2話 驚きのMAX状態
「……俺……んん?」
まず、口から出た高い声に驚いた。どうやらここは部屋の中のようだ。部屋の隅に鏡台があるのを見つけて俺はそれを覗きこんだ。
「うわ……誰だよ……」
そこには金髪で青い瞳をした美少女がネグリジェ姿でこちらを見ていた。クラスでは普通過ぎて存在感の無かった俺とまったく反対な感じだ。
『彼女がシャルロット・ド・アルヴィエ公爵令嬢、16歳。この学園のボス的な存在なのよ!』
急に聞こえてきた声に振り向くと、なんだか小さいものがふよふよと空中に浮かんでいる。これはもしかして……。
「……この声は、えーとマイ……マイ……」
『マイアーシュ。マイアで結構ですよ』
「マイア。学園ってなんだ?」
『そういう設定なのです。ここは貴族だけが入学を許された聖ブリリアント学園の学生寮ですなの』
なんだか小さくなったせいか舌っ足らずなしゃべり方だ。
「聖ブリリアント学園?」
『貴族に必要な語学、歴史、マナーなどを学ぶ施設ですよ。いわばこの国の小さな社交界とも言えるでしょうか』
そう言われて俺はあたりを見渡した。確かにベッドやキャビネットがある。それにしても……。
「豪華な部屋だな」
『ええ、彼女は特権階級の中でも特別な存在なのですよ』
ベッドは天蓋付きでふっかふか。カーテンもよくわからんふさふさがついていて高そうだ。家具にいたっては触るのもちょっと怖い。
「へー、いいとこのお嬢さんなんだな」
『それだけではありません。シャルロットはこの国の王子レオポルトの許嫁なのですよ』
「うわー大変そう」
『人ごとではありませんよ。あなたの任務はこのレオポルト王子との婚約を破棄し、男爵令嬢エマとの仲を深めることにあるのですから』
「げっ」
思ったよりやることあるんだな。俺は心から面倒くせえ、と思った。
『それより、そろそろメイドが来ます。しっかりしてくださいなの』
「えっ? メイドなんているの?」
『そりゃあみんな貴族ですから』
その時、ノックの音がして女の子が入ってきた。茶色の髪にそばかすがあるけど結構可愛い子だ。
『メイドのアンです』
「おはようございます。お嬢様。もうお目覚めだったんですね」
「あ、あっ……はぁ……」
「ではお着替えをお手伝いします」
「ええっ、一人でしますんで!」
俺は慌ててメイドのアンから距離を取った。子供じゃあるまいし着替えくらい自分で出来る! それに……裸……そう女の子の前で裸になるって事だろ? そそそ……それはまずいだろ。
ところがアンは座った目をして俺に言い放った。
「何言ってるんですか? 無理ですよ?」
「ひいいい……」
俺はアンにネグリジェをはぎ取られた。
「どああああ!」
ああ! 分かってたけどおっぱいがついてる! 俺はその時はじめて自分についてるおっぱいを見た。……けっこう大きかった。
それはそうとして俺はみるみるうちにアンにきっついコルセットを締められてドレスに着替えさせられた。
「ぐぎぎぎぎぎ……」
「もうっ、なんでじっとしてくれないんですかー」
「ごめんなさい……」
ようやっと着替えとヘアセットが終わって俺は解放された。なんか色々失った気分……。
鏡の中の俺はフリルとレースたっぷりのドレス……? これって制服なのだろうか。にしては派手だな……にくるくるの縦ロール。いかにもなお嬢様スタイルだ。
「では朝食に遅れないように食堂にいってらっしゃいませ」
「は、はい」
よろよろと部屋を出て、廊下に出ると途端にマイアの声がした。
『悠斗! ちゃんと令嬢らしく振る舞ってくださいっ! もっと尊大になの!』
「うう……わかったよぉ……」
キンキン声が頭に響く。なんだか体が小さくなった分、しゃべり方だけじゃなくて言動も子供っぽくなっていない?
その後、マイアの脳内ナビで食堂にたどり着いた俺はまたまた驚愕した。
「こ、これが食堂……? 高級レストランの間違いじゃねーの?」
自分の高校の食堂を想像していた俺には予想外の光景……。まっ白い壁に金の装飾。大理石のテーブルに猫足の椅子が並んでいる。
「シャルロット様! こちらですわー」
俺が声がした方を見ると、黒髪の女の子が手を振っていた。その横には明るい茶色い髪の子と眼鏡の赤毛の子が座っている。
『手を振っているのはシャルロットの取り巻きのカトリーヌです』
「取り巻き……そんなのもいるのか……」
『一号、二号、三号までいます。茶色い髪がグレース、眼鏡がソフィアです』
「はぁ……」
俺はしぶしぶとカトリーヌ達のいるテーブルに向かった。するとうるうると上目遣いにカトリーヌが俺を見上げてくる。
「もう、待ちくたびれましたわ」
「そう、ですか……ほほほ……」
なにこれすっごい疲れる。俺が内心冷や汗をかきながら席に着くと、後ろから声がした。
「今朝も麗しいな、……僕の小鳥」
振り返るとそこにはとんでもない美形がいた。艶めく長めの黒髪に神秘的な紫の瞳。スッと切れ長のその瞳が俺を真っ直ぐに見つめている。
「……どうした? 機嫌が悪いのかい?」
「いえ……」
「そうだ、いつもの朝の挨拶を忘れていたね……おはよう。好きだよ、シャルロット」
「ふあっ!?」
待て待て待て!! この王子は婚約破棄してエマって男爵令嬢とくっつくんじゃないのか!? 今好きっていってましたよ? あと小鳥とか言ってましたよ? 顔が良いから違和感無いのがすごい……!! 顔が良い……!!
「違う!! そうじゃなくって!」
俺は思わず自分の頬をばちーんとはたいた。乙女ゲーはした事ないけど、恋愛ゲームならちょっとやったことあるから分かるぞ。……なんでいきなり好感度カンストしてんだよ!
レオポルトはそんな俺の内心など知らないので、ただただ心配そうに俺の顔を覗き混んだ。
「どうしたのだシャルロット! わかったわかった。きちんと言わなくてはな」
レオポルト王子はそっと俺の手を取ると、低く艶のある声色で囁いた。
「……愛してるよ。心から」
「あっ、そうじゃなくて……」
「学業さえ修めればすぐにでも婚儀を行うのにな。残念だ」
やっぱりこの王子、シャルロットにべた惚れじゃないか。こんなのどうやって婚約破棄まで持っていくんだ……?
俺の心の中には特大の嵐が吹き荒れていた。こんな状態から一体どうしたらいいんだ?
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