第16話「奇跡の再会①」

【大門寺トオルの告白⑧】


 俺はヴァレンタイン王国『異業種交流会』会場に居る。

 

 そこで出会ったフルール・ボードレールさん、

 ボードレール男爵の娘さんで、仕事は聖女。

 冒険者ギルド総務部長バジルさんの姪っ子。

 

 容姿はスタイル抜群。

 顔も超美人。

 何となくリンちゃんに雰囲気が似ている俺好みの癒し系女子……


 更に偶然は重なった。

 彼女は、この後の食事会に参加するメンバーのひとりだった。

 何が幸いするか、分からない。

 全くの初対面なのにそういう奇跡的な共通項が合った為、

 フルールさんとはとても話が盛り上がった。


 でもさっきから俺の事をじ~っと見てる。

 変な感じかな、俺。

 ああ、大きな胸をつい凝視したのが……ば、ばれたかな?


 と、不安に怯えていたら……

 いきなり、フルールさんから声をかけられた。

 不意を衝かれて、思わずドキッとした。


「クリスさん、大丈夫ですか?」


「だ、だ、だ、大丈夫ですっ!」


 うわ!

 思いっきり噛んじっまった。


 そんな俺を見たフルールさん。

 ヤバイ!?


「クリスさん、さっきから……私の事をずっと見ていますけど……」


「…………」


「私って、何か変ですか?」


 うわ、ヤバイ。

 自分では気付かなかったけど……

 やっぱり俺は、フルールさんの事を変な目で見ていたんだ。


 凝縮された俺の不安がMAXに達しようとした、その時。


「ははははは、何か良い雰囲気じゃないか、君達」


「え? 伯父様?」


「うんうん、クリス君ならば、私もお前の母に自信を持って薦められる」


「ええっ?」


 戸惑うフルールさん。

 でも、さすが部長。

 俺の緊張感を解いてくれただけじゃない。


 それどころか、最高のアシストをしてくれた。

 

 凄く気が利く人だ。

 俺、貴方に一生ついていきますよぉ。

 ってな気分だ。


「と、いう事で、私はそろそろ失礼する。じっくりふたりきりで話すと良い」

 

 バジル部長は、グラスを持ち上げ、笑顔で乾杯のポーズをすると……

 俺とフルールさんを置いて、人混みに紛れてしまった。


「もう伯父様ったら……」


 いきなりの展開に、フルールさん、苦笑している。

 

 しかし、超が付く特大チャンスだ。

 ここまで部長にお膳立てして貰ったら、絶対に決めないと。

 フルールさんは俺の好みだし、性格も良さそう。

 彼女候補には申し分ない。


 そしてこんなことは、絶対に言ってはいけないが……

 もう二度と会えない……あの子に……とても似ているから。

 

「クリスさん、さっきの話の続きですが……何故、私をじっと見ていたのですか?」


 え?

 フルールさんったら、覚えていたの?

 もうその話題は変えましょうよ。

 頼むから。


 しかし、フルールさんが意外な事を言う。


「クリスさん」


「な、何でしょう?」


「私が変に見えるのは、確かかもしれません……」


「は? フルールさん?」


「実は今朝……凄くショックな事がありました」


「え?」


「だから……とても落ち込んでいるのです」


「凄く、ショックな事……ですか?」


「あ、いえ! 初対面の方には、お話しする事ではありませんよね?」


「…………」


「ああ、私ったら、……一体、どうしたのでしょう?」


 フルールさんは顔をしかめた。

 「余計な事を言って、しまった!」という表情をしている。

 

 そして、黙り込んでしまう。

 ……凄くヤバイ。

 このまま会話がぷっつり途切れた上、気まずくなって……

 この場限りでサヨウナラ……

 という可能性もある。

 大いにある。

 でもそれじゃあ、前世での失敗と全く同じ。

 単なる繰り返しじゃないか!


 何とか、話をつながないと。

 よし!

 ここは、『同じような話題』が良い? かな……


「じ、実は! お、お、俺も! け、今朝、ショックな事があったんです!」


「え?」


 ああ、俺は!

 よりによって!

 一体、何を言っているんだ?


 でも変だ?

 口が勝手に動いた?

 

 こんな事を言ったら、話がややこしくなるだけじゃないか。

 まさか、「気が付いたら……違う世界に居ましたよぉ」

 なんて口が裂けても言えるか! 


「ク、クリスさんもですか?」


 何故か、フルールさんが喰い付いて来た。

 対して、俺は、


「は、はい! とてもショックな事です」


 とまともに答えてしまった。


 ああ、何だ、これ?

 さっきから口が、勝手に動いて止まらない。

 

 まさか?

 誰かの魔法?

 んな、馬鹿な?

 俺は人から恨みを買うような事はしていないし、

 周囲を見ても、怪しい奴は居ない。


 だが俺の口は、己の意思に反して、止まらず……


「俺……いきなりアクシデントがあって、とても大切な人に会えなくなったのです」


「え? そ、それ……私もです……今朝とても不思議な事が起こって、凄く大切な約束が果たせなくなってしまったのです」


 ええっ?

 フルールさんも?

 それも不思議な事って?


 戸惑う俺だが、やはり口だけが止まらない。

 

「実は……俺のとても大切な人って……女の子なんです」


「女の子……」


「ええ、会った瞬間、運命の子だと感じたのですが……もう二度と会えなくなりました」


 俺は言い切って、確信した。

 そう、リンちゃんはやはり運命の相手だったと。


 しかし……

 俺の告白を聞いて、フルールさんはどう思っているのだろうか?


 不可解な事に、フルールさんは怒る様子もなく、

 俺の告げた言葉をゆっくりと繰り返す。


「運命の子……もう二度と会えない……」


「彼女とはたった一回だけデートをしました。俺の事を、お人よしねって優しく笑う顔が……とても素敵な女の子でした」


「…………」


「俺の話をいろいろ良く聞いてくれて、一緒に居て凄く嬉しかった、最高に幸せでした」


「…………」


「ごめんなさい。忘れようとは思っていました。もう取り戻せない過去の話ですから……」


「…………」


「だけど……やっぱり忘れられず……貴女を見て、つい、思い出してしまいました」


「わ、私を見て? その方を? お、思い出してしまったのですか?」


 ああ、聞かれた!

 というより、咎められた!

 も、もう駄目だ。

 折角、出会えたフルールさんとの出会いは滅茶苦茶に壊れてしまった。


 ここはもう謝罪するしかない。

 幸い、口は思う通り動いてくれそうだ。


「すみません! 凄く失礼な話ですよね?」


「…………」


 俺の謝罪を聞き、黙り込むフルールさん。

 と、またも口が勝手に動く。


「でも! フルールさん、貴女の声が……その彼女に凄く似ていたんです。仕草もそっくりだった」


 あああ~~、とうとう言っちゃった。

 決定的な言葉を!


 もう最悪だ。

 女の子を口説く時に、以前好きだった子を、引き合いに出すなんて。


「…………」


 やっぱり!

 ほら、フルールさんも、怒って黙り込んじゃったじゃないか。

 顔も伏せているし。

 ぶるぶると、身体まで振るわせてる。


 そして、フルールさんは遂に顔をあげた。

 彼女の目は……

 真っ赤になり、その上、涙がいっぱいあふれていたのである。

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