第8話 今後に備えて



 テーブルに並んだのは、プロも驚く料理のフルコース。

 現実の工程をそのままこなさずとも出来るものだが、ここまでのクオリティの物を作れる者を探そうとしてもそうそう見つからないだろう。


 色々あって夕食……ではなく夜食を食べ終えた所で、ウィーダが質問してきた。


「そんでユウ、これからどうするんだ? あと、ライフが減らなくなるやつとかどういう事だよ。そろそろきちんと説明してくれたっていいだろ」


 どうやらダンジョンを抜けたところからずっと待っていたらしい。

 気になって仕方がないと言ったように、催促してくる。


 そこに文句をつけるのは、アルンだ。


「ちょっとウィーダ、ユウ様にいっぺんに質問しないでよ。ユウ様だったらそれでも、三つでも、四つでも五つでも捌けるだろうけど、落ち着きを身につけなさい野蛮人」

「何だよ、ちょっと気になる事言っただけで野蛮人はないだろ」


 さすがに三つも四つも言われたら、処理が追いつかなくなるだろうが、ユウから反論がくることは想定されていないようだった。


 自分の言動に疑いを抱いていない様子のアルンは、ウィーダをにらみつけて「やるの?」「やるか?」みたいに火花を散らしている。


 そんな二人のケンカの制止ついでに、別の話題を提供しておく。

 盛り上がりやすい二人は、ちょっと横から刺激を与えると、とたんに冷めやすくなるのが特徴だった。


「明日の予定なら決めている。なじみの情報屋にメールを送ってジュリアに会議の提案をした。明日にはトッププレイヤー達が集まって、これからの方針が決まるはずだ。俺達はそこでシステム改ざんの事を話す」


 感情のぶつけ先を失ったウィーが、会議の様子でも想像しながら答える。


「ふーん、まあ詳しい事は明日になるのを待てって感じか。足並みそろえなきゃいけないとこもあるだろうし、あいつらにしか分からない事とかもあるだろうしな」


 とりあえずは、そんな話で納得したようだ。

 食事を再開するウィーダは、なつかしそうな表情を浮かべて続ける。


「久しぶりに会うよな。ジュリア達は元気にしてるかな。紫電一閃のメンバーはそれなりにこのゲームから辞めてったって聞いたけど、まだ半分くらいは残ってるんだろ?」

「ああ」


 前のギルド「紫電一閃」への加入順序は、ユウ、ウィーダ、アルンだ。それぞれがギルド入りを果たすタイミングがそれほど開いていなかったため、ユウ達の付き合いは前ギルドの段階から濃い。

 同じ思い出を共有している事が多かったので、ユウもつられて懐かしくなってくる。


 アルンも回想作業で忙しくなったようだ。


「紫電一閃かぁ、懐かしいなぁ。ユウ様とあたしと、ついでに馬鹿と、ジュリアと……他にもミルフィとかもいて賑やかだったな。今は有名ギルドを引っ張てるっ話だけど、ジュリアとはたまに会いますよねぇ」


 ギルドを立ち上げて初期メンバーが就職やら受験やらで半分ほど止めてしまったので「紫電一閃」自体は今はもう無くなってしまったのだが。残った半分ほどのメンバーはそれぞれ別のギルドを作ったりして、今もこの世界で活動していた。


 アルンの言う通り、ジュリアもその残ったメンバーの一人だった。


「他の子も色んな所に散っていっちゃったし、拠点のホームもばらけちゃってる。三年もあればみんな変わっちゃうんだぁ。そうだよねぇ」


 寂しさの気配を滲ませながら、しみじみと考え事をするアルンの脳裏に浮かんでいるだろう物は、ユウだけが知っている。


 彼女は諸事情によってこのオンラインから消えていてもおかしくなかったのだが、とある理由があってこの世界にい続けていた


 ただ気分転換をする、ただ遊ぶ。

 明確な目的意識を持たずにこの世界に来る者とは違って、アルンは達成したい目的があって三年以上もこの世界に訪れ続けているのだ。


 それは、デスゲームと化した今でも変わらないのだろう。

 ただ、ウィーダはその事については全く知らないため、


「何だよ、そんなしょぼくれた顔すんなよ」


 アルンの様子を見て、そんなからかうような言葉をかけるのだった。


「しょぼくれてなんかいないわよ。むしろしょぼいのはあんたの頭でしょ?」

「誰の頭がしょぼいんだよ。つーか『しょぼくれた』と『しょぼい』はかなり違うだろ」

「ええそうね、かなり違う。でも連想できちゃう程あんたの頭がひどかったからしょうがないわ」

「何だと!」


 再び言い合いを始める二人の様子を見ながら、ユウは今後の事について思いをはせた。


 こうしてデスゲーム一日目の夜が更けていく。


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