ああもう、共闘するんでしょー? さっそく喧嘩はやめてくださーい』


 つい熱くなってしまった俺達だったが、間にマイアが入って来て止めてくれた。


「と、とにかくよろしく」

「ああ、よろしく」


 こうして俺には転生前を知る味方が出来たのだった。

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【コミカライズ検討中】『悪役令嬢』という概念を理解してない俺のTS乙女ゲー攻略ライフ【pixiv賞受賞】 高井うしお@新刊復讐の狼姫、後宮を駆ける @usiotakai

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