秘儀ッ女子高生!!
昨日の夜、俺は久しぶりに外にテントを建てキャンプらしいキャンプを楽しんだ。
もちろん周囲には万氷球独楽を巡回させていたんだけど……。
「なぜお前が俺の横で寝ているんだ、チビ森」
目を開ければ、すぐ隣には俺の寝顔をまじまじと見ていたであろうとチビ森がジッとこちらを見つめていたのだった。
最初はお化けかと思い、思わず「うわっ」と言ってしまったくらいだ。
てか、どうやって万氷球独楽を抜けてきたんだよ……って、お前は地中を自由自在に動けるんだったな、忘れてた。
てか、キャップ被ってないとまるで別人だな。
普通に可愛くて困るんだが。
「おはよう、氷一郎」
何もなかったように、チビ森が言ってきた。
俺は別に動揺してなどいないというように、できるだけ平坦な言葉で言ってやった。
「回答を求める」
そう言い放ちながら、俺は寝袋の中から体を起こそうと……。
「何ですか?」
「なぜ足で俺を挟んでいるんだ」
「女子高生の生足に挟まれて起きるってどんな気分ですか?」
ニヤニヤと笑いながら、チビ森はさらにギュゥギュゥと俺の体を締め付けてきた。
いや、生足って言っても……。
「少しだけいい気分だ。だけど、生足だったんだな、全く気付かなかった」
ここは素直に言っておいた。
どうせ言い訳したってあとでからかわれるだけだ。女子高生にからかわれるのには慣れていないので、回避の方法が分からないのだ。というか女子にからかわれたこと自体初めてだ。
逢坂氷一郎、二十三歳。
人の少ない終末世界のキャンプ場、そのテントの密室で女子高生に人生で初めてからかわれています。
困っていると同時に、朝なのでリトル氷一郎が元気です。
どうしたらいいのでしょうか。
「まあ、そんなことはどうでもよくてですね。今朝からみんな総出で早急に白い粉を街中に引き始めています。上手くいけば今日の夕方には終わるそうなので、雨が降ったり、強風が吹く前に氷一郎にお願いをしに来ました」
もの凄く真面目な顔で真面目なことを、横になっている俺の目の前で言ってくるチビ森。
「うん、分かったから。足邪魔なんだけど、避けてくれない?」
「嫌です、これはご褒美です。女子高生に生足で挟まれるという、本来は高いですよ?」
さすがにそろそろリトル氷一郎が限界だ。
そろそろ大人の本気を見せてやろう。
「凍らすよ?」
俺は無垢な笑みでそう笑いかけた。
ビクッとチビ森の体が反応したのが分かった。
そして、ゆっくりとチビ森は俺から離れてくれた。
ふぅー、助かった。
「てか、チビ森。周りはちゃんと確認したのか?」
「周り?」
何も分かっていないチビ森に俺はテントをすぐに出るように指示を出した。
意外にも素直にテントを出た。
続いて俺もすぐに出る。
「この周りを高速で回っている小さな球は見えるか?」
「球……球? どこに?」
やはり気づいていなかったのか。
間違って外に出ていたら、まじでお前死んでたよ。
俺が寝ている時だけは、万能氷ちゃんは俺の意識外なんだ。急に止めるとかはできないんだからな。
俺はすぐに万氷球独楽を止め、手元に引き寄せる。
「これが合計で五個、目にも止まらぬ速さで回り続けて常に俺をモンスターたちから守っているんだ」
キョトンとした顔をするチビ森。
仕方ないか。
「ちゃんと見てろよ」
そう言って、俺は一つの万能氷ちゃんを野球の変化球のようにぐるぐるとその場で回転させ、勢いよく近場の木に当てた。
サッ、と先ほどまでそこにあった木が白い霧となって無くなる。
そこに残るのは、木が埋まっていたと分かる地面の大きな穴。
「な? これに当たれば即死だよ、本当良かったよ。チビ森が途中でトイレとか言ってたら、確実にあの木みたいになっていたな」
ようやく自分が不用意に俺に近づいていたのか理解した様子だ。
顔を青ざめて、少しだけ手が震えている。
まあ、怖いわな。一瞬で死ぬんだから。
「まあ、今度から来るときは今日みたいに俺の半径五メートル以内に出るようにしておけよ。基本、こいつをそれ以上本体に近づけることはないからさ」
うんうんうんと何度も頭を縦に振るチビ森。
俺は少しだけ優しく笑いかけて、チビ森の頭を撫でてやった。
いや、お前……本当に小っちゃいな。
もの凄く手が置きやすよ。
「ご、ごめんなさい……」
「分かったら、これからじゃ大人をそう簡単にからかうなよ? 心臓に悪いんだから、もし昔なら俺は一発で警察行きだぞ? 親にばれたら軽く三回は死ねるわ」
「それはやめない」
「おい」
お互いにふふふと笑うことになったのだった。
本当にこいつは……いい性格してるよ、全く。
「それで今朝っていつから始めてるんだ?」
「朝の三時からだよ」
おいおい、マジかよ。
社畜だってそんなあさからは仕事してる奴はそうそういないぞ。
俺はどれだけ早くても朝の五時からとかだったぞ?
もしかしてサバイバル生活って社畜生活よりもやばいんじゃないか?
「今までチート能力で楽々生活を送っていた俺は、ようやく社畜生活よりもサバイバル生活の方が辛いという当り前のことを改めて知ったのであった」
「勝手な長文アテレコ止めろ。てか、人の心を勝手に読むな」
「あっ、本当に思ってたんだ」
ふふふと無邪気に笑い始めたチビ森。
そして、徐に腰にベルトにかけていたキャップを被り出した。
おお、キャップ帽子をかぶると一気にボーイッシュになるんだな。
これもまた可愛いからこそなせる技なんだろうな。
俺の顔って、酷いくらいにキャップ帽子が似合わないんだよな……ショボン。
「で、今日は何を食べに来たんだ? どうせ食いたいものがあって来たんだろ?」
「うんとね……ステーキ!!」
「あるわけないだろう」
俺は思わずツッコんでいた。
頭は叩かずに、キャップの鍔を叩いたけど。
チビ森は「もう……」と言いながら、キャップを直し上目遣いで見つめてくる。
こいつはこれがズルイ。
身長が小さいから自ずと上目遣いになる、男は可愛い子にやられたら誰だって弱いさ。
「じゃあ……」
「ホワイトシチューにするか。パンも日持ちが怪しいしな」
「シユー!?」
上目遣いで目をキラキラと輝かせて来るチビ森。
まあ、ただな……。
「もちろん野菜や肉はないぞ? あと牛乳」
すると、チビ森は腕をバッテンにクロスさせ、口を尖らせてきた。
「それはシチューとは言いませーん」
「文句言うな」
俺は再びキャップの鍔を優しく叩いた。
結構雑に扱っているはずなのに、なぜか口元をニヤリとさせたチビ森。
……お前、そっちだったのか。
今度から叩くのを止めよう、こいつが嬉しがってしまう。
「はーい」
そうして、チビ森はキャンプ椅子に座りながら、俺の調理工程をまじまじと見つめてきた。
ちなみにムキュキュはまだお休みのようです。
さあ、いつも通りてきぱきと料理しちゃいますか。
アウトドア缶!
バーナーセット!
コッヘル(大)に水をイン!
あとは気持ち程度に男の味方、味の素を入れる。
野菜ないからね。本当に気持ち程度だ。本当はトマトジュースとかあれば普通のシチューは野菜無しでも作れるんだけど、スーパーのは腐ってたしな……。
んで、お湯が沸いてきたらホワイトシチューのかけらを入れる。
それを買い混ぜながら、もう一つの調理を行っていく。
キャンパー御用達、アールマンのホットサンドメーカーにスーパーでたまたま見つけたフランスパンを適当なサイズにナイフで切って入れる。
あとは焼き色が付くまで、両サイドのフライパンでサンドするのみ。
あら、どうでしょうか。
ものの十分で出来てしまった朝食、野菜無しなんちゃってシチューに、外はカリカリ、中もカリカリフランスパンの完成だ!!
「ほら、できたよ」
「本当に手際良いね、女子力ってやつ?」
「あれを見て女子力と判断するとは……」
「う、煩い!! 昔はいいの! いただきます!」
なぜか怒りながら頂きますと言ってきたチビ森。
その表情もすぐにやわらぎ、なんちゃってシチューの虜になっていたのであった。
あはははッ、こいつ面白いな。
では、俺も頂きますっと。
「うん……まあ、悪くはないかな。フランスパンよりも、しっとりとしたパンの方がホワイトシユーには合うな」
物足りないホワイトシチューって感じだな。
まあ、実際に色々と足りてないんだけどさ。こんな世界だ、ご愛敬にしてほしいね。
ただいつかはどこかで新鮮な野菜を手に入れたいよな。
それに時間停止機能付きの【タンス】ちゃんも。
「うっま……うっま……」
隣の女子高生(仮)は無我夢中で食べていた。
おう、たらふく食え。んで、もっとおっきくなれよ身長。
胸はもう大きくならなくていいからさ。
「何? 私の胸に何か御用ですか?」
いつの間にかチビ森にジトっと見つめられていた。
いやあ……うん。
「身長伸びたらいいな」
「もう諦めてますー。それより私の胸に何か御用ですか?」
「立派に育ったなぁ」
俺はあえて考え深そうにそう言い放った。
すると、なぜか耳を真っ赤にしながら「もぅ……」って言われた。
おじさん可愛さショック死しちゃいそうだったわ。四つしか歳は変わらないけど。
ちなみ言っておこう。
あくまでジョークだ。
なのに……だったはすなのに……。
「刑罰執行、氷一郎は朝食抜きです」
そうして、俺の朝食はチビ森に奪われたのだった。
まあ、ただ食いたかっただけだろう。栄養は胸に行くようだがな。
「ん?」
「な、何でもないです……」
さすがに今の顔は怖かった……女子高生怖い。
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