無自覚キックッ!
尾行を終えた俺は、窓際のキャンプ椅子に座りながら街下を眺めていた。
灯りはなく、真っ暗。
ただ自然と目は慣れていき、徐々に物の形が見えてくる。
そして、目に見えてくるのは「大型スーパーマーケット」を周りを少数で警備する人たちの姿。
ああ、やっぱりこっちのグループの人の方が治安がいいらしいな。
安全志向な人、優しい人が多い印象だ。
代わりに総合戦力で考えると、あのホームセンター組よりも劣っている。
そう、俺は先ほどここのツートップの尾行をしていた。
スキル【武人】で暗殺者になり、限りなく存在感を薄めて。
そんで辿り着いた場所がホームセンターだった。
チビ森から話を聞いていたので、ホームセンター組がやばい奴らの集団だということは聞いていたが、実際にこの目で見るとその荒れっぷりが目に見えて分かった。
口調、振る舞い、持っている武器、全てが近寄りがたいオーラを出していた。
まあ、その代わり総合力で考えるとこの「大型スーパーマーケット」組には勝っている。
しかし、こう尾行してみて改めて思う。
チビ森、奴はどこか変なのだ。
他の強い赤司とかいうリーダーもアキラとかいう癖っ毛くんも、結構はっきりと強さが分かる。こう明確な蛍光色を見ているような感覚だ。
ついでにホームセンター内にいた、もう一人の強そうな人もはっきりと強さが分かっていた。
しかし、チビ森だけは何と言うべきなのか……フワッとした強さなのだ。色と色の境界線が曖昧で、今一パッとしない。
「まあ、いいや……寝よ」
もうここで外を眺めていても何も置きそうになかったので、俺は寝袋に籠り眠ることにした。
だが、どうにもあの感触が頭に残っていて眠れないのだ。
あの感触……言わせないでくれよ。
これをハイなテンションというのだろうか。
まじで全然眠くならない。
くっそ、チビ森のせいだぞ。今度会ったら、がみがみ言ってやるぞ。
とりあえずチビ森のことを考えないように、ずっと別のことを考えていると。
俺はいつの間にか眠りについていたのだった。
******************************
――とあるビルの外。
「向井、本当にここで合ってるのか?」
「うん、絶対にそうだよエイジ。昨日もそうだったけど、今日も灯りが付いてた。そして、数時間前に消えたことをこの目で確認したよ。間違いなく、ヒーローはここを寝床にしているはずだ」
俺は仲間であり、元同級生の向井から情報を得ていた。
というか、ヒーローが来る頃から俺たちの仲間全員でこの街を隈なく捜索していたのだ。
それぞれの区画を決め、そこに張り込むことでヒーローを探す。
もちろん個人で動くということは仲間を頼れなくなるから危険な行為だ。
それでも賛同してくれた者たちだけが、俺の計画に参加してくれた。
本当にみんなは頼りになる。
昔から周りの人に恵まれて育ってきた俺は、そのことを嬉しく思っていた。
「危険なことをさせてすまなかったな、向井。でも助かったよ、ありがとう」
そう言うと、向井はわざとらしく鼻の下を擦り小さく笑った。
「えへへへっ、俺はこんな世界になってからエイジに付いて行くって決めたからな。俺なんかで力になれたなら、嬉しいよ」
「謙遜しすぎだ。俺は本当に周りに恵まれているよ」
そうして、二人で気づかれないように会話をしていると。
「お待たせ、エイジと向井!」
背後から聞き覚えのある可愛らしい声が聞こえてきた。
久しぶりに聞いた声に、俺は思わず嬉しくなった。
「
俺は笑顔で手を前に突き出した。
それみた和葉少しの間キョトンとした顔をする。そして、少しだけ耳を赤くして、握り返してくれた。
昔から和葉は恥ずかしがり屋だ。
話す時はいつだって顔のどこかを赤くしてしまう。
「わ、わ、わ……私はエイジのためなら、何だってするよ」
「その気持ちは本当にありがたいよ。それじゃあ、入ろうか」
「う、うん」
そうして、俺は合流した向井と和葉の三人で廃れたビルへと入って行く。
そんな時だった。
隣を歩いていた向井が肘でわき腹を突っついてきたのだ。そして耳元でこう呟いてきた。
「こんの……無自覚め」
無自覚?
俺が?
俺は誰よりも頑張ってるから、誰よりも周りを見ているよ。
ああ、そういう冗談か。
「向井も冗談が上手くなったね」
そう言うと、何故か呆れた表情を向けられた。
んー、何か間違ってたのかな?
まあ、いいや。
今はやるべきことに集中しないと。
事前に向井から聞いていた五階に到着した。
エレベーターはもちろん動いていなかったので、できるだけ音を立てずに階段で登ってきた。
幸いにもまだ気づかれていない様子だ。
向井を先頭に、俺たちは静かに静かに通路を進んで行く。
所々に落ちているガラス片は確実に避けなければならない。
すると、とある一室の前で向井が足を止め、指を指した。
(ここか?)
(おう、ここだぜ)
(ありがとう向井。それじゃあ、和葉頼むよ)
(任せて、時間は明日の十二時十五分くらいでいんだよね?)
(それで頼むよ)
(分かった!)
俺たちはこそこそと耳元で話しつつ、計画を始めた。
和葉がドアの前に立ち、そっと壁に手を触れる。目を瞑り、集中している様子だ。
そして――。
「んッ!」
気合を入れた声が少しだけ大きく通路に響いた。
すぐに和葉の「できた!」という軽やかな表情が見えた。
よし、ここまで完璧だぞ。
俺たちはすぐに階段を降り、ビルを出発した。
そして、仲間の全員に連絡を取り、一度住処で落ち合うことになった。
その道中。
「にしても、和葉。スキルの扱い方が上手くなってきたな」
俺は和葉スキルの上達ぶりに感心していた。
前は発動までに二分ほどかかっていたが、今回は数十秒ほどで完了したのだ。
まあ、和葉は元が真面目な子だ。
納得できる成長だな。
「そ、そうかなぁ~?」
なぜかフニャフニャと揺れる和葉。
まあ、誰だって褒められたら嬉しいよな。でも、それは和葉自身が勝ち取った言葉だよ。
「うん、初期の頃と比べると凄い成長だ。素直に俺も嬉しいよ、仲間が強くなることはいいことだ」
「えへへ~」
と、そんな会話をしていると向井が。
「今の一瞬でスキルを二つ同時使用だもんな。和葉、お前チート主人公のヒロインルートを確実に歩んでいるな」
そう言って、向井も嬉しそうに和葉の肩をガシガシと叩いていた。
ちょっとだけ痛そうに嫌がる和葉。
うん、向井は今度からそういう人の心にずかずかと踏み入っていくところを直していこうか。これからは俺たちの世界だ、仲間は大事にないとね。
にしても……。
「あはははっ、確かに和葉は可愛いからヒーローさんにも気に入られちゃうかもね」
向井が言っていた主人公とは、ヒーローさんのことだろう。
うん、仲間が引き抜かれちゃうのは嫌だけど、お互いの同意の下なら好きに生きてもいいと俺は考えている。
あれ?
なんで二人はそんな死んだ魚のような目をしてるの?
そう思った、その時だった。
「この……無自覚イケメンめっ!!」
背後からいきなりお尻を蹴られたのだった。
いつもなら慌てて構えるけど、その声には聞き覚えがあった。
「痛いよ、快。びっくりするじゃないか」
「あはははっ、すまんすまん。つい嬉しくなってな」
ガハハハと豪快に笑う、
小学生来の仲にして、高校までほぼ同じクラスというただならぬ縁を感じる親友の一人だ。
その大きな背丈も、広い肩幅も、盛り上がった筋肉も、鋭い目つきも……ああ、本当に久しぶりだね。
「俺も嬉しいよ、久しぶりに全員集合だからね」
「おう、ついに俺たちが集まるんだからな。討とうぜ、『白猿』」
「もちろんだよ」
そうして、熱い握手を交わした。
このゴッツイ手、本当に懐かしいな。
「んで、ヒーローの方は上手くいったのか?」
「もちろんだよ。和葉がしっかりと【快眠回復】と【起床設定】のスキルを使ってくれたよ」
「そうか、やるな和葉!」
再びガハハと豪快に笑い、和葉の背中をバシバシと叩く快。
これまたちょっぴり嫌そうな顔をする和葉。
本当に和葉がいてくれて良かった。
俺たちが今やってきたのは、ヒーローの起床を少しだけ遅くする計画だ。
俺の見た【未来ムービー】では、ヒーローは間に合ってしまう。
何か工作をしなければ、やつらが死ぬ前に到着してしまう。見たのは「大型スーパー」組の紫森ねむが死ぬ直前に颯爽と現れて救い出すヒーロの姿。
それじゃあ、ダメなんだ。
まだ生き残りが多い。もう少しだけ遅く来てもらわなければ、困る。
だから、俺たちは彼の睡眠に工作を仕掛けた。
バレる可能性が心配だったが、どうやら大丈夫だったようだ。
俺の見た未来では彼が周囲を全て見えているような素振りを見せていた。恐らく何かのスキルだろうが、今回はそれで感知されないかが心配だったのだ。
まあ、それは杞憂に終わった。
「あとは、明日の昼を待つだけだね」
その言葉に全員が笑顔で頷いてくれた。
そう、これは俺を筆頭に仲間を引き入れて始めた人を殺す計画。
そして、未来の世界を救うための犠牲の計画。
さあ、始めよう。
明日のために、僕たちはこの日まで耐えて、耐えて、我慢して――頑張ってきたんだから。
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