5話 好感度アップ↑ダウン↓作戦
と、言う訳で俺は授業を終えて早速サロンに来ている。そんな俺の耳元でマイアが囁く。
『王子の嫌がる事ですよ』
「うん」
分かってる。自慢じないが俺は生前モテなかった。だから調べたんだ。恋愛系のブログ記事を色々と。その中に女の子のNG行動の特集もあった。それを読んで確かに嫌だな、と思ったものだ。
「やあ、僕の小鳥。ごきげんよう」
「ごきげんよう」
今日も麗しのレオポルト王子は颯爽と花吹雪でも振りまきそうな勢いで現れた。
「先に行ってしまうなんて寂しいよ」
「おっほほ……考え事をしたくって」
「おや、シャルロットの心を曇らせるような事があるのかい?」
「ええ……」
よし、今だ。俺はそのブログでナンバーワンのNG行動を実行に移した。
「ネックレスを買ってください」
「……ん?」
「高価なネックレスを買ってください」
「……」
レオポルト王子の動きが止った。よしよし、効いているか?
「それは……どんなネックレスかな? ただ高価なと言われても」
「えっと……あ、青くて……?」
「なるほど、サファイヤのネックレスだね。君の瞳の色にぴったりだ。いいよ」
ええっ、即答!!
『もおおお! 悠斗、王家は国一番の資産家ですよ!』
マイア! そうか、それは盲点でした! ちくしょう庶民感覚が抜けない!
「嬉しいよ……シャルロットはあんまりおねだりしてくれなかったから寂しかったんだ」
王子はそっと俺を手を握った。そして手の甲にキスをした。うおおおおおおおおおお!!
『んっ? 今ので好感度が120%に……バグかしら』
くそー! なんとか嫌われようとしたのに逆効果とは。
おねだりが駄目なら……そうだ、ずけずけモノをいう女もモテないって書いてあったぞ!
俺はちらりとレオポルト王子を見た。うーん、どっか欠点をずばっと指摘してやる。なにかないか? なにか……。
その時、ふと王子の手元のケーキ皿が目に入った。
「王子、ケーキの苺は食べないんですか?」
「うん……昔からどうも苦手でね。苺は嫌いではないんだがケーキに入っているのは嫌いだ」
「まあああ!」
俺は大袈裟に声を出した。
「一国の王子ともあろう方が好き嫌いとは!」
「しかたないだろう」
「そんなことありませんわ。この苺が王子の口に入るまでにどれだけ国民が苦労したか考えたことはあって?」
「……」
俺が立て続けにそう言うと、王子は黙りこくってしまった。
えっと……言い過ぎたかな? 王子は生まれもこうだし、このルックスだ。
こんな風に言われることには慣れていなさそうだ。
その時、王子が動いた。皿の上の苺をつまみ上げると、目をつぶってぱくりと口に放り込んだ。
「えっ……」
「うん……食べられないことはないな」
「そんな無理しないでも……」
「いや、シャルロット。君の言う通りだ。王族たるもの、国民の苦心して作った作物を無駄にする訳にはいかない」
「あっ……あっ……そうですか」
「ああ、大事なことに気付かせてくれてありがとう」
王子はそう言ってにこっと笑った。その笑顔は本当に俺……シャルロットへの感謝に溢れており、俺は微妙な気持ちになった。
しかし、好き嫌いを指摘するのは失敗に終わってしまったようだ。
もっと強い言葉でレオポルト王子を拒絶しなくては……。
「シャルロット、シャルロット?」
「へ?」
「何をぼんやりとしているんだい?」
気が付けば、風が起きそうなバサバサの睫をしばたかせてレオポルト王子が俺を覗き込んでいる。
「おわっ」
ち……近い! まるでキスするみたいな距離に俺はのけ反った。
「そ、そのう……」
俺が必死で目を逸らしているのに、王子はぐいぐいと俺に迫ってくる。
お、男だとしてもな、綺麗な顔が迫ってきたらドキドキするもんだって!
「ああ! もう! 近寄らないで!」
「な……」
俺が思わずそう叫ぶとレオポルト王子のアメジストみたいな瞳が信じられないとでもいうように、大きく見開かれる。
「シャルロット……」
彼はとてもショックを受けたみたいだ。なんだか可哀想だな、と思った。けど、王子にはわざと嫌われなくてはいけなかったと思い直す。
「どうしてだい? 僕達は許嫁なのに!!」
「え、えーと……」
ここだ。ここで嫌われるようなことを言えば良い。そうだな……。えーっとえーと!
「……臭いんです」
「は?」
「あなた臭いんですよ」
「臭い……だって?」
これはちょっと本当。いやお風呂にもちゃんと入って身だしなみはばっちりなんだけど、香水の匂いが少しばかり強いのだ。香りも重いし。
「お風呂にでも入って出直してらして!」
「くっ……」
ふう……これくらい言えば俺のことを嫌いになってくれるだろう。
『悠斗、よくやりましたね』
脳内にマイアの嬉しそうな声がした。だけど……。
「人にわざわざ嫌われるって、なんだか胸が痛い」
マイアの声に俺はそれに小声で答えた。それにしても俺は根っから平凡な平和を愛する一市民なのだなぁ。
『これで少しは好感度も下がるでしょう。断頭台に向けて一歩進みましたね』
「そうだね、断頭台に……って、え!?」
『しっ……取り巻きが見ていますよ』
「あーっと」
俺はツカツカと人気のない中庭に出た。
「おいマイア! 断頭台ってどういうことだ」
『え? 正ルートで、レオポルト王子がエマと結ばれたら邪魔者のシャルロットは断頭台送りになるんですよ? 言いませんでしたっけ』
「聞いて無い!! そもそもエマとくっつくのと断頭台ってどう繋がるんだ?」
『王子やエマに無体を働いた罪によって断罪されるのです。でも安心してください。首が飛ぶ前に私が責任を持って現実世界に復活させますから』
「うん……頼むよぉ……」
そうかぁ……シャルロットは処刑されるのか。気の毒に。まあゲームなんだけど。
『レッツゴー断頭台♪ ですよ』
「レッツゴー……って」
軽く言うもんだ。人ごとだと思って……。
俺は別に切られた訳でもないのに首元がぞわぞわして撫でさすった。
これで王子には嫌われただろうし、断頭台に向けて一歩前進ってことか。
複雑な気分だな。
「シャルロット! お風呂に入ってきたよ!」
「ひぇっ」
それからしばらく姿を消していたレオポルト王子は、俺の言葉を額面通り受け取って本当に風呂に入ってきたらしい。
そして遠慮なしに俺を抱きしめると、耳元で囁いた。
「香水も変えてみた。どうだい?」
それは濃厚な薔薇の香りからシトラス系のものに変わっていた。うん、こっちの方が好きだな……じゃなくて!
「むぐっ! むぐ! 離してください!」
「シャルロット。シャワーを浴びたら随分すっきりリフレッシュできたよ……。もしかして僕が最近疲れていることを気遣ってくれたのかい?」
「ち、違います!」
「はっはっは、シャルロットは恥ずかしがり屋さんだな」
こ、こいつ……もしや自分が否定されるなんて夢にも思ってないのでは!! はあー、これだけイケメンでしかも王子ならばちやほやされるのがデフォだろうしな……。
メンタル鋼すぎんよ。
『もーっ、もっとたたみ込むように王子に嫌われないとだめじゃないですか!』
とぼとぼとサロンを出た俺に、マイアは例のキンキン声で俺を叱った。
「無理だよ……人の悪口を面と向かって言うなんて……それに王子にそんな欠点も見当たらないし」
そうなのだ。あと、あの王子けっこういい奴だ。俺の無理矢理な指摘を素直に聞き分けるし。そんな王子に悪口を言い続ける根性は俺にはない。
『ううーん……何か王子の好感度を下げる地雷ポイントがあるはずなんですけどねぇ』
「悪口言われるとかではないんじゃないの」
『そうかもしれません。しかたないですねー。では嫌われ作戦は置いておいて、てっとり早くエマの魅力度をあげるのを先にしましょうか』
「ああ! そうしてくれ」
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