第23話 イコライザの神殿



 イコライザの神殿


 この世界に閉じ込められて、五日目になった。


 これまでの調査の大きな成果は、かなりの数の未帰還者を保護する事に成功した事だろう。

 その中でさりげなく聞き取り調査を行ったが、開発スタッフを父親に持つのはエリザだけだった。

 しかし娘となるエリザは、オンラインゲームの中とはいえ意識を取り戻しているの。それなのに、デスゲームが終わる気配は一向にない。


 やはりソフィというAIが裏で糸を引いている線が濃厚となってきた。


 だとすると、未帰還者の目覚めがゲームクリアに繋がるという情報はフェイクだったのだろうか。


 とにかくユウ達は昨日に決めた通り、ユウ自身がデスゲームの計画を知る事になった場所……隠しマップを探す事になった。

 情報屋から未踏マップの情報を買えるだけ買って、転移アイテムや町にある転移装置を使いながら、有力な場所から調べていく。


 ユウをマップに導いた人間は、デスゲームの裏の意味を考えればソフィと言う事になるが、果たして推測は合っているだろうか。






「しっかし、驚いたな。ジュリアのとこのトーヤってやつがこの世界で最強のレベル195プレイヤーだったなんて」


 いくつかの有力候補マップ、古代に巨大種族でも利用していたかのような巨大神殿イコライザの中を歩きながら、ウィーダが昨日の事を思い出しながら喋る。


 そんなウィーダの言葉を聞きつけたアルンが話し出して、いつもの会話の流れが始まった。


「そうね。でも昨日見たけど、あんたと違って節操無しの女好きなんかじゃないし、礼儀正しかったわよ」


 ちなみにエリザはギルドホームで、ジュリアのところの信頼出来るプレイヤーについていてもらっている。


「誰が節操無しの女好きだ」

「あら、そう思われてる自覚あったのね」

「それぐらい分かるわっ、馬鹿にすんなっ」


 巨大神殿は天井も高くフロアの大きさも相当だ。

 声を上げれば、かなりの距離響くので、周囲にいるモンスターが数体いればそれらから一斉にターゲットにされかねない。


 マップを見るに、ここに住まうのはおそらく巨大モンスターだろうから、戦闘で勝つのも一苦労だ。


「巨人達に包囲されてに踏み潰されたくなかったら、静かにしろ」


 だから、ユウがそんな風にいつものように窘め説明すれば……。


「「ごめんなさい」」


 二人が同時に謝罪の言葉を返した。








 調査を進めていけば、まもなく全長10メートル程はありそうな一つ目の巨人「サイクロプス」に出くわした。


 戦闘になると面倒なので、「隠密の外套」という錬成アイテムを使って切り抜けていくが、奥に向かうにつれてモンスターの数が多くなり、状況が厳しくなった。


「隠密の外套」はその名の通り、身に付ければ気配を遮断する事が可能。モンスターなどから発見されにくくなる効果がある。


 敵に見つかりたくない場合、ひそかに移動するのにはうってつけのアイテムだが、敵と接触した場合はその限りではなかった。

 モンスターやプライヤーなどに触れたら、隠密効果が消えてしまうのだ。


 こういった場合では、それはかなり危険な状況になるだろう。

 いかにライフポイントが固定されていると言っても、モンスターに包囲されれば動けなくなるし、連続攻撃をされている最中は待機時間を消化できないのでアイテムが使えない。


 助けを呼んで何とかしてもらおうと思っても、事前に調べた一つ目の巨人のレベルはかなりのものだった。


 他のプレイヤーが簡単に撃破できるとは限らないし、そのプレイヤーもこちらと同じような危険に晒してしまいかねない。


 今回は自分達だけで何とかしなければならないのだ。


「なるほど、結構この状況って難しいんだな」

「ああ」


 遺跡の柱に隠れながらな仲間と小声で相談する。


 視線の先にはかなりの数の巨人。


 アルンががこちらに尋ねてきた。


「ユウ様ぁ、どうしますぅ?」


 次いでウィーダも。


「レベルは俺達よりも少し下っぽいけど、体力は結構ありそうだ。あんな奴いちいち相手してたらキリがないぞ?」


 彼は、柱から顔を出しながら、面倒くさげな視線をモンスター達へと向けている。


 ユウは数秒だけ思案した。


 モンスターのステータスは、アルンの自動発動スキル……ライブラリで確認済みだ。

 ウィーダの言う通りレベルはこちらより多少低くて、体力が多い。


 細かな事を言うなら、筋力地や俊敏性が高く、動きが軽い事も特徴にあげられるだろう。

 戦闘になるのはやはり避けるべきだ。


 だが、この先に進まなければ情報は得られず、状況は進まないまま。


「モンスターを一か所に集めて、その隙に突破する」


 なので、ユウは多少の危険があるものの、道具を駆使して先に進む事を選択した。

 

 ここで退いてもまた来なければならない事は明らか。

 ならば知恵と工夫を働かせて調査を続けるしかない。

 状況がマズくなったら、どうにかして無限ダンジョンの時のように転移アイテムで逃げるしかないだろう。


「このマップ、イコライザの遺跡の特徴は……建築物が巨大で一つのフロアが仕切られておらず広いという事。サイクロプスの索敵能力の範囲はそう広くはなく、身長と同じ分だけ……十メートルだ。それ以上離れれば認知できなくなる」


 だから、自分達から十メートル以上離れた場所に、どうにかしてアイテムでサイクロプスたちをおびき寄せ、釘付けにしておく必要があった。


 そこまで言えば出番到来とばかりに、アルンが目を輝かせた。


「じゃあじゃあ、あたしの出番ですね!」


 状況突破の立役者として立候補したアルンがスキルで錬成したのは、一角獣の角と虹色にじいろ花粉を使って作った「煌々こうこうのコーン」だった。


 交通整理などで道に置かれる三角錐の赤いコーンを光らせたようなもの、と言えば分かりやすいだろう。


 ウィーダが「〇んがりコーンじゃん」とか言いながら、指にはめて食べるおやつに似ていると言ってたが、生憎ユウは食べ物で遊ぶ趣味はないので、そんな物は知らない事にした。


 アイテムの効果は、モンスターの注意を一定時間引き付ける事。

 作り出したそれをアルンがウィーダに指示して、さっそく遠くへと投げつけさせた。


「おりゃっ」


 いきおいよく投げられたコーンはちょうど、サイクロプスたちの密集地に落下。

 綺麗に床に接ししたそれは、一瞬後……自身の輝きで巨大遺跡をまばゆく照らし出した。


 視線の先では、交通整理のコーンが光りを放ち続けながら、モンスター達を移動させている。

 そんな光景を見たアルンが微妙な表情になって呟いた。


「作った私が言うのも何だけど、シュールよね」

「だな」


 ウィーダも右に同じく、と発言。が、のんびり眺めていられる状況ではない。


 サイクロプスたちが集まったのを見て、ユウ達は急いでその場から移動し、奥へと向かった。


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