第26話 祭りばやしを聞きながら



 あの後。

 クロソフィの居場所について尋ね、事態を解決する為のこれからの事をソフィと話した後、彼女の権限によってユウ達は町へと送ってもらった。


 そしてすぐにその時あった事を他のプレイヤー達にメールで報告。

 それからは早急に次の予定が組まれて、次の日の昼前に広場で定期的な会議を開く事になった。


 この日の午後も大勢の未帰還者達が保護され、ミントシティにやってきたようだ。

 元々デスゲームの不安が渦巻いていたこの町に、だ。

 元未帰還者の視点では、数年後の未来でデスゲーム世界にいきなり放り出される形となる。


 彼らの不安は相当なものだろう。

 何がどう作用して、騒動へ繋がるか分からなかった。

 だから、一つの手が打たれた。


 そっとしておくという案もあるにはあったのだが、ゴンドウたちが異を唱えたらしい。

 もうじきデスゲームがはじまってから一週間が経過するという事もあって、町に閉じ込められているプレイヤー達の息抜きをさせようと、大規模な交流会が企画される事にもなった。





 六日目


 交流会。といえば聞こえはよいが、実質は祭りのようなものだった。


 町の広場から離れた場所では屋台が軒を連ねる事になり、昼前にはすでに相当な人の賑わいがあった。


 公園には飾り付けの為に、夜になると光る花「錬成アイテムの夜光花」が植えられているので、もしかしたらよるもこのままで一日中騒がせるつもりなのかもしれない。


 ストレスを抱えない為にと、例によってゴンドウ達が立ち上がり、大勢の協力者達をつのって気合をいれていたせいなのか、建設された屋台やら櫓やら見世物舞台やらはかなり本格的だった。


 大部分は錬金術で作られたものだが、どこの世界でも芸術関係に秀でた人間はいるもので、数時間もあれば本物さながらのセットが組み上げられる事になった。


 そんなものだから、昼近くになるとかなりの混雑具合になってしまっている状態。

 そのまま会議を始めるのは支障がでそうなので、急遽町のNPC経営レストランを貸し切りにしなければならないほどだ。


 普通のちいさな店などでは貸し切りにして占領する事ができないのだが、一定以上の規模がある店でなら可能なのが救いだ。


 町の中で待機していたプレイヤー達は鬱憤が溜まっていたのだろう。

 広場は、デスゲームが始まる以前の活気よりもさらに賑やかしい雰囲気で満ちていた。


 今日の会議の内容次第では、彼らの我慢もあと少しとなるはずだ。

 

 その為にユウも、表情に出ないものの気合を入れてその場に臨むのだが……。


「このお料理美味しいの。うまうまなの。エリザも食べるの、おにーさんもほらほらどんどん食べてほしいの。このお店のおすすめだけあるの」

「ジュリアちゃん、お料理こぼしてますよ。拭いてあげますからじっとしててくださいね。えっとお手拭きあるかな……」


 目の前の宅に同席する者の内の二人が、そういう空気でなかった。

 ジュリアの正体を知らないエリザが、年下の妹にする様に世話を焼いて、仲睦まじく話に花を咲かせている。


 昼前で貸し切りにしたという手前もあって、空席のテーブルを占領しているのも通りから見るとおかしいだろうと料理を頼んだのだが、おかげで肝心の話し合いが後に流れていってしまっていた。


 現実と違ってこの世界では、満福になったら眠気に襲われるという事は無いのだが、気合を入れていただけ足踏みした感覚が虚しい。


「……」


 意気込んでいた内心をどこに置いとこうか迷っていると、隣の卓につくウィーダが話しかけていた。


「ん? どうしたんだ、ユウ。食わねぇのか?」

「あんたねぇ、ユウ様はどっかの馬鹿と違って、楽観的でも向こう見ずでも考え無しでもないの。察しなさいよ」

「何だよ。どっかの馬鹿って。それ俺の事言ってるんじゃねーだろうな」

「この流れはあんたしかいないでしょ。その脳みそは目の前の料理食べる事しか頭にないの!? いつもより鈍くなってるわよ!!」


 食事時でもやかましいギルドメンバーのやりとりは、右から左へと流す事にした。

 ユウは彼等へ向けていた視線をそらして店内を観察する。

 主要なギルドの主要なメンバーしかいないが、町中ですれ違う時よりはみないくらか表情が柔らかい気がした。


 おそらく祭りの雰囲気が影響しているのだろう。


 これからの事を考えて気難しげな表情をする者もいたが、おおよそは食事を楽しみものや、雑談にふけるものが多かった。


「ユウさん」


 そんな風に他のプレイヤーを眺めていると、隣から声が上がる。

 エリザだ。


「どうかしたのか?」

「いえ、問題は何もないです。そうじゃなくて……」


 何かあったのかと考えてみるが、特に彼女の周辺で問題が起きたようなそぶりは見えない。

 なら、何が……。

 と起こりうる問題のケースを頭にいくつか浮かべたが、そのどれでもなかったようだ。


 彼女がしたかったのはただの会話らしい。


「何を考えてたのかなと思って。その、ユウさんが気難しそうな顔をしていたから」

「大抵そんな顔だ」

「そ、そうですか」


 ユウの表情は喜怒哀楽の変化に鈍感に出来ているのか、何か良い事があったとしてもそう簡単に心情通りにならないらしい。

 特に不機嫌でなくとも不機嫌そうにみえるので、こういった状況に交ざっていると違和感があるとも言われる。


 そのまま会話を終わらせるのもどうかと思ったのか、エリザがまた話かけてきた。

 もしかしたら、これからの話に加わる事を考えて緊張しているのかもしれない。

 ならば、慣れているユウが相手をしてやるのは仕方ない流れだろう。

 幸いにして、彼女と話をするのはあまり苦にはならない。


 賑やかしいメンバーばかりが近くにいたため、彼女の様な物静かなプレイヤーと話すのがいい気分転換になるのだろう。


「ユウさんはギルドリーダーではないんですね」

「リーダーはあいつだ。よく間違えられる」


 視線で示すのは当然ウィーダ。

 だが、戦闘時でも日常でも指示だしがユウがよくこなし。

 役割の関係で、エリザが思ったような勘違いをされる事が多いのだが、ユウはただのメンバーに過ぎない。


「こんなに大勢の人を集めたのに、何だか不思議です」

「そうか」


 初対面の人間からはどうやら、俺達の関係は奇妙に見えるらしい。

 だがユウ自身は今の立ち位置に納得している。


 そもそもユウがリーダーでは人を引っ張っていくほどの求心力を発揮できないので、これがベストなのだろう。

 リーダーには計算ではどうにもならないカリスマが必要なのだから。


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