19話 オクタヴィアン先輩
その夜、俺はうなされながら眠りについた。
「悪役……悪役とは……」
「シャルロット様、遅刻なさいますよ。早く食堂に行かれては」
「はっ!」
気が付いたら朝だ。ああ、もう朝食の時間じゃないか。
「着替えなきゃ!」
「お着替えはさせていただきました」
「髪がっ……」
「御髪ももう整えてございます」
「……」
俺はじっとアンを見た。彼女はにたり、と不穏な笑みを浮かべる。
確かに鏡を見れば着替えもヘアセットもすっかり終わっている……。
「ご安心ください。私のシャルロット様の身なりは常に完璧にするのがアンの仕事です」
「へ……へぇ……」
だからって寝ているところをどうこうしないで欲しい……普通に起こして!
「さぁ、お時間です」
「あっ、そうだった」
朝一からアンに怯えている場合ではない。
俺がテーブルにつかないと取り巻き達が待ちぼうけを食らってしまう。
「お待たせしましたわね」
「おはよう、僕の小鳥」
「はい、おはようございます」
レオポルト王子の甘ったるい朝の挨拶に対する俺の返事ももう慣れたものだ。
「「「シャルロット様!!!! おはようございます」」」
そして取り巻きズが一斉に俺に挨拶をする……少しばかり遅くなったからか、勢いがすごい。
「エマもおはよう」
「あ……おは」
「「「シャルロット様―っ!!!!」」」
エマの挨拶を遮って、取り巻きズが騒ぎ出した。
どうしたどうした、そんなに腹が減っているのか?
「ああ、早く朝食を戴きましょうね」
「ああん! そうではなくて!」
じれったそうにカトリーヌが叫んだ。
「シャルロット様、今日はアノ日なんですよっ」
「アノ日……?」
なんだ? 誰かの誕生日とかか? 個人的なキャラクターデータはマイアに確認すればわかると思うけど……しまったな……そこまではチェックしてなかった。
「ええっと……ごめんなさいなんのことかしら?」
これがレオポルト王子の誕生日とかならワンチャン好感度が下がるかもしれないし、俺はとりあえずしらばっくれてみることにした。
するとソフィアが眼鏡をくいっと上げて俺に答えた。
「なに、って休学していたオクタヴィアン先輩の復学第一日ですわ!」
「オクタヴィアン先輩……」
誰だそれは。でもなんか聞き覚えがあるぞ?
「あっ……」
(あれだ……エマの好感度のリストにあった名前だ!)
「あらぁ、忘れてたんですの? 可哀想ですわ、先輩はシャルロット様の信望者ですのに」
「へぇ?」
「だめよぉ、カトリーヌ。シャルロット様はレオポルト王子一筋なんだから!」
「それはそうですが、あのオクタヴィアン先輩ですからね……」
グレースは文句を言ったが、ソフィアは眼鏡をキランと光らせて呟いた。
待て待て……そいつはどんな男なんだ!?
「まぁ、皆さん。とりあえず朝食を食べて教室にいかないと遅刻するわよ」
「「「あっ、そうですわ」」」
とりあえず俺は話を遮って、詳細をマイアに聞くことにした。
『オクタヴィアンですか……とうとうアレが戻って来るのですね』
「アレって……」
なんちゅう言いぐさよ。
『彼は二学年上の公爵家の息子で、外戚が隣国の王女なのです。つまり隣国の王位継承権を持つってことになります。それだけ派手な経歴に加え、ブルーの瞳とストロベリーブロンドの髪の美しい男です。レポルト王子が入学するまでは学園一のモテ男でした。……という訳で』
「……訳で?」
『レオポルト王子を目の敵にしているのです。悠斗、あなたにもきっと絡んでくるでしょうね』
「げぇ……」
ここに来て新キャラ登場か……。なんだか嫌な予感がする。
その時予鈴がなったので、俺はしかたなく教室に戻った。
「ねぇ……聞きまして?」
「なあ、見たか?」
教室もなんだかそわそわしているな。
そういえば気になるのはエマのステータスだ。
「エマもオクタヴィアン先輩を知ってるの?」
「えっ……まあ……全校生徒の憧れですから一応」
「あっそ」
あのリストの意味はただの憧れ、そんな意味しか無いみたいだ。
でも二学年上、ってことは放課後まで姿を見ることはないだろう。
俺はそう思っていた。ところが……。
「やぁ、シャルロットはいるか?」
「こ、ここに……」
昼休みに入るなり、教室のドアが開いて中に入って来たのは制服を少し着崩した派手な男だった。マイアの説明通りだ。その顔面はまるで女のように整っている。
くっそどいつもこいつも顔がいいな……!
「よかった。僕と昼食を一緒に食べよう」
「あの……えっと……」
俺が戸惑っていると、レオポルト王子が割って入った。
「先輩、すみません。今日は皆と中庭で食べる予定なので」
「予定は変更だ。いいなシャルロット」
「えっと……」
勝手に決めないで欲しいな。教室のみんなの視線が突き刺さるようだ。
そこにディーンも割り込んできた。
「先輩、あまり強引な男は嫌われますよ」
「ふん、お前は黙っていろ」
「なっ……」
冷たくあしらわれて、ディーンの顔に怒りの表情が浮かぶ。
「あんたなぁ……っ!」
思わずつかみかかりそうになるディーンの肩をレオポルトがつかんだ。
「選ぶのはシャルロットですよ、先輩」
「む……どうするんだ、シャルロット」
「え、ええ……中庭の昼食会は以前からの約束でしたので」
お断りします! だってなんだかややこしそうだもの。
「そっか……じゃあまた明日、昼食を一緒にしよう」
「明日?」
「いいな?」
「はっ、はい!」
あ、しまった。勢いに押されて思わず頷いてしまった。
「まったく……オクタヴィアン先輩にも困ったもんだ」
嵐のようにオクタヴィアンが去っていった後で、レオポルト王子はため息をついた。
そんな訳で俺は明日、彼と昼食をとることになってしまったのだった。
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