第10話 合同会議



 その場に現れたのは、この世界では有名な顔ぶれだ。


 一人は青い髪の、鎧を着たがっしりとした体つきの男性。

 もう一人は赤い髪の、軽装で小柄な体格の少女……に見える大人の女性。


 まず話しかけてきたのは、赤い髪の女性だ。

 身長はアルンとそう変わらないが、歳はユウ達よりも年上だ。


「久しぶりなの、相変わらずお兄さんは規格外なの。このデスゲームの難易度をイージーにした人が誰だと思ったら、お兄さんだと知ってびっくらこいたの」


 特徴的な喋り方をするそのプレイヤーの実年齢をの名前は、ジュリア。

 疾風と言う二つ名を持つ、有名なプレイヤーだった。

 エンジェルダーツというギルドのリーダであり……。


 そして、以前ユウが所属していたギルド「紫電一閃」のメンバーでもある。


 次いで声をかけてくるのは青い髪の男性。


「テメェが例の男か。ジュリアちゃんに挨拶させてんじゃねぇよ。下っ端ギルドのお前らが先に名乗るのが礼儀だろうが! あぁ? 良い気になって調子こいてんじゃねぇ! このゲームの頭は覇王グラウェル様、この俺だ!」


 こちらは威勢の良さそうな言葉をかけてきて、やたらとメンチをきって来る。

 この手の相手に過剰に反応してはやっていられないので、ユウは「そうか」とだけ喋って、特に反応を返さなかった。


 三下の様な態度をとる青年は、暴牛の二つ名を持つグラウェル。

 路地裏にたむろしてそうな不良のテンプレートとも言える男は、これでも有名ギルド・バロックバロットのトップだ。

 補佐する人間が有能だからそれに引っ張られる形で名前を挙げているらしい。


 些末な悪事に手を染めてそうな言動だが、これでいて根は良いらしい。

 リーダーであるこの男とは会った事がないが、他のメンバーとは何度か顔を合わせた事がある。


 目の前の二者は、どちらも有名人。

 このオンライン世界で一定期間過ごしていれば、一度は名前を耳にした事があるだろう者達だった。


 ユウはどちらとも伝手があったので、デスゲームについて話し合いをするべく合同会議を持ちかけたのだ。


 会議の時刻が迫ってきた事もあってか、その後も有名ギルドの顔役が続々と広場に揃ってくる。


 純粋に戦力として申し分ない高レベルプレイヤーが集ってできたギルドもあれば、情報収集の優秀さで名を上げたギルドや、錬金術品の質で有名になったギルドなど顔ぶれは様々だ。


 あらかじめ参加に名を上げていた者達が集うと、その場で司会進行の役を引き受けたのはジュリアだった。


 小柄な体格の女性が、広場に集う並々ならぬ雰囲気を纏った歴戦の猛者達をまとめる。そんな光景は、少しばかり奇妙な絵に見えなくもないが、彼等の前に立つジュリアの態度は堂々としたものだった。


 伊達に有名ギルドの頭を張ってはいないという事だろう。


「今日ここに集まったのは言うまでもないの。これからやるべき事は、目指すべき事はただひとつ。このデスゲームから脱出して、現実に帰還する事なの。その為に皆にはさっそく単刀直入に要件を言おうと思うの。私達で同盟を組んで、このオンラインゲームの情報を共有したいの。だから協力して欲しいの」


 同盟に対する反対意見は出なかった。

 普段から小競り合いをおこして敵対しているギルドですら不満を飲み込んでこの場にやってきているのだから、結果はすでに知れていたのだろう。


 皆、情報が必要だったのだ。

 各ギルドの意思確認が済んだ後は、それぞれが脱出に向けての策を考え始める。


 小一時間かけ互いが持っている情報を整理し、判明した事をまとめるとこのくらいだ。


 このオンラインゲームは、デスゲームとなっている。

 ライフがゼロになったら、プレイヤーは死亡するらしい。

 現在現実からのアクションは起きていない、仮想世界にいる人間達は帰還の方法も分からず、メドもたっていない。


 そして、ここからが重要な事だが、運営からのメールの中、有力ギルドのリーダーに送り付けられた別のメールがあった。


 デスゲームを終わらせる方法、それは未帰還者を助ける事、だった。


 それらをまとめて説明したジュリアは息を吐く。


「未帰還者の事は、ほとんどの人が知っている事だと思うの。悲しい事件なの」


 それは、三年前に起こったこの世界に関係する事件だった。

 このゲームを利用していたプレイヤーが、突如意識を失い、目覚めなくなってしまったという事件。

 依頼事件の被害者は、ある日このゲームにログインしている最中に意識不明に陥り、そのまま。

 今まで目を覚ます事がなかった。


 そんな事件があったにもかかわらず、このゲームが廃止にならなかったのは奇跡のような事だろう。


 非難する世論の流れに逆らうようにして、サービスが引き続き行われた事を、当時疑問に思わなかった者はいないはずだ。

 そのせいで、一時期この仮想世界を利用するプレイヤーの数はかなり減少していたが、今は脇においておく。


 その三年前に起きた事件の被害者を助けろ、とはどういう事なのか。

 あらかじめ知っていたプレイヤーも、初耳のプレイヤー達も困惑の表情を浮かべずにはいられなかった。


「けど、未帰還者の捜索っつったって、どうすりゃいいんだ」


 集まった一同の心中を代表する様にグラウェルが言葉を発して頭を抱える。


 黙り込んだ彼の代わりに、そんなリーダーを普段から支えている補佐役のプレイヤーが、代わりに発言した。


 メガネがトレードマークのプレイヤー、サブウェイ。

 ユウがメールを送った相手の一人だ。

 神経質そうな顔立ちをしたその男性とは、面識がある。

 といっても、町中で顔を合わせた時に話をする程度だが。


「ですが敵の狙いが分かったのは収穫でしょう。今回のデスゲームを実行した者は、未帰還者の帰還を目的をしている者、つまり未帰還者の身内である可能性が高くなりました。ひょっとした最初に送られた運営のメールを考えれば、犯人はこのゲームを整備している者や開発した者に関係するのかもしれませんね」


 そうまとめられた考えを聞いて反応を示すのはジュリア。


「なるほどなの。それなら、三年もの間に何も進展がなくて焦った末、事件の決行に及んだっていう動機も考えられるの。けれど、やっぱりまだ可能性の話になっちゃうの。ジュリア達はこれからの行動方針について話し合った方がいいかもしれないの」

「それもそうですね」


 この段階で分からぬ事に時間を費やしても仕方がないとジュリアは述べ、サブウェイも頷いた。


 会議は終止この二人を中心にして進んでいった。


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