6話 エマ改造計画
ええい王子は後だ、とりあえずエマ。エマだ。俺は裏庭に直行した。
見るとエマは裏庭で花壇に水やりをしている。一度寮に戻って私服に着替えたみたいだ。その私服は飾り気のないみずぼらしいグリーンのドレスで、まるでおばあさんみたい。制服を着ている時よりひどかった。
「……エマ!!」
「わああっ」
エマは俺の姿を見た瞬間にその場を走って逃げ出した。
「待って待ってー! なんで逃げるの!!」
『……悠斗、自分のとんちきな行動を振り返ってみては、なの』
「あれでも必死だったんだよおおおおおっ!」
俺はエマを追いかけた。文字通り、人生がかかっているのだ。どうでもいいけどエマ、足早い!
「ぎゃんっ!」
俺は庭の小石に足を引っかけて盛大に転んだ。いってえ……。なんで俺がこんな目に遭わないといけないんだ……。
「ぐ、ぐすっ……」
何だか泣けてきた。ああ……俺の明日は……どっちだ!!
俺は涙ぐみながら地面を拳で殴った。
「痛ぁい……」
「だ、大丈夫ですか?」
いつまでも地面に突っ伏している俺を見て、エマが近寄ってきた。
「大丈夫じゃない!」
「ええっと……どうしましょう」
すっかり拗ねてしまった俺に、エマは動揺している。
「とりあえず起き上がりましょう……?」
「うん」
俺はエマに抱き起こされた。や、優しい……。こうして近くで見ると、エマの瞳って綺麗なグリーンなんだな。
「あれ?」
「な、なんですか」
「もしかしてコレ、度が入ってないんじゃあ」
俺はぱっとエマの眼鏡をとった。あれ、目元がぱっちりして可愛いじゃないか?
「やっ、やめてください!」
エマは俺の手から眼鏡を奪い返すと慌てて装着した。
「駄目なんです。……赤面症で、眼鏡をしないと……」
「えー、もったいない」
「もったいないって…?」
「いや……その……眼鏡がない方が……かわ……かわ……いい」
うーっ、俺は何を言おうとしてるんだ? その時、窓に映った自分の姿が見えた。
そこには豊かな金髪の美少女がいる。
ああ……俺はシャルロットだった。って言うことはこういうことを言ってもまったく問題ないということだ。
「そのままの貴女の方がかわいらしいわ」
「えっ」
エマが息を飲む。そしてその顔がみるみる赤くなる。
「そんなことありません! シャ、シャルロット様、悪い冗談を」
「そんな冗談を言ってなんの得が?」
「……」
俺のひと睨みでエマは黙ってしまった。すごいな、シャルロットの美少女っぷり。
『いいです……いまのいいですよ……悪役令嬢って感じです……』
「うわっ」
急に喋るなよマイア! 思わず声が出ちゃったじゃないか。
『このまま、エマを改造計画に引き摺りこみましょう』
「よしきた」
俺はそっとエマの手を取り、にっこりと笑った。
「貴女、よかったらわたくしのお部屋に遊びにこない……?」
『ああ、なんて邪悪な笑顔。出来るじゃないですか悠斗!』
マイアがこちゃごちゃうるさい。
「あ、あの……どうして?」
「わたくし、貴女と仲良くしたいの。駄目?」
「いや……駄目ではないですが」
「じゃ、決まり!」
よし、とりあえず自分の部屋にエマを連行することに成功したぞ!
「行きましょう」
「はい」
エマの気の変わらないうちに、俺はその手を引っ張って自分の部屋に向かった。
「あの……シャルロット様」
「何?」
「手、手を放してください。別に逃げたりしませんので」
「ああっ……ごめん! ご、ごめんあそばせ」
ギャッ! 必死すぎて女の子の手を握って歩いていることに気が付いていなかった。
「まぁ、お入りくださいな」
「はい……」
そうして中に入ったエマは息を飲んだ。うん、わかるわかる。
この部屋尋常じゃないくらい豪華だからね。
「私の寮と全然違います……!」
「ええ、そうでしょう」
同じ学校の生徒なんだから、こんな差をつけること無いとおもうんだけど、と俺はエマの言葉に頷いた。
ところがエマはサッと顔色を変えて俯いた。
「も、申し訳ございません。私のような者と同じ部屋であるはずがないのに……」
「かかか、顔をあげてくださいな!」
しまった。怖がらせるつもりは無かったのに。俺よりもずっと細い肩が震えている。
「と、とにかくお茶でもしましょう」
俺達が部屋に進み入ると、音も無くアンが近寄ってきた。
「ふふふ……シャルロット様、お帰りなさいませ」
まるで忍者だ。何者なんだお前は。
「うん。お友達をつれてきたから」
「かしこまりました」
俺は応接間のソファーにエマを座らせ、制服から着替えると向かいに陣取った。
「お茶をお持ちしました」
アンがテーブルの上に湯気の立つお茶とおいしそうなクッキーを用意してくる。
「いただきましょう」
「ええ……。あ、いい香り……」
紅茶の芳しい香りに、エマの顔がほころぶ。
「ええそうね」
俺は紅茶を啜りながら、じーっとエマを観察することにした。
さぁて、どこをどう改造してやろうか。
しまったな……もさくて冴えないのは分かるが男の俺ではどこをどう直せばいいのかわからん。
「あっ、素敵なお庭ですね」
「ええ、良かったら見ていって」
「はい!」
間のいいことにエマが庭に出た。
俺は素早く頭の中でマイアに話しかける。
「マイア、マイア! エマのどこを直したら魅力度を上げられる!?」
『それは……彼女に任せましょう』
「彼女?」
『ほら、すぐ後ろにいます』
俺が振り返ると、そこにはメイドのアンが居た。アンはなぜか不敵な笑みを浮かべている。
「アン……」
「シャルロット様、あのお友達なんですけど……」
「は、はい」
「なんですか、あの冴えない格好は……」
「そうねぇ。いい子なんだけど」
はっきり言うなぁ……。アンだって地味じゃないか。けどマイアがそう言うんだ、任せてみよう。
「あの子を綺麗にしてもらいたいんだけど、できるかしらアン」
俺がそう言うと、アンの目がギラリと光った。
「ほう……! お任せください、シャルロット様!!」
ドン、とアンは胸を叩いた。その表情は自信満々である。
これは期待できそうだ。頼んだぞ、アン!!
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