第20話 四日目の朝
この世界がデスゲームになってから、四日目の朝がやって来た。
起きてメールのチェックをしていると、アルンが朝ごはんができたと言いながら訪れる。
「入っても良いですかぁ」
今日フィールドに出るのは、昨日出ていたギルドの三分の二程。四日目となる本日はユウ達を含めた残りの面子で再び会議。成果を報告しあったり、今後の方針を決める予定だ。
「ユウ様ぁ、おはようございますぅ」
「ああ、おはよう」
昨日と変わらない、元気な声。
言葉を返せば、アルンの笑顔がそこにあった。
ユウは彼女に尋ねる。
「エリザは?」
そう昨日ギルドホームへ連れて来た少女の具合を聞けば、彼女に首を横に振られる。やれやれ、と。
だが、それは悪い方の意味ではない。
どちらかというと、呆れている様子に近かった。
「さっき一度起こしたんですけど、ほっぺつねっても目覚ましアイテム鳴らしても全然返事がなくって。よっぽど疲れてたみたいですね。だから、もう少し寝かせておこうと思いますぅ。あ、ウィーダの奴も後で起こしますよ。エリザだけで後で朝食を食べさせると気にしちゃいそうですから」
「そうか」
ユウ達としては朝食を食べる順番など気にならないのだが。
そういう細かな気配りは、効率や合理的な点にのみ目がいきがちな自分にはできそうにもない。
エリザの事は、アルンに任せていればだいたい正解な気がする。
後は、エリザに目に見えた異常が無い事が分かってひとまずの安堵。
ただの疲労で休息が必要だというなら、それをとらせれば良いだけの事だ。
そう思っていると、「ユウ様って、ドライなように見えて意外に優しいとこあるんですよね」などとアルンは若干不安そうにしながら訪ねてきた。「あの馬鹿の影響かな」とも
「今日、改めて他のギルドの人達とお話しするんですよね。どうしますユウ様。他の人達にはあたし達だけで説明しますか?」
どうする、とはエリザを連れて行くか行かないか、という事だろう。
半日程度だが、一番近くで彼女の事を見てきたアルンだ、
エリザの状態については、ここにいる誰よりも詳しい。
彼女が「ユウ達だけで」というなら、エリザの会議参加は難しいかもしれない。
「彼女については、無理強いはしない」
本音を言えば、未帰還者であるという立場を考えれば参加して欲しい。彼女の口から重要な情報がもたらされるかもしれないのに、みすみすそれを逃すのは惜しかった。
だが、協力する意思のない者を、無理に連れていったところで問題が解決するわけがない。
ほっとした様子のアルンに、ユウは己の意見を伝える。
「エリザが行かないというのなら、ここに置いていく事にする」
「そうですかぁ」
ユウがそういうなら、おそらくウィーダも反論を口にする事は無いだろう。
エリザ本人が行くと言うのであれば、誰も止めたりなどはしないが。
一応本人の意見を聞くので、最終的には彼女次第と言ったところだ。
だが彼女が残るのであれば、ギルドホームには念の為アルンを残していく。
もし何か不測の事態が起こったなら、メールで知らせてくるだろう。
それで、話は終わりかと思いきや、アルンは躊躇いながら口を開いた。
「あのー、ユウ様ぁ……」
下を向いてしばらく口ごもった彼女だが、意を決したように口を開く。
「正直な感想を聞かせてほしいんですぅ。ユウ様はいつだって自身満々で完璧って感じですけど、このゲーム……クリアできると思いますぅ?」
今まで片鱗すら見せなったが、やはりしっかりしている様に見えてのアルンは年に相応の少女らしかった。
いきなりログアウト不能の世界に放り込まれて、混乱しても良いはずなのに、これまでは強靭な精神力でそれを我慢してきたのだろう。
感情をこちらに窺わせないようにと、視線を合わせないアルンの気丈さを、誉めればいいのか、叱ればいいのか。
こういう時、ユウはどうすればいいのか分からなくなる。
「クリアできるとしたらどのくらい時間がかかると思いますかぁ? 怒ったり責めたりしません。正直に教えてほしいんです」
「……」
アルンはそっと視線を上げてこちらの顔色を窺い続ける。
「クリアできないのは怖くないんですぅ。けれど、でも……途中で死んじゃうのは嫌だなって、こんな事気にするのは今更ですけど」
自信無さげに告げられた彼女の内心の言葉。
受け取ったユウは瞑目して、しばらくの間考える。
一応の答えは出ていた。
今考えるのは、それを口に出しても良いのかという事だ。
だが、迷ったとしても彼女は仲間だ。
信頼を預けるに足る存在。
どんな事実を受け止める覚悟があるからこそ、その話を切り出したのだろう。
ややあって、結論を出したユウは口を開いた。
「現状ではクリアは不可能だ。あくまでも現状では」
「やっぱりそうなっちゃいますか。大丈夫です、分かってましたから。ユウ様は凄い人ですけど、やっぱり私達と同じ普通の人ですもんね」
アルンは顔を上げて、笑顔を作ってこちらに答える。
そこに失望の響きはなく、納得の色しかなかった。
こういう時に下手な慰めは逆効果。
ユウは淡々と話を続けていくしかない。
「状況が変化すれば、可能性は劇的に上がるだろう。こちらには支援者がいるようだしな。この事件がある前、俺の技術を底上げする為なのか、何回かこのゲームの開発スタッフを名乗る男からメールを寄越された。それに先日紛れ込んだマップの事もある。この世界の中にいるプレイヤー達だけが事に当たっているのではないのなら、可能性は絶望的にない……という事は言いきれないはずだ」
できるかぎり自分の希望が混じらないように話したつもりだが、うまくいったかどうか分からない。
「そうですかぁ」
アルンはそのユウの言葉に考え込む様な素振りをみせ、何気なく腕をとった。
「錬金室の方に行きませんか。ご飯の前にちょっとだけ昔話がしたいんですぅ。あたしに付き合っていただけません?」
「分かった」
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