第27話 足りなくても
食欲につられてしばらくは、がっつりと昼食の時間になってしまったが、一時間ほどで食べ終えた後、話し合いが行われた。
ユウ達が得た情報は事前に知らせてあるが、確認の意味合いも含めてこの場で説明にする事になった。
一連の話を打ち明けた際のそれぞれの反応は半信半疑の様だったが、ソフィが綴ってくれたメールや、情報屋がコンタクトをとった外……(エリザの父親である開発スタッフ)からのメールの存在が後押しとあって、信用されたようだった。
一番重要な事は、この世界をデスゲームにした張本人、クロソフィの居場所。
それは、ソフィから聞いてすでに判明していた
だから後は、元凶を排除するだけ。
出そろった情報の整理をした後は、作戦を立てて、討伐に臨むメンバー選抜の話し合いとなった。
重要人物認定されているユウとアルン、そしてとりあえずウィーダと「電光石火」のメンバー三人が真っ先に決まった後は、ジュリアやグラウェルの所のギルドなどなど。
他、有力なスキルや能力を持つ、高レベルプレイヤー達の選抜へ話が進んでいく。
後は……。
「お願いします、私も作戦に加えてください」
話がまとまりかけた会議の最後に、エリザがそのメンバーに名乗りを上げた。
「私もきっと何かのお役に立てるかもしれないんです。だから、連れていってください」
作戦参加への強い意欲を見せる彼女だが、それに対する周囲の反応は鈍かった。
代表して口を開くのは、参加の決まったギルドリーダーであるジュリアとグラウェル。
「でも、おねーさんはレベルが低いからきっと危険だと思うの」
「悪いことは言わねぇ、大人しく町で待ってるんだな」
そうなるのも当然の事だろう。
エリザはレベルもユウ達よりかなり低く、そして話を聞くに意識を失う前……三年前までは討伐系のクエストなどはあまり受けずにいたらしい。だから当然、戦闘経験も少ない。
そんな彼女を、危険な場所に連れていけばどうなるかは目に見えていた。
だが、そんな事はエリザも分かっているのだろう。
「でも、何もしないでいるのは嫌なんです」
エリザは沈痛な面持ちでそう述べてきた。
ユウとしては、何もしない事が悪であるかどうかと言えば、必ずしもそうではないと思っている。
人にはそれぞれ役割というものがあって、その人にしかできない事があるのだから。
そこで口を開いたのはアルンだ。
「参考までに聞きたいけど、自分のレベルの事は分かってるのよね。エリザはうちの馬鹿とは違って頭良いって思ってるから、そこは大丈夫だと思うけど……」
馬鹿の自覚があったウィーダが、背景から「おい」と突っ込みを入れているが、アルンはそれを無視して続ける。
じっとエリザの表情を見つめながら、真意を測ろうとする様に。
「どうしてそんな事思ったの?」
その問いに対するエリザの答えは、ユウの予想しなかったもの。
彼女は、己の視線を店の外の喧騒へ向けてから述べた。
「こんな事を言うのは変かもしれないけど、いいなと思ったからなんです」
「?」
その言葉に、疑問符を浮かべたのは質問をしたアルンだけではないだろう。
この場に居並ぶ他の面々も同じだった。
会話の意図するところが掴めないといった一同に向けて、エリザは自らの考えを整理する様にゆっくりと言葉を続けていく。
「ええと、お祭りに集まった人達を見て思ったんです。……今この世界で戦ってるのは、ごく一部の凄い人達だけじゃないんだって。見ていれば弱い人も、強い人も、色んな人が色んな所で頑張ってるんだなって分かってきて。そういう関係がいいなって思ったんです」
だって、とエリザは続ける。
「弱い人を足手まといだって……使えないなんて思う人なんて今のこの世界にはいないように見えるから。守ってあげた分だけ元気を分けてもらってるこの景色が、とても素敵に思えたんです」
それはこの世界で穏やかなプレイスタイルを貫いてきた彼女の経験や過去から出てきた言葉なのだろう。
「私、ええと……採取クエストばっかりでレベル上げとかしてこなかったんですけど、そういうの……今とは違う逆の景色を見ちゃったからなんです。弱いから前に出てくるなって言われて、戦闘が嫌になっちゃって」
ユウや他のプレイヤー達は、あらためて視線を店の外にある景色に向けた。
おそらく、この数日間必死だったから、みな意識して深く考えた事はなかっただろう。
外にある景色は、成り行きのものだ。
そうしようとして考えて作ったわけでもない、意図して出来上がった物でもない。
けれど、エリザにはそう見えたらしい。
ここにあるのは良い光景なのだと。
勇気を出すに値する価値あるものなのだと。
誰もが役割を持って、過ごせているというそんな風景が、穏やかな気質を持つ彼女の心を動かしたのだ。
ユウ達はただ被害を少なくしようとしただけで、最善の行動をとろうとしただけだ。
結果的に、上手くやれてる現状があるだけ。
これが絶対的に正しいという考えも、強い信念などもないというのに。
「守りたいって思ったんです。他の人に言われた事なんか、他の人の目なんか気にせずに。この景色を守るために、もう一度立ち向かいたいって。でも弱いのは分かってますから。どうしても無理なら、身を引くつもりです。恩人である皆さんを危険な目には遭わせたくないですから」
つまりエリザは全てを分かった上で、自分にもできる事がないかとそう名乗り上げたのだろう。
レベルも経験も足りない事も重々承知で。
その彼女の姿が、いつかのウィーダの姿と重なった。
あのギルドリーダーも、何もかもが足りない状況で、守りたい何かのために立ち上がった。
「困らせてしまったのなら、ごめんなさい」
頭を下げてエリザは話題を終わらせようとする。
だが、ユウはそんな彼女に向けて言葉を発した。
「いや、仕事ならある……かもしれない」
歯切れの悪い台詞で。
はっきりと役に立つと決まったわけでもない。
利益が必ずもたらされるわけでもない。
それでも、エリザの想いに応えたいと思ってしまったら、声を上げていたのだ。
ウィーダと知り合った時と、似たような流れだった。
彼はNPCを守るために、ライフ全損とデスペナルティ(死亡にかかる所持アイテムのロストや経験値マイナス)の覚悟を背負って、自分達よりはるかにレベルの高いモンスターに挑む事になった。
デスゲームでなかった頃は命の危険こそなかったが、その代わりゲーム内で死んだら、レア装備やアイテムをその場にドロップしてしまうし、苦労して貯めた経験値も減少してしまう。
その後の活動やレベル上げを行うにはかなりきつい状態で、誰も自らそんな目には進んで遭いたがらなかった。
けれど、ウィーダは足りない現状を乗り越えて、不可能を可能にし、限界を突破した。
その時の事を思い出したユウは、思いついた事をエリザへと告げていく。
「情報屋から送られてきた破損メールの解析を頼みたい。外の開発スタッフが俺達宛てに送ってきたものだ。だがどうやら特定の事柄に対する内容のものは、敵の監視をすり抜けられないようになってるらしい。妨害をうけて、断片しか残っていなかった」
エリザの親が、壁の落書きなどの限定的な干渉しかできなかったのはそこら辺に原因があると見ていたので、彼女にその件を任せようと思ったのだ。
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