第18話 スカル・レッド
一回り体の大きい女性を、中学生であるアルンが担いで運ぶ光景を目にするとなると、中々の違和感が仕事をしてる状況だった。だが、アルンのレベルの高さもあって人間一人運ぶ行為に危なっかしさは感じられない。
中学生ギルドメンバーと倒れていた謎の少女を見送ってから、事情を聞いた男女と別れ、町の中を歩いていく。
それらしい現場はすぐに見つかった。
連中はとにかく目立ったからだ。
町にいないはずのモンスターの鳴き声がするのだから、すぐに見つからないわけはないだろう。
特に今は、町から人の姿が少なくなっているのだから猶更だ。
ウィーダが、苦虫を噛み潰したような声で話す。
「結構いやがるな。人数は十人くらいか、多いな」
彼が考えているのは、対処が面倒という事ではなく、大勢で行動している事への不満感だろう。
「最大規模のギルドなら、当然だろう。これでも少ない方だ」
「マジか。それでやる事がモンスターでの囲みとか、その数もっと有効に活かせよな」
視線の先には、袋小路にプレイヤーを追い詰めたスカル・レッドメンバーら式者達。
彼らはテイムモンスターをプレイヤー達にけしかけ、威勢のいい言葉を放っていた。
「はっ、俺達の言葉を聞かない方が悪いんだよ!」
「悪く思うなよ、これは正当なおしおきなんだからな!」
「ほらほら、反省の言葉が聞こえねぇな!!」
聞こえて来たガラの悪そうな言葉に、思わず眉根が寄った。
見た目と言動がただの不良の集まりだ。
けしかけられているモンスターはよく見るニワトリ型のもの。
コケトリスとかいう、白い体毛が特徴のボールみたいなモンスターだ。
だが、そのコケトリスのくちばしでにつつかれた者は、行動キャンセル状態になってその場に縫い付けられてしまうのだ。
取り囲んでいる連中は、そのモンスターの技を活かしてプレイヤー達の反抗を防いでいるのだろう。
町の中でなおかつ改ざんの兼があるのでライフは減らないだろうが、大勢のモンスターに詰め寄られて攻撃され続けるというのは、中々心理的に圧迫感があるだろう。
そもそも、ライフが減らないというだけで、攻撃の衝撃や物音がなくなるわけではないのだから。
たかがニワトリ型生物でも、この世界では侮れない十分な脅威だった。
案の定、囲まれてい者達は参った様子で、「スカル・レッド」達に懇願していた。
「ひいっ、すみません。許してください!」
「もうしません、だからやめてくれ!」
「本当に死んだらどうするんだ、謝るから頼む!」
目の前がこうなっている原因の一つはユウが巻いた種ではあるが、自分の改ざんがこのように人に悪用される事になるのは、気分が悪かった。
ウィーダがもう見てられないと言った風に、スカル・レッド達へ声をかける。
「おい、テメェ等。それくらいにしろよ!」
通りに響く大声を上げるウィーダの声に怪訝そうな様子で、振り返る「スカル・レッド」メンバー。
「あ?」
「ああん?」
「誰だ、邪魔すんなよ」
彼らの顔には脅威がやって来たという認識はないようだった。
なおも不満そうにこちらを見つめ続ける彼らの反応を見るに、「電光石火」の事はどうやらあまり知らないようだった。
もともと他者に興味がない集団だったのか、それとも今のこの世界がどんな状況に置かれていて誰が何をしようとしているのかなど関係ないと考える様な集団だったのか。
どちらか分からないが、どちらでも質が悪い。
そのスカル。レッドのメンバーの一人が、不快そうな声で威嚇してきた。
「どっかで見たような気がするけど、どうでもいい。俺達は今お仕置してんだ。天下のこのスカル・レッドが直々に、な! 分かるかぁ? この世界で生きてく為のルールってもんを教え込んでる最中なんだよ、邪魔すんじゃねぇ。同じ目に遭いてぇのか? あぁん?」
彼らは己に対するウィーダを中心にねめつけながら、威勢よくこちらへと脅しをかけてくる。
だが、高レベルプレイヤーの端くれとして、様々な難敵とあいまみえて来た自分達がいまさら、その程度の脅しで怯むわけがない。
ウィーダが一歩前にでて、相手に睨み返す。
「それが親切働いてるように見えねぇから、声かけたんだろ、いい加減にしろよ! やれるもんならやってみろ! へたれドクロ!」
吐き捨てるように反応するウィーダは言わずもがな。
両者一歩も譲らないに姿勢である事は、間違いなかった。
このまま言い合いをさせておいたら、自然の成り行きで決闘が初まりウィーダが勝つのだろうが、そうして今回の問題を解決するには、それはいささか乱暴すぎる選択だろう。
ユウはやむおえず前に出て発言した。
「正当な理由があろうと、これらの行為は問題だ。エンジェルダーツのジュリア達が事の次第を知ったら黙っていないだろう。スカル・レッドはその時にどうする気だ」
とりあえずはまず対話だ。
通じるかは査定置いて、幸いにも相手はまだ武器に手をかけていないのだから。
「スカル・レッド」としてはどう出るつもりなのか、メンバーごとの問題よりも、ギルド方針としての考えや狙いを知るべきだとユウは考えた。
「あん? そんなの決まってんだろうが、勝ったもんが正義だ。実力のある俺達があんな有象無象共すぐにひねりつぶしてやる。そうすれば、俺達が正しい事が証明されて、他のプレイヤー達もお前らも大人しく言う事を聞く気になるだろ」
だが、口にして述べられたのはそんな意見で心の底からがっかりした。
どうやら目の前の連中には、一番面倒くさい方法で対処しなければならないらしい。
「それがリーダーの方針か」
彼らのギルドリーダーはこの世界で穏便に生き残る知恵も持たないらしい。
上に立つ者が必ずしも善人で、優秀だとは限らない。
たまたま上についたものもいるだろうし、陰謀や策略を巡らせて他人を蹴落としたものもいるはず。あるいは運が良かっただけのものも。
「スカル・レッド」はただ人数だけが多い張りぼての、中身のないギルドだったようだ。
相手の態度を見て空を仰いでいたウィーダが訪ねてくる。
「なあどうする?」
ユウにはそのセリフは「やっても良いか」に聞こえたが、とりあえずはまだ言葉通りに受け取ったふりして考えてみる。
ジュリア達がどうするかは確実に分かっている。
今のこの世界の状況も。
この大事な時に、少々横破り的な方法で彼らに加わる事になったユウ達はともかく、正真正銘のトッププレイヤー達の貴重な時間を、できるだけ割きたくはない。
「スカル・レッド」の拠点に乗り込んで、もろもろの反抗ができないように、折っておきたい所だが……。
ユウがそんな風に考え込むフリをして、結論を導き出そうとしたところで、背後から人の気配。
「おーい、見ろよ。思わぬ収穫が手に入ったぜ」
振り返ってみれば、そこには別の「スカル・レッド」のメンバーらしき人間。
親しげにユウ達を通り越した位置にいるテイマーたちへ視線を向けて話しかけ要るので、仲間とみて間違いないだろう。
やってきたその人物は、女性の腕を掴んでどこからかここまでひっぱってきたようだ。
「や、やめてください。離して!」
「なあ、なかなかの美人だと思わないか。外をウロウロしてたら、見つけたんだよ。初心者なのか何も分かんねぇっていうから、これから色々教えてやろうかと思うんだがお前らもどうだ」
興奮するスカルレットメンバーの男性とは違い、腕を掴まれた女性は混乱した様子だった。
「貴方達、誰なんですか。何で町にモンスターがいるんですか? これ何かのイベントなんですか? 何で町の中がこんな雰囲気なの!?」
その言葉に、ウィーダは「あれ?」とユウの方を見つめて首をかしげて見せる。
冷静に考えれば今の言葉はありえないのだが、詳しく推測している時間はなさそうだった。
「大丈夫だよ、お嬢さん。俺達が手取り足取りこの世界の事をゆっくり教えてあげるからさ」
「いやっ、さわらないで。何なの貴方達、誰か!」
必死で逃げとようとする女性の反対の腕も掴んで、男性が身動きを封じようとしたところで、我慢できなかったらしいウィーダが動いた。
「おいこら、てめぇ!」
鍛え上げたステータスに物を言わせて、一瞬で近づいて男性の腕を掴む。
そして、一言こちらへ聞いてきた。
「ユウ」
その返答に躊躇う程、ユウは冷血漢ではない。
さすがにそこまで他人への情を切り捨てられない。
なのでウィーダに向かって一つ頷いて、殲滅の言葉を口にした。
「滅ぼす」
「待ってたぜ、りょーかいっ!」
手加減する余地があるほどの善人ではない。
かといって全力を出すほどの強者でもない。
よって、剣を振って最初の一撃でさっと通り抜けた後は、アイテムを放り投げてお仕置きする事にした。
通り抜ける間にユウが放り投げたとりもちアイテムが作動して、スカルレッドのメンバー達を頭上から包み込んだ。
「むぐーっ、むぐぐぐぅっ!」
弾力と粘性にとんだ餅に覆われた彼らは、内部でうごめきながらくぐもった声を放っている。
ここは仮想世界で、現実の法則が正しく反映されているわけではないので呼吸ができなくなっても死ぬ事はないだろう。
ただし感覚は現実のそれにある程度準拠しているため、死ぬほど苦しみにはなるが。
ややあって、いきなりの出来事で固まっていた者達が口を開いた。
「あの、その……、ありがとうございます」
「おお、すごいなあんたら。助けてくれてありがとうよ」
連れて来られた女性やその場にいた人たちが感謝の言葉を述べてくる。
「まあ、気にすんなって。大した手間でもなかったし」
「よ、良かったらこの後お礼に食事でも……」
そこでいつものようにウィーダが女性に言い寄られる。
普通なら面倒だから放置しているところなのだが……生憎やる事がある。
「ウィーダ」
「おう、ちょっくら行ってこないとな」
いくらとるに足らない人間達で構う価値が者達といえども、黙っていられない事がある。
さすがに自分達の苦労をあんなやからに水の泡にされかけたのは、無視できない。
不穏な空気が満ちているとはいえ、まだ致命的な間違いは誰もおかしていない。
この世界の空気をこの程度に留めておくために、どんな人間達が心を砕いた野かを知っている身としてはこのまま見て見ぬふりをする事などできるはずがなかった。
ユウはトリモチトラップにかかっている連中の中から端っこの人間だけを救出し、剣をつきけた。
「案内しろ、ギルドの本部に」
「ひぃっ!」
その後は、拠点に乗り込んで「スカル・レッド」のリーダーの心を折る所まで流れ作業でこなす事になったが、特に予想外の事は起きなかったので記録する必要はないと思う。
女性の方はエンジェルダーツの者にツナギをつけて保護してもらった。
詳しい話をききたかったし、気になる事があるが、後だ。
ジュリアのギルドなら、悪いようにはならないだろう。
ユウ達の方は、エリザへの対処がまだ残っている。
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