7話 鬼軍曹アン
「素晴らしい庭でした」
「そう、それは良かった」
にこにこと笑顔で部屋に戻ってきたエマ。こちらも準備万端、にこにこである。
「さあ座って」
「ええ」
エマがソファーに座る。その瞬間に俺はパチンと指を鳴らした。
「アン!」
「イェッス、マム!!」
ソファーの後ろからアンが躍り出た。その目は爛々としている。あらやだ怖い。
アンはばっとひっつめのエマの三つ編みを引っ張った。
「んっんー!? これは髪型がださいだけではなくて手入れもされてませんね!」
「キャー!?」
「それからお肌! もしかして何もしていないのでは? かさかさで吹きでものが目立ちます!」
「シャルロット様……助けて!」
「それに……なんですか、このドレスは? お母上のですか? いえ、このデザインはお祖母様のものでしょうか……! これはいけません! むむん!」
アンが立て続けにエマのもっさい所と指摘していく。なるほど、と思いながら俺はそれを聞いている。
「これはどういう……シャルロット様!!」
「えーと、あなたを綺麗に改造しようと思って」
「ええっ!?」
エマの顔に動揺の色が浮かぶ。
「わ、私はべつにこのままでも……」
「それはわたくしが困るの」
「えっ……なんでです……?」
「えっ……」
エマの疑問に俺は固まる。何でって……お前の魅力度を上げてレオポルト王子とくっつけるつもり……って言っても通じないか。
『悠斗、あなたのお友達に加えるからと言いなさい』
「……マイア」
『さあ、私に続けて』
「うん」
ここでマイアの手助けが来た。
『わたくしのお友達に加えてあげたいのだけど、そのままではあなたみすぼらし過ぎるからですわ』
「わたくしのお友達に加えてあげたいのだけど、そのままではあなたみすぼらし過ぎるからですわ」
「私をお友達に……?」
「ええ。わたくしと友達になれば、フラタニティへの出入りも自由だし、いいことが一杯ですわ」
「……」
エマはそれを聞いてしばらく考えこんでいた。
「でも、どうして私がシャルロット様の目に止まったのでしょう」
「ふん、余計なことは考えなくていいの」
「は、はい……」
すごいなマイア。こんなに感じ悪いのにエマが言うとおりになってしまった。
「ではあなたを改造することに同意してくださるわね」
「はい……」
こうして、エマの許諾も得てエマの改造計画が始まった。
「美は一日にしてならず!」
教官はメイドのアンだ。アンは心良く……というか食い気味に承諾してくれた。
「復唱ッ!」
「び、美は一日にしてならず!」
「声がちいさぁい!」
「美は! 一日にして! ならず!」
「はい。ではこれを」
アンは可愛らしい籠にいくつかの瓶を入れて持って来た。
「これは……?」
「シャンデルナゴール家御用達のサロンの特製美容品です。シャルロット様の美しさの秘訣です」
「そんな……いいんですか?」
エマがちらりと俺を見る。
「いーのいーの」
「さて、使い方をレクチャーしますよ! このヘアオイルは乾かした髪に使ってください。こう少量を手に伸ばして、揉み込むように」
「わぁ! いい香り」
「上質の薔薇の精油を配合してあるんです」
エマのひっつめの髪をとき、ヘアオイルを揉み込む。いい香りがして、エマの髪に艶が出た。
「量には注意してください。ベタベタになりますから……それにしてもこの髪、長さもバラバラ……一体どうしたんですか?」
「これは自分で切りました」
「はー……っ」
アンがさも呆れたというようにため息をつく。
「私に任せてください。少し切りましょう」
「えっ」
アンはいきなりクロスを広げると、エマの髪を切り出した。
すると、ぼわっと広がった髪がすっきりと、額に貼り付いていた前髪もスタイリッシュに決まった。
「こうして、少し結ってやるだけで全然違いますよ」
アンはさらに頭の上の髪をゆるく結い上げた。オイルで泥のようだった髪には艶が出て、それが生かされている。
「まあ……私、髪が多くてどうしようもないと思っていたのに」
「だからひっつめていたのか」
「ええ。うれしい」
エマがにこっと笑う。あ、笑うとえくぼができるんだ。可愛いな……。
「さて、これくらいで喜んではいられませんよ」
「は、はい」
「次は化粧水と美容液、そして乳液です」
アンはエマを怒鳴り散らしながら使い方をレクチャーしていた。
なんかマッサージしながら使えって俺も毎日怒られるんだよね。
「この美容液はニキビ用です。こっちはシミ防止。こっちはシワ防止」
「えっと、えっと」
女って大変だよな。俺は風呂に入ったらすぐに寝たいもん。
「はい、今日からこれでお手入れをしてください」
「分かりました……」
エマはグッタリしている。今日はこんなもんでいいかな。
「それじゃエマ。今日から毎日わたくしのところに来てね」
「は……はい……」
こうしてエマ改造計画の一日目が終わった。
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