第14話「癒し系の彼女」
【大門寺トオルの告白⑦】
バジル部長を『伯父』と呼んだ女性は、優しく微笑んでいる。
でも部長を見て……
どうして、いきなり逃げようとしたのだろう?
まあ、いっか。
細かい事は。
と、俺がつらつら考えていたら、部長が彼女に何か囁き、改めて紹介してくれる。
「ちょうど良かった。紹介しよう、この子は私の姪フルールだ」
部長に目くばせされた、彼女……フルールさんは俺に笑顔を向け、
「はじめまして! 私、フルール・ボードレールです。男爵ボードレールの娘でバジルの姪です。……職業は聖女です」
へぇ!
爽やかな第一印象。
「はきはき」と元気な挨拶をする子だなと思う。
でもこの子……バジル部長の姪っ子さんなんだ。
俺もすかさず返事を戻した。
「こちらこそ、初めまして。もしかしたらバジル部長からご紹介があったようですが、改めて名乗ります。自分はクリストフ・レーヌです。爵位は子爵ですよ」
俺は挨拶をしながら、改めてフルールさんを見た。
か、可愛い!
す、凄く可愛い!
ええっと……
フルールさん、身長は結構あって160㎝半ばくらいか。
体型は「すらり」として足が長い。
うっわ!
華奢な身体に似合わない大きな胸。
明るい栗色のロングヘア。
切れ長の目に、綺麗な
目鼻立ちは、はっきりしていて
黒髪じゃないところを除けば、リンちゃんにとても良く似ている。
笑うと目が垂れてしまう癒し系で、首を傾げる仕草も。
それ以上に、声が凄くそっくりなんだ。
俺がフルールさんに見とれているのに気が付き、バジル部長が悪戯っぽく笑う。
「ふふ、彼があの、クリストフ・レーヌ君だ」
あの?
あの、って……
一体、何でしょう、部長。
その意味ありげな笑いは?
フルールさんも、微笑んで頷く。
「お噂はかねがね……」
だから、その『噂』って何?
凄く、気になるんですよ。
俺がそんな心配をしていたら、バジル部長がフォローしてくれた。
「クリス君は男気にあふれ、誠実な上、優秀な騎士だぞと、よく姪に話していたのさ」
ほっ……何だ。
女子に声かけまくりな『超軽薄合コン野郎』と、
陰口叩かれていなくて良かった。
まあ、俺トオルと違い、硬派なクリスならそんな事は言われないか……
俺が少し複雑な表情をしていたら、
可笑しかったのかフルールさんは、
「うふふふ」
と、口に手をあてた。
ああ、!
良いなぁ!
フルールさんの屈託のない笑顔に、俺は
笑うと、余計可愛い~
でも、外人女子なのに、声も雰囲気も本当にリンちゃんそっくりだ。
だから、フルールさんを見ると結構思い出して……辛い。
折角忘れようとして、立ち直りかけた矢先だから。
うん、ここは話題を変えよう。
さっきから気になっていた事があるから。
「ええっと、レーヌ子爵様って、もしかして……あの有名な副長さん……」
「はい、王都騎士隊の副長をやってます。かしこまらず気楽にクリスと呼んで下さい。フルールさんは聖女って? じゃあ……もしかして、この後、宝剣の間で」
「はい! 私、食事会に参加します」
おお、彼女は……
フルールさんは食事会、否、合コンのメンバーじゃないか。
じゃあ、彼氏居ない率がぐ~んとアップ?
これは大が付くチャンスかもしれない。
これってもしかして運命の出会い?
リンちゃんと離れ離れになった俺へ、この異世界の神・創世神様の加護が与えられた!?
本当に、こんなラッキーはそうない。
例えは正しくないかもしれないが……
捨てる神あれば拾う神ありって言うじゃない。
ありがたい!
俺と懇意なバジル部長の姪というのも、
フルールさんとの距離を縮め、親しくなるのに、追い風となるやもしれない。
これは……
リンちゃんと会った時よりもず~っと手応えがあるかも。
うん!
完全に吹っ切れた!
リンちゃんよ、俺の事を忘れてどこかの誰かと幸せになってくれと切に願う。
それに俺自身だってそう。
ブラック企業勤務で、貧乏リーマンの大門寺トオルより、
子爵家当主で将来有望な王都騎士隊副長クリストフ・レーヌの方が断然、有望株だもの。
こうなるとフルールさんとの話は弾みに弾む。
でも……ひとつ心配になった。
硬派なイメージで通ってるクリスが、
トオルみたいなナンパな男というイメージに変わっても良いのかと。
つらつら俺が考えていたその時。
「じゃあ私はこれで……後はふたりで話すと良い」
バジル部長は俺とフルールさんの橋渡しをした後、
満足そうな笑みを浮かべ、そそくさと去ってしまった。
おお、さすが部長!
凄く気が利く。
他人の幸せをアシストするばかりで、全くついていない人生の典型だった俺。
でも今は、追い風がびゅんびゅん吹いている。
もう!
この風に……乗るしかないっ!
せっかく知り合えた可愛いリンちゃんと離れ離れになった異世界転生なんて、最悪の不幸だと思っていたけど……
雨降って地固まるかな?
フルールさんの癒し笑顔を見ながら……
俺は来るべき幸せを確信していたのであった。
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