第22話 攻略の手がかり
メールで把握した情報をまとめる。
他のギルドからの報告では、各地で未帰還者達が見つかったという話だ。
発見された彼らの記憶は、大体エリザの話と同じようなもので、声を聞いて、その瞬間意識が暗転……気が付いたら時間が飛んでいて、見知らぬ場所に放り出されていたという事だ。
声については聞き取り調査によって、皆が聞いたものが共通した声音だったと分かった。
未帰還者達が耳にしたのは、年下の……幼い少女の寂しげな声、だったらしい。
朝食の場でそれをメンバーに話すと、アルンが「やっぱり」という顔をした。
デスゲームクリアの条件。
未帰還者を保護。
各地で見つかった未帰還者達。
三年もの間行方の知れなかった者が、なぜ今のこの世界に現れたのか。
話し合うべき事は山のようにあった。
ミントシティ 広場
何度か集まりが開かれたその場所にウィーダと共に向かうと、すでに主な参加ギルドが揃っていた。
初日より人数が少なく見えるのは、例によって会議不参加組がフィールド調査を続行しているからだろう。
仕方ない。
現状把握は大事だし、碌に現状を把握していない未帰還者を放置するのが危険なので、フィールドに出て早期に保護する必要があった。
広場に踏み入れたユウを、見つけた者がいる。
ジュリアだ。
小柄な彼女が、軽い動作で駆け寄ってきた。
「大変なの、各地でたくさんの未帰還者達が発見されたらしいの」
そして、すでに知れている事情を声高々に発言しながら彼女は周辺を走り回る。
小さな体格の少女ジュリアそう言いながら、兎がぴょんぴょんとはねるような動作。
こんなデスゲームの世界で、その元気さは周囲の者達のモチベーション上げに一役買っているようで、彼女のギルドメンバー達は、微笑ましそうな視線をそっと向けていた。
ジュリアは、「アイドル人気でギルドメンバーを引っ張ている」と以前アルン伝てに聞いていたのだが本当の様だった。
初日や今までは緊張感が残っていたようでしっかりしていた様だが、四日目にして周囲の者も本人も現状にそこそこ慣れたのだろう。
そんな事をこちらが考えているとは知らないジュリアは、なおも飛び跳ねながら説明してくる。
「うちのギルドメンバーのトーヤ君とかミーシャちゃん達が、たくさん発見したらしいの。でもやっぱりおにーさんがメールで知らせてくれたエリザちゃんみたいに、三年の間の記憶がないらしいの。これってつまりどういう事なの?」
「さあ」
その分からない事を話し合いにきたのが、この交流の場だろうに。
こてんを首を傾げるジュリアの愛らしい仕草に、周囲が歓声を上げたり射抜かれたりしているので、そんな様子はわざとなのかもしれない。ユウ達と一緒のギルドにいた時はここまで天然っぽくなかった。
ギルドリーダーも大変だ。
まさか、これが素ではあるまい。
広場を見回すと、見知った顔の他に未帰還者らしき人物達の顔が数人見える。
彼らは興味深そうに各所を見まわしながら、同じ境遇の者達と話しあっている。
ミントシティも三年の間に、町の各部の細かな所が変わっているので、自分の記憶にある町の姿との違いが気になるのだろう。
ユウがそんな広場の様子を観察していると、ジュリアが思い出したように声をあげた。
「あ、そう言えばレッド何とかさんのギルドを木っ端みじんにして懲らしめたって聞いたの。そっちはトーヤ君達が処理するみたいだから、後の事は任せてほしいの!」
「そうか。助かる」
話題に出されたのは、昨日関わったいざこざだ。
大した事がなかったので、真面目に忘れかけていた。
決着してしまえば、それほど強かったわけでも手こずったわけでもなかったのでしょうがないだろう。
奴等が町の住民達に与えたストレスが唯一気がかりではあるが、ユウ達が鐘に縛りつけたのを見ると、すっきりしたような顔で時計塔の上の方に中指を立てていたので、それなりに大丈夫だと判断するしかない。
連中のこれからの事にユウ達が関与する気はなかった。
下手な小ギルドが後始末をするより、そういったいざこざに接っする機会が多かったはずのジュリアに任せておけば、おかしな事にはならないはずだ。
会話がひと段落した頃に、離れた所で歓声が上がった
それにつられるように視線を向けてみると、別行動をとっていたウィーダがいつものように女性達に絡まれていた。
「ねぇ、ウィーダ君、私の話聞いてる?」
「あ、私の話を聞くのが先よ」
「違うわよ、ちょっと貴方。独占しないで」
その輪の外では、グラウェルが顔を赤くして激怒していて「モテるからって良い気になるなよ、この色魔」とかつっかかろうとしている。……が輪に近づこうとするたびに女性たちに蹴飛ばされているので、彼の努力が叶うのは当分先だろう。
最近変な男に僻まれているとか聞いていたが、ひょっとしたらグラウェルがそうなのかもしれない。
「俺の彼女だって、お前にメロメロなんだよチクショウ。少しはそのオーラ抑えろよっ!」とか泣きながら喚いている所を見ると、その線が濃さそうだった。
ついこの間はジュリアに気があるみたいな態度をとっていたが、守備範囲が広いか思い込みが激しいのかどっちかなのもしれない
「そんなの俺に言うなよ。俺だって好きでこうなってるわけじゃねぇ!」
「く、勝ち組だから言えんだ。ばーか、ばーか死んじまえ変態野郎!」
「誰が変態だっての。言いがかりつけてんじゃねぇよ、こら」
顔を真っ赤にしてウィーダに突っかかるその様子は、まるで路地裏にたむろしているチンピラにしか見えなかった。
よくそんな器で、一大ギルドのリーダーになれたものだ。
それについてはユウでも本気で分からなかくなった。
近くにいるジュリアに問えば、「そこが面白くて良いの」と言われたが。
ユウが理解できないだけなのだろうか。
色摩騒ぎをBGMに聞きながらジュリアとしばらく世間話していると、ギルドホームにいるはずの白髪の少女が声をかけてきた。その傍にはアルンもついている。
「あ、あの……」
話しかけてくるのは、ギルドで休んでいるはずのエリザの方。
その顔色は、昨日よりは多少良くなっているが、まだ疲労を残っているのが見て分かる状態だった。
「気が変わったのか?」
「実はまだ、何が起こっているのかよく分からないんですけど。でも、やっぱり何もしないでいる方が色々考えちゃって、こちらに来てしまいました。迷惑でしたか?」
「いいや」
本人の気のすむままにしたらいいと思っている。
できる事をこなして気がまぎれると言うのなら、こちらは力を貸してもらいたい。
ユウは念の為に仲間の一人の声をかけておく。
「アルン」
「はーい、無理しないようにちゃんと見張っておきますぅ。任せてください!」
元気の良い了解の言葉を受け取った直後。
メールが届いたのが分かった。
「……」
開いてみると数ある伝手のひとつ……情報屋からだった。
外部と連絡が繋がった事が書いてあって、未帰還者の中に開発スタッフを親に持つ者がいるという事実が書いてあった。
これでデスゲームを企画した人間は、開発者だという可能性が高くなった。
なら、未帰還者をこの世界に留めた犯人は、やはりアルンの言うAIソフィなのか。
その話をジュリアに話してやっていると、エリザがおずおずと手を上げながら声を発っした。
「あ、それもしかしたら、私の父かもしれません。父がゲームの開発者なので……」
エリザは「他のプレイヤーさんにも開発スタッフの両親がいるかもしれませんけど」と自信なさげに付け足すが、そんな偶然そうそうあるはずない。
これは、偶然ではないのかもしれない。
ユウにヒントを与えた者の存在が頭によぎる。
もし協力者がいるのだとしたら、攻略に貢献している者達の元へ未帰還者を導くくらいの事は出来そうだ。
「……」
無言になったユウに、エリザが不思議そう顔で尋ねてくる。
「あの、もしかしてまずい事言いましたか?」
「いや、驚いただけだ」
「そうなんですか、ユウさんは顔に出ない方なんですね」
それは自覚している。
どんなに内心で何かを考えても顔に出ないというのは、駆け引きの場では有利になる事が多いが、人付き合いの中ではかなり苦労する。
そう思っていると、エリザは遅れて気が付いたようだ。
「あ、この世界がデスゲームになっているのって。もしかして……」
「可能性は高い。だが、その事はあまり人に言わない方が良い」
「はい」
己の迂闊な言動に気が付いたらしいエリザが肩を落とす。
この場にいる者達が信用できる者ばかりだったという事が幸いだろう。
それから、集まったギルドリーダーたちと、会議で様々な事を話し合った。
引き続いて未帰還者の保護にあたる事と、外部からのコンタクトに注意を払う事など。
だが、それとは別にユウ達「電光石火」は、デスゲームが始める前に迷いこんだ管理室のような場所を突き止める事になった。
ランダム転移で飛ばされた場所とはいえ、この世界にあるのなら一応たどりつける可能性があるからだ。
そこで、外部と通信がとれるか何なりすれば、状況はかなり進展するだろう。
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