第11話 クリアへの希望



 未帰還者の調査についてどんな行動をこれからとっていくか。


 そんな話し合いが進んで行く中で、当然ユウの事も話題に上がった。


 初めに会議の議題に上がらなかったので忘れられていたのかと思ったが、そうではなかったらしい。


 集った者達は、口々にシステム改ざんの事について問いかけてくる。


 ユウは歴戦の猛者たちが集う者達の前に立って、とりあえずライフ云々の事を説明するより先に、カマを賭けてみる事にした。


「少し時間をくれ」


 いぶかしむ一同を前にして、ユウはエクストラ調合のスキルを任意発動させる。


 錬金用の大釜が出現して、ユウはその釜の中に必要な素材を放り込んでいった。


 その場に集ったほとんどの者達は、突然のユウの行動の理由が分からずに、頭上に疑問符を浮かべるしかいない。


 彼らの表情を観察していたユウは、頭の中で錬金術とは別の事を考えていた。

 それは、この世界にデスゲームのルールが適用されるという可能性に思い至った日の事で……。


 思考を続けているうちに、錬金術の工程に変化。

 意識が引き戻される。

 鎌の中で錬成反応が起きていた。

 大釜の中身が、ぐつぐつと音をたて始めた。


 ユウは無言でかき混ぜる為の棒(……種別的には棒であるが、見た目は完全にう〇い棒である、これも錬成品だ。作ったらなぜかこうなった)を釜の中に突っ込んで回しづつける(ちなみに普通のう〇い棒と違って特別製(錬成品)なので、とけないしふやけない)


「……なの?」


 周囲から、未だかかつてない珍妙な生き物でもみるような視線が向けらる。

 ジュリアなどは思わず何もないのに特徴的な語尾を口に出して呟いていたりした。


 しかし、ユウはそれに構うことなく、大釜で錬成を続けてアイテムを完成させた。


 通常の錬成は宿やギルドホームでしか出来ないのだが、エクストラ調合だとMPを使う代わりにどこでもできるのが便利な点だ。


 大釜から一際強い煙が噴き出した後に、作成した錬成アイテムが完成する。


「……」


 ユウは完成したアイテムを取り出したものを無言で手に取り、その場にいる全員がよく見えるように持った。小さな卵だ。うずら卵のような形をしたアイテムだった。


「これに見覚えのある者は?」


 作り上げた物を見て誰もが首を傾げたり、眉根を寄せたりといった反応を示した。


 ユウはそれを見て確認したい事が終わったので、さっさと次の話に映る事にした。


「情報屋伝手に聞いているだろうが、システムの改ざんについてだが……」

「「投げっぱなしかよ!?」」


 仲間のウィーダとグラウェルの意気投合した突っ込みを聞いて思った。

 この二人は意外と気が合うかもしれない、と。


 そして、昨日ケンカ別れした事を根に持っていたらしいウィーダが、一同を代表して「さすがにそりゃねぇだろ」と続ける。


「お前は昨日の事と良い説明飛ばし過ぎなんだよ。ちゃんと中身を話せ。そして分かる様に話せ」


 別に面倒くさくなったとか、意地悪で口を閉じたとかそういうわけではない。

 ちょっとした、……ボケだ。

 不評だったが。


 とにかくユウは、前置きに先日起きた出来事について、その場の者達に話した。


 なぜ、ユウがデスゲーム開始時点にシステムを書き換える事が出来たのか、それはあらかじめこのゲームに対して不信感を持っていたからだ。

 だから対策がとれたし、早期にやるべき事が分かった。

 それだけの事。


 気付いたきっかけは、些細な事だった。


 仮想ゲーム内で待ち合わせする約束をしたにもかかわらず、その当人の仲間(予想できるかもしれないがウィーダだ)がNPCの迷子の子供を助けなければならないとかで合流できなかった時の事だ。


 暇になったユウは、珍しく一人でフィールドに出る事にしたのだが、その時フィールドにあったランダム転移の罠にかかり、見知らぬ場所へと飛ばされてしまったのだ。


 急な転移を経て辿り着いたそこは、未踏マップと呼ばれる場所で、プレイヤーが一度も足を踏み入れた事のない隠しダンジョン。


 そこは通常なら、初見のトラップかモンスターにやられてしまうような難易度のダンジョンだ。


 だが、ユウは幸運にもそれらの障害を乗り越え、取り払い、奥まで辿り着く事ができた。


 苦労して到達したダンジョンの最奥。

 普通ならそこには、秘宝があるかボスがいるかのどちらかだっただろう。

 だが、そこにあったのはどちらでもなかった。


 なぜなら、この世界を管理する為に作られた管理者用の空間だったからだ。

 

 鍵のかかっていないその部屋に侵入したユウは、そこでこのデスゲームの計画を知る事になる。


 それで、半信半疑でありつつも対処を続けていたユウは、管理者権限を使ってシステムを書き換える方法を探り、デスゲーム開始初日にライフ値固定を成し遂げたわけだった。


 ユウ自身が、リアルでその手の勉強をしていたのも良い方に左右しただろう。


 しかしユウは、それらの事をただの幸運な出来事とは思っていない。


 もちろんダンジョンを踏破するには幸運の要素も必要だっただろうが、この世界の高難度ダンジョンは一人で踏破できるほど甘くできてはいない。


 何者かのサポートがあったのではないかと考えている。

 デスゲーム計画を防ごうとした開発スタッフの誰かが、偶然の事故に見せかけてユウを手引きしたのではないか、と。




 そこまで話したところで、ジュリアが珍妙な鳴き声……ではなく言葉を放った。


「むにゅ? もしかしてお兄さんはその時に部屋にいた人間を見てるの? だから、さっきその時にいた人が紛れ込んでないか確かめたって事なの? 分かったの。お兄さんはその人を捕まえようとして、さっき作ったのと同じアイテムを使ったの!? そうなの!!」


 彼女の指摘は正解だった。

 はっきりと見たわけではないため、断定できないのがもどかしい所だが、関連するアイテムを見せれば何かしら反応するだろうと思ったのだ。

 

 というわけで、先程の一幕の理由が分かってすっきりした様子のジュリアに「じゃあその人はここにはいなかったみたいなの、安心なの」と一つの疑惑を片付けてもらった。


 そこで、急く様に先を促す言葉をかけるのはグラウェルだ。

 

「で、改ざん内容はどんな感じなんだよ? もったいぶってんじゃねぇよ」


 だが、傍にいたサブウェイにギルドリーダらしからぬ挙動だと窘められている。

 彼は、補佐役兼世話役なのだろう。


 ジュリアはそうでもないらしいが、有名ギルドになると他のギルドとの睨み合いが起きたり、派閥争いに巻き込まれたりする。


 このような火事場に際しても、自分達が利益をとる事をしか考えていない連中もいるわけで、そんな者達になめられる事を警戒しているらしい。


 初日の混乱の中では、町に蔓延する不穏な空気を利用して悪事を働こうとしたギルドもあったようだ。


 とりあえずそこら辺の問題は、おいおい考えていくしかない。

 まずは情報共有をしっかりしなければ、円滑な活動を行うどころではないだろう。

 先の話を望まれているユウは、自らが施した改ざんについて一通り述べて説明していく事にした。


 振り返って……。

 無限ダンジョン突入前、初日に管理権言で最初に出来た事は、ライフの減少阻止だけだ。


 そして二日目、つい先ほど操作できたのは四つの項目だけ。

 セキュリティが強まっていく中、必ず取りたいと思った物を取れたとは言いにくいが、それでもまあまあの出来だろう。


 内容は、以下。


 状態異常の攻撃を無効。

 ストックできる所持アイテムを無制限に。

 移動ポータル使用制限解除。

 全プレイヤーのマジックポイントは自然回復に。


 ……だ。


 さすがにマジックポイントは減少阻止にはできなかった。

 この世界で活動していく為には、スキルや錬成の恩恵が必要不可欠なので、止むを得ないだろう。


 この中で比較的重要になってくるのは、移動ポータル使用制限解除。

 それは、そのままの意味だ。


 デスゲーム化に合わせて、制限がかかっていたのを解除したことになる。

 これで、平常時と同じようにどこでも移動できるように戻ったはずだ。


 各地と各地を繋ぐ転移台が使用できなくなれば、各フィールドへの移動速度は格段に落ちてしまう。解除できていなかったら、脱出の為の調査が大幅に遅れてしまっていただろう。


 だが正直言えば、それらの改ざんがいつまで持つか分からない。

 犯人に書き換えられたら、元のルールに戻ってしまう事もあるだろう。

 過剰に期待せず、無いよりはマシ程度に考えていた方が良い。


 それでも、それだけの成果を掴み取った事は、プレイヤー達の希望になったらしく、居並んだ顏が一気に希望に満ちていく。


「さすがユウ様。いっつも凄いって思ってますけど、今回も一手どころか、二手も三手も先にいってるなんて、神様とかだったりしますか?」


 断じて違うし、そこまでじゃない。


 いつも持ちあげるばかりのアルンが声をかけてくるが、さすがに何か思う所があったのか、若干慄いている。


 とにかく、そんな事があった後、集った者達の間でこれからの行動が決められていき、デスゲーム開始から二日目に行われた合同会議が終了した。


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