第11話「う~ん……」
【相坂リンの告白⑥】
迷宮の跡地というと理由から店名を名付けた、
『ラビュリントス』は王都でも指折りの超人気レジャー施設。
だから、お店の前は凄い混雑ぶり……
長い行列に並び、順番待ちをしながら、
シスタージョルジエットと話していたが……
いよいよ、私達の番。
さあ、いざ入店。
店の外見は少し豪華ではあるけれど、デザインは到って平凡。
ごくごく普通の建物にしか見えない。
まあ、それでも中世西洋風の趣きある建物であり、中二病の私は「うきうき」するけど。
しかし、中へ入ると……
真っすぐ突き当りに、迷宮の入り口をいかつく補修した重厚な石の扉が目に飛び込んで来た。
そう、この店は迷宮の真上に家屋を建てた形なのである。
来訪した客は入店して、屋内から迷宮へと潜るのだ。
ふと見やれば、「レンタル衣裳完備」とある。
何と!
希望者には有料で借用出来る、冒険者の職業別衣装も取り揃えられていた。
「気分は、迷宮探索をする冒険者!」
というのが、店側のキャッチフレーズであるらしい。
ちら見したら、フレーズ通りに派手&地味、
様々なレンタル衣裳がたくさんあった。
オーソドックスな戦士、シーフ、魔法使い、司祭などなどを始めとし、
王都騎士のユニフォームレプリカや上級職風のものもいくつかある。
種類は、鎧、
素材も、金属、革等々、好きなものを選び放題という感じ。
いくつかはサンプルとして、
マネキンやトルソに着せられ、ディスプレイされていた。
中には、趣味が悪く、いかにも安っぽい、『なんちゃって聖女』風の法衣もあるくらい。
これまた、中二病且つラノベが大好きな私としては、わくわくする品ぞろえ。
つい、念入りにチェックしてしまう。
食事会がなければ、ちょっと試着してみたいと思ってしまった。
今度、個人的に来てみようかしら。
な~んてね。
さてさて!
記憶と知識を手繰れば、ここは私が憑依したフルールが初めて来るお店みたい。
だから、話題のスポットだけあって、
異世界から来た私リンは、身体が自然に動き、
まるでおのぼりさんのように「きょろきょろ」していたようだ。
気が付けば、シスタージョルジエットと、シスターシュザンヌが、とうに中へ入り、激しく手招きしている。
「おう~い、シスターフルール、急いでくださぁい。魔導昇降機で降りますよ」
大きな声でいきなり呼ばれたので、少し慌てた。
でも
「了解です。じゃあシスターステファニー、行きましょう」
「ま、待って下さいっ」
結婚願望が強いというシスターステファニー。
立ち止まっていたのには
面食いらしく、入店待ちしていたイケメン男子を綿密にチェックしていたのだ。
そんなこんなで全員、魔力により動くエレベーター、魔導昇降機に乗り込む。
私達と他の客を乗せ、魔導昇降機はすぐに発進。
降下速度は結構速く、あっという間に、地下9階へ到着。
そして、扉が「すうっ」と開けば……
目の前はもう、レストラン『
見やれば『
明るくモダンなレストラン。
洒落た入り口扉は、大きく開け放たれていた。
既にたくさんの人々が参集しており、様々な衣装が目につく。
皆、ここぞとばかり気合を入れており、女性も男性も目一杯お洒落をしている。
私達は改めて、食事会の趣旨を再確認する。
話すのは当然、仕切り役の幹事シスタージョルジエット。
うわぁ!
真っすぐな正義感に燃えているのか、
それとも裁きのシーンを想像しているのか……
シスタージョルジエットの美しい目が吊り上がり、らんらんと光っている。
唇もぎゅっと噛み締められている。
……少し怖いよ、この子。
今夜の第一目的は……不埒な騎士(本当?)
アラン・ベルクールの証拠をバッチリ押さえ、公に告発する事だと改めて強調する。
でも……
単に話だけで終われば良いけれど、実行したらどんな結果になるのだろう?
教会のトップ、枢機卿までをも巻き込む、とんでもない事件になるのでは?
その片棒を、私が担ぐと思うと、とても気が重くなって来る。
だが……
同じ聖女として、協調性がないと思われてもまずい。
だから、敢えて反論せず、黙って頷いておく。
後は飲み会の作法や、聖女としてのたしなみ等をアピールされた。
そんなこんなで、ひととおり話がされた後、
シスタージョルジエットが、壁に掛かっている大型魔導時計を見た。
そして、全員へ告げる。
「ここで一旦解散です。主催者であらせられるフィリップ様のスピーチは必ず聞いておいてください……じゃあ午後7時少し前、店内にあるパーティ用個室『宝剣の間』で、待ち合わせと致しましょう」
宝剣の間……
それが店内にある、貸し切り個室の名前。
そこで、飲み会を行うのだ。
ええっと、再び確認。
待ち合わせ指定時間は……
午後7時少し前『宝剣の間』ね
うん!
……覚えた。
「では、皆様、復唱致します。午後7時少し前に宝剣の間へ集合ということで、それまでは自由行動です、折角トレンドスポットへ来たのですから、戦いの前に少しは楽しんでくださいね」
う~ん……
戦いって……もう……やだ。
私は、ますます気が重くなって来る。
片や、念を押したシスタージョルジエットはお澄まし顔で、
シスターシュザンヌと共に、人ごみへと消えて行った。
残されたのはまたまた私とシスターステファニー。
だけど……
「宜しいですか、シスターフルール。私も一旦失礼します、では後ほど」
シスターステファニーはこの自由時間を、彼氏作りの一環として、
最大限に活かすつもりらしい。
背筋をピンと伸ばし、軽快な足取りで、同じく人ごみへと消えてしまった。
こうして……
たったひとり残された私は……
全く知らぬ異世界のパーティー会場で、ぽつねんとしていたのである。
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