第12話「異業種交流会」

【大門寺トオルの告白⑥】


 俺とカミーユが入った、レストラン『探索クエスト』の店内は、ほぼ満員だった。

 ざっくり見て……

 男女トータル200名以上は、居るかもしれない。


 事前に立食形式と聞いていた通り椅子は無い。

 会場の数か所に大きなテーブルがあり、これまた大きな皿に盛られた、美味そうな料理がいくつも置かれていた。

 様々な酒が取り揃えられた充実したバーコーナーもあり、エールとワインは飲み放題らしい。


 そして、何と!

 片隅に小規模な楽隊が居て、おごそかな音楽を流している。

 何となく地球のクラシックに似た音楽だ。


 この異業種交流会は、やはり凄い。

 観察すると様々な身分、そして職業を持つ人々が混在している。

 

 え?

 皆、普段着じゃなく、ドレスアップしているのに何故分かるのかって?

 それは、雰囲気というか、バッチリおめかしはしていても、

 衣服に身分と職業が何気なく反映されているから分かるのだ。

 

 俺達のような騎士は勿論、貴族、商人、職人という堅気な人達、

 冒険者らしい戦士や俺達のような魔法使いも大勢居る。


 更に言えば、商人でも商家の裕福な者から、行商に近い人と千差万別。

 魔法使いだって、真っ当な雰囲気の者から、インチキ錬金術や死霊術でもやっているんじゃないかという、うさんくさく怪しげな奴も大勢居た。


 使用人っぽい人も結構居て、これは完全に転職希望か、就活だろう。

 執事やメイドっぽい人は、見れば、はっきり分かるもの。


 パトロン探しらしき者も多い。

 画家や吟遊詩人などの芸術系から、愛人系らしき美女まで様々であった。


 うわ!

 まさに、これって混沌カオス


 王宮の晩さん会とも違う、独特な雰囲気に圧倒され、若いカミーユは呆然としている。

 俺はリラックスしろというように、奴の肩をポンと叩く。


「じゃあ、カミーユ……俺達もここで、一旦解散だな」


「え? 解散? 僕、副長を、フォローしなくて良いんですか?」


 俺の物言いを聞き、カミーユは更にポカンとした。

 口を大きく開けて、締まりがない。

 

 心の中で俺は苦笑する。


 ほら、これから可愛い女子を口説くのなら、

 間の抜けた、だらけ顔をもう少し何とかしろって。


 先程まではむちでビシバシ、カミーユを叩いていたから……

 ここからは、少しだけあめをやろう。

 俺は優しく諭しながら、しっかりと約束させる。


「いや、お互い別行動にしよう……折角のパーティだ。がっつりチャンスを掴め」


「がっつり? チャ、チャンスをっすか!」


「ああ、良い出会いがあるといいな。但しこの後の食事会では、俺と一緒にジェローム隊長をしっかりフォローしろよ」


 俺がそう言うと、カミーユの表情が一変した。

 きらきらと目を輝かせている。

 前向きな、健康男子の顔だ。


「は、はいっ! 了解っす! 副長、恩に着ます」

 

「ははは、お互いに頑張ろう……あと、時間は厳守だぞ。良いか? 7時少し前に宝剣の間だからな」


「はいっ!」


 最後に時間を念押しすると、カミーユは直立不動で「びしっ!」と敬礼し、人混みへ突入したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 カミーユと別れた俺は……

 人混みの中を縫うように歩いて行く。

 皮肉だが、こんな時は騎士隊における日ごろの訓練が役に立つ。

 ほら、魔物の攻撃を避ける訓練とかさ。


 うろうろして来たら……腹が減って来た。

 でもこの後食事会があるから、満腹はNG。

 

 とりあえず……

 小腹レベルで、のどうるおそう。

 

 取り皿に料理を適当に盛って、ひと口、ふた口食べ、ワインを「きゅっ!」と飲んだ。


 アランから聞いている通りなら……

 そろそろ主催者であるフィリップ殿下が、開催宣言を行う筈である。


 そんな事を考えていたら、いきなり音楽が変わった。

 

 俺が注目していると……

 会場の一番奥に設けられている演壇に、

 30歳くらいの王族男性――フィリップ殿下が「のしのし」歩いて登場する。

 

 フィリップ殿下のご挨拶は、簡潔なものであった。

 こんな事は絶対に表立っては言えないが……

 長い挨拶が、顰蹙ひんしゅくを買うとご存じらしい。


 挨拶の内容といえば、

「良い出会いをして、親睦を深め、ヴァレンタイン王国の発展に寄与するように」

という話であり、終了直後に、乾杯の音頭が入った。

 

 俺もワイングラスで乾杯を行い、終わった後で、皆と一緒に拍手をした。

 

 「王家のお陰でこのような素晴らしい会が催されるのだぞ!」

 というアピール&デモンストレーションなのだろう。


 アランによれば、この『イベント』が終了後、『帰る』のは自由らしい。

 この後に食事会もあるし、当然俺は帰ったりせず、『活動』を本格化させる。


 こんな会合の場合、コツがある。

 まず、自分の友人か、知人を探すのだ。

 親しければベストだが、最悪、顔見知りでもOK。

 

 何故ならば、友人の友人は何とやら……

 プロフ説明が簡略化出来る。

 それに知人の紹介ならではの、メリットがある。

 初対面の人にも、身元がはっきりしていると、そこそこ安心して貰えるのだ。


 だが今夜の会合は王家主催の特別版だし、俺は初参加である。

 簡単に、知り合いなど、会えるわけがない。


 暫く歩いて周囲をきょろきょろ見たが……

 当然、知らない人ばかりだ。

 

 しかし!

 ふと見た先に、見覚えのある人が目に入った。

 思わず声が出る。


「ええっ? 何故ここに?」


「あ?」


 声を掛けられた相手も、吃驚して俺を見ている。

 同じ若い奴なら、俺もこんなに驚かない。

 

 周囲が若者だらけの会で、浮きまくる50歳過ぎの中年男が、目を丸くしているから。


 そこに居たのは……

 俺が騎士隊幹部として親交の深い、冒険者ギルドの総務部長バジル・ケーリオ氏であった。

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