【コミカライズ検討中】『悪役令嬢』という概念を理解してない俺のTS乙女ゲー攻略ライフ【pixiv賞受賞】
高井うしお
1話 乙女ゲーム『ブリリアントキャッスル』
悪役令嬢――。それは(主に)乙女ゲームや少女漫画の悪役として君臨するキャラクターであるとされる。
悪役令嬢、それは気高く。悪役令嬢、それは美しく。正ヒロインの当て馬として散り、時には断罪や追放など過酷な運命を背負った存在である。
****
『主人公のエマがこっちに来ました! それでは悪役令嬢らしく振る舞ってくださいなのよ!』
「悪役っぽく……悪役っぽく……」
俺は小さく頷くと、俺は目の前にいる男爵令嬢エマに通りすがりにおもいっきり肩をぶつけた。
「痛っ……」
貧相でひょろひょろのエマは俺のアタックで簡単に地面にスッ転んだ。俺はさらに精一杯ドスの効いた声で叫んだ。
「おおおおん!? どこ見て歩いてんだぁ? このチビがぁ!」
「ひいい!?」
『悠斗! それはちょっと違う気がしますなの!』
「なんでだよ? 悪役なんだろ?」
頭の中で慌てふためく声がする。思わず普通に返事をしてしまい、俺はハッとして口を押さえた。
「あの……どうしたんですか……?」
エマは不思議そうな顔でこちらを見ていた。俺は慌てて顔の前で手を振った。
「いやなんでもないって感じー? 気にしないでおけまるー」
『方向性が余計にとっちらかってますなのよ!!』
「うるさいよ、ごちゃごちゃ!」
はぁ……。なんで俺がこんな目にあっているかというと……。それはほんの半日前のことだった。
気が付くと、俺は何もない空間にいた。いや、何もないのならこうして手をつく事もできないのだろうけど。とにかく床は真っ白で、頭上は天井があるのかないのか目視できない。壁も同様でとにかくただ広い空間に俺はいた。
「どこだ……ここ……っていうか痛ぇ……」
「――あなたが椎名悠斗、ですね」
「そうだけど……ってあんたどっから現れた!? てか誰?」
突然した声に振り返ると、白いローブに身を包んだ女性が立っていた。
「私はマイアーシュ……この世界の案内人といった所でしょうか」
「案内……?」
そういえば俺はなんでここにいるんだろう。たしか遅刻寸前で学校の廊下を走っていて……。
「そこで転んで頭をぶつけたあなたは死亡しました。悠斗、そして貴方の魂はここに引き寄せられたのです」
「えっ、俺死んだの……?」
「はい、死亡しました」
そう言われても実感がない。血も出ていないししっかり手も足もついているし、なんだか妙に落ち着いている。
「それはそうですね。沈静の術を貴方にはかけていますから」
その女性は無表情のままそう言った。さっきからまるで俺の考えを読んでいるみたいだ。
「その通り。この空間では私には貴方の考えは筒抜けです」
「ひえっ」
「いいですか。私があなたの魂を引き寄せたのはとある依頼を全うしてもらいたいからです」
「……依頼?」
俺が怪訝な顔をして女性を見ると、女性は初めてにこりと笑った。
「これから貴方にはとあるゲームのキャラクターになってもらいます」
「ゲーム……? あ! それをクリアしろってか」
「いいえ、貴方にはそのゲームの主人公がハッピーエンドになるように動いて欲しいのです」
「ふーん、脇キャラになるのか……ハッピーエンドって事はなに? 恋愛ゲームとかなのか?」
「ええ、乙女ゲーム『ブリリアントキャッスル』通称『ブリキャス』の中の悪役令嬢シャルロットとして」
……今、なんて言った? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? 令嬢、って俺……男だぜ? 俺は耳を疑った。そもそも……。
「その……『悪役令嬢』ってなんだ……っ!?」
俺がそう言うと、その女性は大きく目を見開いた後、声をあげて笑った。
「ほほほ……この次はこういった趣向なのですね……わかりました」
「俺は何がなんだかわかんねーよ!!」
「今までのプレーヤーは皆、女性。しかもこのゲームの元愛好家ばかりでした。しかし……全員私の依頼を全うする事は出来なかったのです」
「……なんで?」
「皆、サブキャラと良い感じになるのに夢中になったり、はては自分がヒーローとくっついたり…………勝手に領地経営に精を出したり……手広く商売を始めたり……最近では特に何もせずに丁寧な暮らしを始めたり……」
そこまで言うと、その女性はきゅっと唇を噛んだ。
「ゲーム未プレイであり、男性の貴方なら……脇道にそれること無く、ヒロインをハッピーエンドに導けると思うのです」
「俺が……」
「そうです」
「――やだよ。それやって俺に何の得があるのさ」
俺は即答した。だって女になるんだろ……? それにもう死んじゃっているのならさっさと成仏させて欲しい。そう言うとその女性は苦い顔をした。
「……それではこうします。無事に依頼達成した際には蘇りを検討しましょう」
「えっ、ほんと!?」
「ですからお願いします。『ブリリアントキャッスル』の世界に旅出って下さい。貴方がこのゲームを未プレイという事を考慮して私もお手伝いをしますので!」
「しょうがないなー」
俺が頭を掻きながら一応了承すると、女は持っていた杖を振り上げた。途端にまばゆい光が俺を包み混む。
「それでは……椎名悠斗よ。貴方はこれから悪役令嬢シャルロットです。いってらっしゃい……」
その明るさに目を瞑り、光が収まった頃――俺は怖々と目を開けた。
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