第3話 無限ダンジョン突入



 無限ダンジョン 入口


 驚愕の叫び声を上げるウィーダと、感嘆の吐息を漏らすアルンを背後に、ユウはダンジョンのマップへ侵入し、奥へと進んでいく。


 このマップのダンジョン名は、『無限ダンジョン』。

 その名の通り、このダンジョンの特徴は……無限ともいえる広さを誇る。


 入る度にトラップやモンスター、宝箱などの配置が変わるので、事前情報はまるで意味をなさない。

 だから、このダンジョンは誰もが知る最初の町に存在しているにも拘らず、未だにクリアされていなかった。

 数多のダンジョンの中でも、内部構造の複雑さで言えば群を抜いているだろう。


 元より気を抜くつもりなどないが、油断は禁物。

 マップに入る前に、ユウは改めて自分達の戦力を確認していた。


 ユウの現在のレベルをざっと記せばこうだ。





 剣士レベル 130


 錬金士レベル 110


 ライフポイント 3000


 マジックポイント 2400


 特殊スキル エクストラ調合(任意発動)・プレイヤー追跡(任意発動)


 称号 秘境ダンジョン解放者


 装備品 白銀のブレスレット(ステータス異常無効)


 緊急指定アイテム 無色の団子(煙幕)





 このオンラインゲームではプレイヤーは皆、錬金術師で剣士でもある錬金剣士となるので、他の職業は存在していない。


 だから、マジックポイントという項目があっても、魔法を使うわけではないのだ。


 この世界では魔法が存在しないため、遠距離攻撃の手段が限られてくるのだが、だからといってまったくないという事にはならないで。


 ライフ同様に存在するそのマジックポイントは、一般的なゲームの様に魔法を使用する為のものではない代わりに、アイテムを調合をする為・特殊スキルを使用する為に存在している。


 だから遠くから敵に攻撃したい場合は、マジックポイントを消費して作ったアイテムを頼る戦い方が基本となるだろう。


 錬金術を使うこの世界では、倒した魔物が落とす素材を元にして、多彩な効果をもたらすアイテムを作り出す事が出来る。

 それらは千差万別であり、同じ素材を使って錬金術を使用しても、プレイヤーごとに違うアイテムになる事がほとんどだ。


 それは、このオンラインゲームを始める前にプレイヤーに行った50の質問の回答に応じて、解析した思考パターンを元データとなって錬金術の結果に作用しているらしい(なぜそんな事が可能かと説明すると話が長くなるので割愛)。

 

 自分のステータスを確かめたついでに、ウィーダのデータも頭に思い起こしておく。

 ギルドリーダになるだけあって、剣士レベルはこのメンバーの中で一番高い。





 剣士レベル 150


 錬金士レベル 105


 ライフポイント 3400


 マジックポイント 2200


 特殊スキル エクストラ調合(任意発動)・トラップ探知(自動発動)・急所の心得(自動発動)・緊急回避(自動発動)


 称号 四皇王座・色魔


 装備品 色欲の薔薇ブローチ(状態異常:魅了 メスのモンスターを支配)


 緊急指定アイテム オメガもんじゃ





 称号は四皇王座以外は実践では役に立たないので、無視。

 四皇王座は、一年程前に隠されたマップに入り込み、四つある各フロアのボス四体を短時間で倒した時に得たもので、属性のついた攻撃ダメージを無効化するというものだ。

 装備品は言わずもがな。


 頭の中でざっとステータスを振り返った後、ユウはアルンへと声をかけた。


「アルン、何があるか分からない。飛んでいろ」

「はーい、分かりましたぁ」


 声をかけられた少女はシステム画像を目の前に表示させ、アイテムを使用。

 その場に巨大なエビの揚げ物を出現させた。


 揚げ物はダンジョン内を走るアルンの動きに追随しながら、浮かび続けている。


「見た目が可愛くないから、前の箒の方が好きなんだけどなぁ」


 不満を呟きつつアルンは、その揚げ物に「よいしょっ」っと飛び乗った。


 アイテム名 フライエビ


 アルンがエクストラ調合で錬成したものであり、プレイヤーを乗せた状態で空を飛んで移動する事が出来るという代物だ。


 この状態なら、床に設置されたトラップに引っかかる事もなく、かつ上空から敵に攻撃を加えられる。


 空を飛ぶアイテムはかなりレアな方で、ユウが知っている範囲では片手の指で数えられる程しか存在していない。


 光景はある意味シュールだが、有用性は計り知れなかった。


 そんなアルンの姿を見たウィーダが呟く。


「ずりぃ、本物の体じゃなくても俺等は疲れるんだぞ」

「別に良いじゃない、本物の疲労じゃなくて脳が錯覚する『気のせい』なんだから。あんたは馬鹿らしく地面を這いつくばってでもいればいいのよ」

「こんな危険な場所で誰が這いつくばるかよ!」


 アルンはウィーダのそれには答えず、舌を出すのみだった。


 とはいえ、多少はウィーダの気持ちも分からなくはない。

 仮想のデータで作られているとはいえ、この世界のユウ達は疲労を感じとれるようになっているらしい。

 それが脳に与えられた錯覚の情報だとしても、肉体の状況にプレイヤーのやる気や集中力が影響を受けてしまうのは必然の事。


 長期に活動するつもりはないが、ダンジョン内の探索は出来れば早めに切り上げた方が良かった。

 特に、今日はデスゲーム初日の混乱があったので、なおの事。


 表面上では主だった変化が見られなくとも、気をかけられるのならかけておいた方が良いだろう。


 そんな風に考えていれば、先頭を走っているユウにウィーダが声をかけた。


「お、ユウ。左側にトラップがあるぜ」

「分かった」


 ウィーダの特殊スキルであるトラップ探知が発動したのだろう。

 特殊スキルは通常のスキルとは違って(一部例外を除いて)自動発動だ。

 マジックポイントはその度に減っていてしまうが、いちいち気にかける手間が省けるし、必要な時にしか発動しないものばかりなので、よっぽどの事がない限り不便にはならない。


 ユウは警告に従って、右側に避けた。


 ウィーダはそれを見て、このダンジョン内に入る事になった原因人物について質問してくる。


「おけおけ。で、今ゴンドウさんはどこら辺にいるんだ?」

「……、ここから数キロ先にいる、辿り着くのに十数分くらいかかるだろう」

「俺達かなりレベル上げしてるけど、それでもそんなにかかるのか」

「ああ」


 ユウは質問してくる仲間に対して、そう肯定の言葉を返す。

 現実の肉体ではそうもいかないが、高レベルプレイヤーは己のレベルに合わせた身のこなしができるようになる。


 レベルアップの際に、得られるポイントで筋力や俊敏性などの細かいデータを上げていけば、現実の肉体には出来ない事も自然と出来るようになるのだ。


 レベル百を軽く超えているユウ達なら、全力疾走できればそれなりのスピードは出せるのだが、場所が場所だ。


 入り組んだダンジョンは、絶えず通路が湧かれていて、モンスターなども徘徊している、楽に進めるとは思わない方がいいだろう。






「電光石火」のメンバーがなぜ自分達のギルドにそんな名前を付けたのか、それはレベル上げに関する事で、偶然にも全員のステータスが俊敏性や筋力などが突出していた為(三人ともが他のパラメータではなく、それらの項目を優先させて上げていた為)だった。


 さすがに、このクリエイトオンラインでトップを誇る、レベル百九十五の猛者プレイヤーには及ばないが、マップ移動の速さに関しては「電光石火」の右に出る者はいなかった。


「……っ」


 直線の道が途切れた前方。

 道は左右に分かれている。

 急な方向転換は、目前の壁を蹴って行った。


「おらっ!」

「よいしょっ!」


 背後のウィーダや、巨大なアイテムに乗っているアルンもおそらくそれに倣って、ダンジョンの中を疾風のように駆け抜けた。


「お、モンスターだ。ユウ、下がれ」

「ああ」


 そしてダンジョンマップ内のモンスターとエンカウントした時は、ウィーダと交代して位置を入れ替えた。


 アルンのスキル「敵情視察」を使えば敵のレベルや使用技なども知る事ができるが、ユウ達には時間がない。なので相手の確認に時間を費やすでもなく、そのまま通り抜ける事を選択した。


 だが、真正面から向かい来るプレイヤーを、敵であるモンスターが簡単に見逃すはずもないだろう。


 ウィーダとの交代はその為の対処だった。


「どりゃあああっ!」


 ウィーダが雄たけびを上げながらそのまま前進。

 目の前に迫ったゴブリンのモンスターは、手に持っているこん棒を振り上げてこちらへ攻撃するが、おそらくウィーダには通っていなかっただろう。


 自走発動のスキル「緊急回避」の効果で、敵モンスターの初撃を無効化にしたのだ。


「そんでもって食らいやがれ!」


 それで、攻撃を繰り出したまさに真っ最中であるモンスターに、ウィーダが剣を振りかぶりウンターを叩き込んだ。

 スキル「急所の心得」の発動だ。


 防御姿勢も取らずに急所に当てられたモンスターは、ステータス異常を起こししばらく行動ができなくなるので、ユウ達はその隙にゆうゆうとモンスターの横を通り抜けるのだ。


「へへっ、楽勝だな!」


 今までも何度かモンスターには出会ってきたが、全てこの方法で突破してきた。

 特殊なモンスターやボスには効かないだろうが、今まで出会ってきたのはごく普通のモンスターばかりだったのが幸いだ。


 モンスターを出し抜いた事で、顔を緩ませるウィーダを確かめるのはアルンだ。


「調子に乗らないでよ。ただ便利な動く壁になったくらいで」

「壁とか言うなよ。壁だって立派な使い道あるだろ」

「そうね、壁に失礼だったわ、で・く・の・坊」

「おい!」


 呼吸する様に恒例のやり取りを始める二人の声を聴きながら、ユウはウィーダと再び場所を交替。

 周囲に目を凝らした。


 おそらく、ゴンドウのいる場所はもうすぐのはずだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る