第15話「硬派? 否!」

【相坂リンの告白⑧】


 衝撃の事実が発覚した。

 目の前に居る男性は、王都騎士隊の副長で私が今夜会うべき相手だったから。


 全くの偶然とはいえ……

 バジル伯父から紹介されて吃驚した。

 よくよく聞けば、冒険者ギルドと王都騎士隊にはいろいろな関係があるという。

 

 例えば、騎士をやめた隊員が冒険者になりたいと希望した際、便宜を図るとかですって……

 

 規律がとても厳しく、一定の給金が決まっている騎士隊をやめ、

 いつでも、そして気楽に好きな依頼を受け……

 自由にたくさんお金を稼ぐ『冒険者』を選ぶ人も多いという。

 

 冒険者ギルドの総務部長を務めるバジル伯父は、騎士隊の中でも、特に副長のクリストフさんとは懇意にしていたらしい。


 クリストフさんとは30分後にどうせ会う事となる。

 気持ち良く合コンに臨む為に、更にその後の為にも、ここは堂々と、元気良く挨拶しよう。


「はじめまして! 私、フルール・ボードレールです。男爵ボードレールの娘でバジルの姪です。……職業は聖女です」


 するとクリストフさんも改めて丁寧に挨拶してくれる。


「こちらこそ、初めまして。バジル部長からご紹介があったかもしれませんが、改めて名乗ります。自分はクリストフ・レーヌです。爵位は子爵ですよ」


 ふうん……

 シスター達が噂していた通り。

 この人は子爵家当主なんだ。 

 でも、詳しく知らないふりをしておこうっと。


 私は改めて、クリストフさんを見る。

 結構いかつい強面だ。

 

 でも……結構、私好みかも。

 彼は顔の彫りが深く渋い雰囲気のイケメン。

 そして遠くから見ても分かる逞しい身体。

 法衣ローブを着ていても、のぞく二の腕は滅法太い。


 あれ?

 クリストフさんも私をじっと見てる?


 ああ、見つめ合う私とクリストフさん。

 何か、ドラマの1シーンみたい。

 今度こそ、運命の出会いって事? 

 

 そんなふたりを見守りながら、バジル伯父がいろいろ言っては来る……

 しかし私は緊張して、半分くらいしか内容が耳へ入らない。


 最近敷居が高くなっているのに、「私と会ってしょっちゅう話している」とか、

 「互いに噂をしていた」とか適当。

 否! 超が付くいいかげんな人!

 

 そして私達が「良い雰囲気だ」とか、「お似合いだ」とも、言ってる。

 どうせベタなお世辞だし、思い切ってスルーしちゃえ!


 一応、念の為、クリストフさんへ確認だけはしておこう。


「ええっと、レーヌ子爵様って、もしかして騎士隊の……あの有名な副長さん……」


「はい、王都騎士隊の副長をやってます。かしこまらず気楽にクリスと呼んで下さい」


「分かりました。じゃあクリスさんとお呼びします」


「フルールさんは聖女? じゃあ……もしかして、この後、宝剣の間で?」


 ああ、やっぱりという感じ。

 クリストフ……否、クリスさんは今夜の参加メンバーのひとりだった。

 じゃあ、私もはっきり答えておこう。


「はい! 私も食事会に参加します」


 こうなると、「なあんだ」という事で打ち解け、一気に話は弾む。

 

 まず思ったのは……

 『人の噂』ほどあてにならないものはないという事実。

 

 教会所属であるシスター達の間では、王都騎士隊の隊長と副長は超が付く硬派。

 女性に対しては奥手で、且つ武骨なタイプという噂だった。

 

 それが実際に会って話すと全く違った。

 『本当のクリスさん』は女性に対し、臆したりしない。

 加えて、物腰が柔らかく、丁寧な物言いで、気配り上手。

 

 彼はけしてバリバリの硬派などでない。

 うん!

 彼の真実の姿は良く分かった。


 ここでふとチラ見すれば……

 クリスさんが熱く私を見つめる様子に対し、満足げに頷くバジル伯父。


 よっしゃ!

 お見合いお勧め作戦は大成功!

 

 ああ……

 伯父の「どうだい」という誇らしげな表情が……

 そして、自宅へ戻ってから、伯母に向かって行うであろう、

 得意げなVサイン&ガッツポーズが目に浮かぶ。


 少しだけ「いらっ」としたが……

 まあ……

 それはどうでも良いとして……

 クリスさんと色々話していると感じる。

 

 この人は騎士という荒々しい仕事をこなす反面……

 とても優しく気配り上手な人なんだって。

 

 ん?

 優しく気配り上手な人って?

 ……何故か、クリスさんには、以前にどこかで会った気がする。

 だけど全く違う世界から、この異世界に来た私だから……

 以前、彼に会ったなどありえない。

 絶対に錯覚だと思う。


 更に聞けば……

 クリスさんは先ほどまで、騎士隊の後輩さんと一緒だったとの事。

 ひとりになって会場を流していたら……

 バジル伯父に会って話し込んでいたようだ。


 ちなみに聖女は騎士隊の遠征に同行する。

 シスタージョルジエットが、アランさんと知り合ったのもそう。

 

 でも、巡り合わせの関係で、フルールはクリスさんとは初対面だった。

 

 ええっと、もしかして……

 クリスさん本来の姿が全く違っていたように、

 シスタージョルジエットが非難するアランさんが、

 外道で鬼畜だという噂も大いなる誤解では?

 

 でも、ここで彼にアランさんの事を聞くのはいかがなものか?

 絶対に良い事なんかない。

 下手をすれば、詮索好きな『悪役聖女』のレッテルを貼られ嫌われてしまう。


 それよりも、私は自分の幸せを追う。

 もしかして、今度こそ運命の出会いだと思うから。

 

 異世界に飛ばされた不幸な私に、

 神様――この異世界では創世神様が加護を与えてくださった。

 職業柄、そう信じよう。

 否、確信したい!


 前世に残して来たトオルさんの事は、とても心残りだけど……

 もうきっぱりと諦め、前を向かなければならない。


 それにミーハーだけど、

 クリスさんの『副長』って肩書きも、いかしている。

 私、実は新選組・土方歳三副長様の大ファンでもあるから。


 さすがに……

 前世でのそんな趣味も、クリスさんに対しては言えないけれど……

 

 初対面と思えないほど、彼とは不思議に話が盛り上がり……

 パーティの喧噪の中、私は楽しいひと時を過ごす事が出来たのだった。

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