第16話 プレイヤーの発見



 それからも何体かモンスターを倒したが、出現するのはどれも低レベルモンスターのみだった。


 バグの様なものは二、三か所見つかったが、メールで知った情報以上のものを得る事は無かった。


 一度、珍しい植物型のモンスターが出てきて、アルンが液体窒素を素材にして錬成したアイテムを駆使し、瞬間冷凍させてストレージ(アイテム保管庫)へと保管していたが、それだけだ。

 珍しいモンスターから珍しい素材がポップした以外に、変わった事は無かった。


 暇そうな様子で、抜き身の剣の柄を手の中でもてあそんでいるウィーダが話しかけてくる。


「なあ、ユウ。これからどうなるんだ? 俺らはまだ良いけど、他のプレイヤー達をいつまでも町に留めておくわけにはいかないだろ? どんくらいで出てくると思う?」


 頭の回転が鈍くて重くても、考えるべきところは考えているらしい。

 ウィーダがこちらへと疑問をぶつけてくる。


 根は善人なのだ。

 その善人性が、本人の知恵の出来が悪いせいで、アルンには残念に見えてたまらないらしいが。


 特に他に優先すべき事もないので、ユウはその疑問へと答えていく。


「一週間程度といった所か。俺達は、外出禁止の強制はしていないからな」

「そうだっけ?」

「今回の探索の結果を踏まえて、数日後には段階的に安全に歩けるフィールドを公表する事になるだろう。俺達が……高レベルプレイヤーが安全を確認した所から順に」

「じゃあしっかりやらないとなぁ。特にトラップ探知とかは、目に見えない分、モンスターよりタチが悪い」


 とりあえずやる気は復活したらしい。

 周囲の様子を気にしているウィーダを横に置きながら、トラップについて考える。

 

 フィールドにあるトラップの中で一番達の悪い仕掛けと言えば、やはりランダム転移だ。


 一パーセントの確率にも満たないトラップだが、ごくまれに発生する見えない罠。


 フィールドを歩いている時トラップにひっかかってしまうと、レベルに関係なくみなどこかに飛ばされてしまう。


 転移先が町の近くや低レベル向けのマップであればいいのだが、秘境やら隠しマップやらに飛ばされてしまう可能性もあるので、初心者には極めて危険なトラップと言えるだろう。


 だが、真に危険なのはそれ自体ではない。

 慣れないマップで待っている二次災害について……。


「はぁー。やっぱり、トラップ解除の魔法をかけて、進むしかないわよね。解除スキルを持ったプレイヤーをパーティーに同伴させるしかないわ。私達はともかく、初心者プレイヤー達には絶対にそうしてもらわないと、後が大変になっちゃう。でもスキル持ってる人も限られてくるのよね」

「外に出たら出たで、ストレス溜まりそうだな」


 辟易したようなウィーダの言葉に、ユウも内心では同意していた。

 トラップ解除のスキルは、マジックポイントの消費が激しく、かつ極めるのに時間がかかるので、あまり使える人間がいないのだ。


 とすると、そのプレイヤーをパーティーに入れられるという幸運な人間が限られてくるわけで、有能なプレイヤーの奪い合いが勃発してトラブルになる事も考えられない話ではなかった。


「とりあえず、今日一日頑張って何でも良いから収穫見つけていってやろうぜ」

「そうね。何も得た物がないと、私達がぶつけ場所のない怒りの矛先になっちゃいそうだし」


 目の見えない犯人。

 理不尽な状況を強いられているという現状。

 ぶつける場所を失った怒りは、目につきやすい場所にぶつけられやすい。


 その矛先になるのは、現実で救助を試みている人間か、高レベルプレイヤーである自分達だろう。


「嫌な想像だって思うけど、仲間割れなんてぞっとしちゃうわ……あ」


 ふいに、腕をさすりながら言葉を発したアルンが途中で口を閉ざし、動きを止めた。


 何度か歩き回ったシュネイブの滝。

 その湖の近くに何かがあったからだ。

 少し前に見回った時には、あれは無かった。


 アルンは驚きながら、ある方向へ指をさす。


「ねぇ、あれ女の子じゃない?」

「はぁ? こんな所に何で……、うおっ、本当だ!」


 半信半疑でそちらへと視線を向けたウィーダは、アルンと同様に身動きを止めて驚いた。


 よく見てみると、確かにそれは人影だった。

 短い白い髪の、それも女性のプレイヤーが倒れている。


 真っ先に急いで向かうウィーダを前方に見ながらユウは周囲を掲載する。

 罠、かどうかは分からなかったが、周囲に他のプレイヤーやモンスターがいるわけではなさそうだった。


 あるいは倒れている女性プレイヤーに何かした後に、もうとっくにどこかへ移動している事も考えられたが。

 それとも、他の場所で何かあったプレイヤー―が、ここまで逃げて来てたのち、気を失ったという所だろうか。


 今すぐにでも保護したい所だが、ユウたちは彼女のもとにはたどり着けなかった。


「立ち入り禁止区域!?まじかよ!?」


 ウィーダ達の前に、警告のウィンドウが出てきたからだ。

 何も考えずに前に進もうとするウィーダは、やがて何らかの力が働いてその周辺から弾き飛ばされてしまう。


 吹っ飛ばされた中、空中で体勢を整えた彼が着地するのを見て、ユウは思考を巡らせる。


 彼女のことは心配だが、このままではどうにもできない。

 あの場所にいるということは、なんらかのバグか何かで彼女は立ち入り禁止区域でも動けるのだろう。


 だが、倒れている人間を見ているだけというのは、いくらユウでもさすがに心苦しい。


 このまま目覚めるのを待つしかないのだろうか。


 頭を回転させていると、アルンが何かを決意した表情で前に進む。


 すると、ウィーダが立ち止まらざるを得なくなった場所を超えて、エリザの元へたどり着いた。


「え?」


 その姿を見たウィーダが間抜けな声を発したが、ユウも同じような心境だ。


 しかし、今は細かい事を聞いている場合ではないだろう。


 アルンがこちらまで連れてきた女性の様子を窺う。


 彼女の状態をよく観察してみるが、ステータス異常の影響は無さそうだった。

 あくまで表面上だけだが、目に見えておかしな所は見られない。


 ウィーダが頬を叩いても目を覚ます気配がないので、必然的に彼が背負う事になった。

 現実の世界と違って、こういう時は何かしらの怪我をした被害者を動かす事によりリスクを考えなくていいのがありがたい。


「とりあえず、ギルドホームに運ぼう。それで良いよな?」

「ああ」


 珍しくウィーダがまっとうな判断を下す。

 このままここにいて何かあったな場合、動けないプレイヤーを抱えて行動するのはリスクがある。的確な判断を下せない場合があるので、早急に(モンスターの出没したりトラップの仕掛けられていない場所)安全圏へ向かう必要があった。


「でも、何で、こんな所にいるんだ? こんな状況で町から一人で出てくるとは考えにくいし」

「そればかりは本人に聞くしかないでしょうね。最初からフィールドにいて町まで戻ってないっていう選択もあるけど」

「何だそれ。どうやったら三日もそうなるんだ?」

「例えでしょ? 言ってみただけ。さっさと移動するわよ」

「あ、ああ。そうだな」


 分からないことだらけだったが、今は考えても答えにたどり着けそうにないことに労力を割くべきではない。


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