私の役割
――大型ショッピングモール。
「なんであいつが……」
「え? なんで?」
「何しれっとここに来てんだよ」
「は? なんで高城が……」
そこに入ると、俺は辺りで色々と言われていた。
まあ、そうなるのも分かるし、俺自身がやり始めたことだけど……。
やっぱ心に来るものがあるよなぁ。
「そんな落ち込むなって! 説明すればこれよりは幾分か増しになるよ、たぶん!」
周りから守るように、俺の周りを歩いていたエイジが元気よくそう言ってくれた。
その他、周りを歩いて守ってくれている茜、和葉、増田、向井も笑顔を向けてくれる。
俺たちは味方だぞ。
そんな感じの笑顔だ。本当にありがとう。少しだけ気持ちが楽になったよ。
「高城くん、少しだけ我慢して欲しい。話し合いの後に、ちゃんとみんなの前で説明する場を設けるよ。君たちが何をしていたのか、私も図りかねているところでね」
先頭を歩いていた赤司さんが振り返ってそう言ってくれた。
まあ、石とか投げられないのは赤司さんが近くにいるからだと思う。
近くにいなかったら石を投げられてもおかしくないほどのことを俺は今までやってきたわけだし……。
それにしても傷つくなぁ。
俺の素は、みんなの知っているような高城ではない。
もっとずっと根暗で、ネガティブで、そんなに凄いやつでもないのだ。
「いえ、自分の行動を考えれば当たり前の意見です。ちゃんと受け止めます」
少しだけ強がる。
それでもその強がりはみんなには見透かされているような気がした。
俺の肩が露骨に下がる。
はぁ、少し憂鬱だ。
そのままサンドバックのように罵詈雑言じみた言葉を受け続けていると、とある部屋に到着した。
中に入ると、そこは事務室のような場所だった。
恐らく赤司さんの個人的な部屋だと思う。
「まあ、適当に座っていいよ。汚くてすまないね」
赤司さんの申し訳なさそうな言葉が聞こえてきた。
その通り、俺たちは適当なパイプ椅子や事務椅子に座り話を始めることにした。一人アキラさんは壁に腰を掛けて聞いてるけど。
「まずは謝らせてください」
全員が座ったことを確認し、ずっと立っていたエイジが開口一番にそう言った。
その言葉に赤司さんは少し驚いていた。
「私たちに謝るようなことをしていたのかい?」
「はい、全てではないですが、一部の件については謝らなければいけません」
「そうだったのか、何にせよ。若者の罪は許すためにある。私は許そう」
「ありがとうございます。そして、本当にすいませんでした」
「うん、許すよ。それでちゃんと話してくれるんだよね?」
「はい、全てを話します。俺たちがやってきた計画の全貌を――」
「なるほどね」
赤司さんが顎に手を当て、考えるようにそう呟いた。
同じようにアキラさん、紫森ねむ、他二人も同じような顔をしている。
そして、一様に俺の顔をちょこちょこと見てきていた。
これで少しは誤解が解けてくれればいいけど……。
「だから、淳史は何も悪くないんです。俺のために、未来のために、淳史は演技をし続け、自分を押し殺してきただけなんです。こいつが今までにやってきたことを許してはくれませんか??」
少しだけ前屈みになり、机に手を着きながらエイジが庇ってくれた。
俺はその優しさに思わず瞳がうるんでくる。
本当にいい友達を持てたことを誇りに思うよ。
他の皆もだ。俺を信じて庇ってくれて、ありがとう。
そんな目を向けると、全員が俺の方を見て親指でグッドサインを向けてきた。
「うん、青樹くんの言いたいことも分かるよ。君たちのやってきたことが正しいということも理解できる。それでも人を殺そうと計画したことを手放しに褒めることはできないのもまた事実……難しい判断だ」
その言葉に俺たち全員が唾を飲み込む。
分かってはいるんだ。
俺たちがやってきたことは、未来のためとはいえ人の道を外れる行いだということは。
その事実に目を背けてきたわけじゃない。
受け止め、かみ砕き……それでも実行するべきだと考えて、俺たちは行動を起こした。
許されないことも……。
「俺は良い判断だと思う」
突然、アキラさんが俺たちを肯定してくれた。
怒られると思っていた。
もしかしたらここを出て行けと言われるかもしれないとまで考えていた。
しかし、たった今アキラさんは俺たちを肯定してくれたのだ。
アキラさんが言葉を続ける。
「確かに赤司さんの言う通り、こいつらのやったことは手放しに褒めるべき行動ではない。それでも俺はこいつらのやった行動を肯定してやってもいいと思う。ここで死んだ奴らをとやかく言うよりかは、今生きている人間たちのことを考えて俺は結果を下したい。だから、俺はお前らを肯定してやりたい」
アキラさんは決して笑わなかった。
ただ真剣に俺たちのことを肯定してくれたのだ。
その心に俺の心も軽くなっていった。
「そうだね。私も今は君たちを応援してあげたいと思っている。ねむちゃんはどうかな?」
「んー、別にいんじゃない? 私は元々あいつら嫌いだったし、てか少しだけ高城のことも未だに怖い」
先ほどから三角椅子で遊んでいた紫森ねむはニシシと笑いながら言った。
適当、自分以外はどうでもいい、生きていればいい。
彼女はそんな人種だと、俺はすぐに気が付いた。
それにしても……。
「はぁ」
俺は露骨に気分が落ちていく。
面と向かって怖い発言されると、やっぱり傷つくなぁ。
「まあ、私は戦力になるなら誰でもウェルカムだよ」
再びニシシと笑う紫森ねむ。
もしかしたら俺はこらからもずっと彼女とは上手くいかないのかもしれないな。
大きなブーメランを喰らっている気分だよ。
「そうか。それじゃあ、私たち「大型」組は君たちを歓迎するとしよう。そして、一緒にこの街を再建していこう! 力を貸してくれるね?」
赤司さんが立ち上がり、エイジに向かって手を差し出した。
エイジは嬉しさを隠さずに、勢いよく立ち上がりその手を取った。
「もちろんです!! これから一緒に頑張っていきましょう!!」
こうして、俺たちは赤司さん、アキラさん、紫森ねむの三人に受け入れてもらえることになったのだった。
こんなにもすんなりと受け入れてくれるとは思っていなかった。
それを俺は素直に喜んでいた。
周りを見るとみんなも真剣な表情から、笑顔に変わっていた。
「まあ、他の皆がどういうかは分からない。ただ私たち三人は君たちの背中を精一杯後押しする。いいね?」
その言葉で、少しだけ現実に引き戻された俺たち。
しかし、エイジはやっぱり前向きだった。
「いえ、それだけで十分です。あとは何とか頑張って、みんなに認めてもらえるようにしますので!」
「うん、若いっていいね。エネルギッシュだ。それじゃあ、ここの住人を集めてくるから、少し休んでいてくれ」
「はい!」
そこでエイジが俺に向かって、右手を差し伸べてきた。
俺は何を聞くでもなくそれを力強く握り返した。
――嫌な役回りを押し付けてすまないな。これから取り戻していこう!
俺たち二人の心はたぶん一致していただろう。
「あとねむちゃん」
すると、赤司さんが思いついたように未だに三角椅子で遊ぶ、紫森ねむの名前を呼んだのだ。
そこには途中から俺たちの話に飽き、ニヤニヤと笑う紫森ねむの姿はなかった。
待ってました!
と言わんばかりのワクワクに満ちた表情をした姿。
俺はそんな彼女を初めて見た。
「ん?」
「あの人のことを頼んでもいいかな?」
「もっちろん!」
その瞬間に、彼女は地面に落ちてった。
この能力のことは知ってはいた。
しかし、実際にこの目で見るとその凄さが体に染みるように分かる。
もしかしたら彼女は力を隠しているのではないだろうか。
そう思ってしまう程の光景だったのだ。
「それじゃあ、私はみんなを集めてくるよ」
そう言って、赤司さんもこの部屋を出ていく。
そこでアキラさんが腰を上げた。
「お茶でいいか?」
「はい、ありがとうございます!」
エイジがすぐに返事をする。
それに俺たちもコクコクと頷く。
その後、アキラさんの淹れてくれたお茶で喉を潤した俺たちはここに住み住人の前に立った。
最初は全員が悪人でも見るような目で俺を見てきた。
しかし、エイジが全てを話してくれた。
俺たちのやってきた計画、これからの未来のこと。
そして、昔の俺の話など入らない話まで。
どんどんと話に熱が入っていくエイジの言葉に、ここにいるみんなは食い入るように聞いていた。
そして、徐々に俺を見る目も優しくなっていくのが自分でも理解できた。
こうして、俺たちの計画は全て順調に進み、『白猿』の討伐を成し遂げたのだった。
さらにはこの街に潜む闇の排除に成功した。
ただ気になることもある。
最後の討伐アナウンスにあった三人の名前。
鬼木えるむ、渡辺純、渡辺岳。
彼らは俺が集めたホームセンター組の生き残り。
もしかしたら裏切った俺に対し復讐しに来るかもしれないのだ。
恐くないと言ったら、それは嘘になる。
それでも今はもう、周りには守ってくれる仲間がいる、一緒に戦ってくれる仲間がいる。
俺たちを受け入れてくれたここの住人達もいる。
「残るは、この街の復興だな」
話を終えたエイジが、俺に向かって言ってきた。
「そうだな、やってやろう」
俺はその言葉に、笑って返してやったのだ。
******************************
――とあるマンションの一室。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
あいつは息を切らしながら、誰とも知らぬベッドの毛布に体をうずめていた。
それを私は見つけた。
さあ、役割を果たそう。
「やあ、渡辺岳くん?」
私は笑ってそう問いかけた。
「は? え? 紫森……」
「うん、久しぶりだね。ちゃんと話すのは初めてかな?」
「あっ……えっ……あの化け物はどうしたんだ?」
こいつは恐る恐る布団から体を出し、私にそう問いかけてきた。
「死んだよ、私たちが倒した」
「そ、そっか……良かったぁ」
その場に力が抜けるように、崩れ落ちていく。
「じゃあ、ばいばい」
私は笑顔で手を振りながら――。
「えっ? ウブッ!? た、助けて!!」
不用品は空気のない地中世界へと落ちていったのだった。
よし、後二人。
――とあるコンビニ。
飲み物ディスプレイのさらに奥にある、裏にやつはいた。
「やあ、渡辺純くん?」
「あっ……えっ……」
「ばいばーい」
彼もまた、私の地中世界へと落ちていった。
――街の外れにある公園。
「くっそ、なんだよあの化け物!! 聞いてねぇぞ、高城の奴め! くそッ! しかも、裏切りやがって!! 俺のハーレムをバカにしやがって!!」
やつは悪態をつきながら、ゴミ箱を蹴り上げていた。
私は彼のすぐ背後に飛び出る。
「やっほー、鬼木えるむ……いや、同級生殺しのいじめられっ子くん?」
「なッ!?」
彼は虚を突かれ、焦るようにこちらに振り向いた。
ふふふッ、驚いてるね。
「まさか誰も知らないとでも思ったの?」
「な、何のことだよ……ねむ……」
彼は明らかに動揺し、私の名前を呼んだ。
「あれ? 君とは一度も話したことないけど? なんで下の名前で呼ぶの? キモいんだけど? ――って、あっ、これは片桐さんの言葉だったね」
「ああ……あ゛だ゛……な、なんで……それを……」
思わず尻餅をつき、私からずるずると距離を離していく彼。
「君は片桐さんを犯して、叩いて、殺したよね? 他の人たちもそう。君はこの世界でやってはいけない復讐を選択した。そうでしょ? 人殺しのえるむくん?」
「あ゛あ゛!?!?!? うるさい、うるさい、うるさい!!」
彼はやたらめったらに腕を振るい、何かを剥がそうとしていた。
しかし、そこに何もあるはずがない。
あるのは……君の見ている幻覚に過ぎないんだよ。
「あっ、一応言っておくよ? 私は別に片桐さんたちとは接点なかったし、復讐しに来たわけじゃないよ?」
「うわぁ!? く、くるな! くるなぁ!!」
酷いなぁ。
ただ近づいてるだけじゃん。
「ただ私は役割を果たすために……」
「ぐるなぁッ!!!!!!」
「君を殺しに来ただけ」
そうして、彼もまた私の地中世界へと溺れていったのだった。
「さてと……氷一郎のところに行こっかな」
少し休憩してから、私は本栖湖へと向かった。
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