職業とスキル
周囲を警戒しつつ、俺はベンチに座りながらステータスカードを確認していた。
ああ、うん。
もちろん赤い絵の具……という名の血が塗りたくられた場所は避けて座っているとも。
――――――――――
名前:逢坂氷一郎
レベル:――
職業:【新規職業が取得可能です】
スキル:【新規スキルが取得可能です】
状態:人間(正常)
称号:【◆の◆◆】◆◆◆、【◆・◆◆】
――――――――――
そう、とりあえず後回しにしていた、職業とスキルについて腰を据えて確認してみることにしたのだ。
俺のweb小説の王道知識が間違っていなければ、この職業とスキルがこの世界で生きていく上での鍵となるはず。
しっかり考えて、選んでいく必要があるだろう。
あっ、ゾンビが一体やられた。
この万氷球が何を倒したのか、何となく分かるんだよね。
「倒したよー」って意志が脳に直接送られてきているような感覚である。
案外可愛い万能氷ちゃんである。
まあ、それはいいとして。
この職業とスキルはライフの世界にはなかったシステムだ。
ライフの記憶……というよりも、ラノベを呼んできた氷一郎の記憶が重要になってくるだろう。
本当に……趣味で読んでいて良かったよ。
大学時代の一時期、大ハマりしていたweb小説。まじ感謝だわ。
早速、職業の欄に触れてみた。
――――――――――
【選択可能職業枠:0/1】
騎手、奴隷、サンドバック、亀太郎、黒煙魔法師、刀剣士、賭博士、冒険者、氷結魔法師
――――――――――
……あきらかにネタ枠あるよね、これ。
どう考えたって【奴隷】【サンドバック】【亀太郎】は選んじゃダメなやつでしょ。
社畜道まっしぐらだったからなのか?
粋な仕事しやがるな、全く。
【騎手】はまあ、バイク好きだからかな。
ただ、ゲームでもそうだけど、俺は騎手とか馬に乗ったりとかは特に面白そうとは思わない。
現実で風を切りながら乗るバイクだからこそ楽しいんだ。
それと【刀剣士】【賭博士】【冒険者】は普通過ぎる感じもするけど、無難枠でもあるような気がする。 あっ、【賭博士】は無難とはかけ離れているか。
だとすると無難枠は他二つかな。
まあ、これも却下かな。
もっと面白うそうな職業が二つもあるしね。
最後の【氷結魔法師】も確かに魅力的だ。
だけど、今の俺に必要なのかって話だ。
正直、ライフの能力がこの職業よりも劣るとは思えない。むしろ格が全然違うようにも思える。
あくまで勘だけどね。
まあ、圧倒的に一番魅力的なのはこれだよね。
Web小説ではあまり聞いたことがないけど【黒煙魔法師】。
煙、ということは炎系の能力が得られる可能性がある。
炎と氷が操れれば……やばい、にやけが止まらない。絶対にカッコイイ!
でも、これを取得したらライフの氷能力が弱まるとかあれば、それはそれで考えものなのだ。
そんなことはないとは思うが、可能性としては否定できない。
「うーん…‥難しいところだなぁ」
頭をクシャクシャとかき乱しながら、俺は唸り続けた。
考え過ぎると正解から遠のいて行くのは分かっているんだけど、実際に直面するとモニョる。
web小説では、主人公はパッパと決めている印象があるが、残念ながら俺はそう決断力のある人間ではない。
決断力が高かったら、今頃社畜道なんて進んでないよね。
「ここは賭けてみるのも悪くないか。俺にはライフの能力がある、もしこれが地雷だったとしても以降はライフの能力だけを使えばいいんだ」
意を決して、ステータスカードの文字をなぞった。
≪職業:黒煙魔法師を選択しました。本当によろしいですか?≫
急に返答を求められた。
しかし、返し方が分からない。ステータスカードには特に変化は出ていない。
ということは……。
「イエス」
≪職業:黒煙魔法師を獲得しました。併せて、【ファイアポイント】【煙幕】【消火】スキルを獲得しました≫
おお、口頭で返答するのが正解なのか。
それに職業を得ることで、付属のスキルを獲得できるシステムか。
なるほどな、何となくだけど仕組みが掴めてきたぞ。
一度、確認しておこう。
俺は再び、ステータスカードに目を向けた。
――――――――――
名前:逢坂氷一郎
レベル:――
職業:黒煙魔法師Lv.1
スキル:ファイアポイントLv.1、煙幕Lv.1、消化Lv.1、【新規スキルが取得可能です】
状態:人間(正常)
称号:【◆の◆◆】◆◆◆、【◆・◆◆】
――――――――――
うん、思った通りだ、
職業にスキル、どちらにもレベル設定があるタイプ。
ここまでくれば俺のweb小説知識が火を噴く日も近いだろう。
さあ、次だ次。
だんだん楽しくなって来たぞ。
――――――――――
【選択可能スキル枠:0/2 SkillPoint:104】
着火(1)、そよ風(1)、剣技(2)、サイコロ(2)、毒耐性(3)、衝撃耐性(3)、無風(4)、消音(4)、アラーム(50)、タンス(50)
――――――――――
いや、最後の二つ!!
明らかにおかしいだろ!?
カッコ内の数字は恐らく必要なスキルポイントだろう。
俺がなんでこんなにスキルポイントを持っているかもよく分からないけど。
そんなことよりも、最後の二つのスキル【アラーム】と【タンス】の必要スキルポイントだけが異常に多い。
明らかにこの二つだけがハードルを高く設定されているのか、単なるネタ要素として加えているのか……難しいところだ。
引っかけなのか?
いや、そんなに意地悪でもないよな。たぶん。
いいじゃないか、その賭け乗ってやるよ!
俺は迷うことなく二つのスキルを選択した。
≪スキル:【アラーム】を選択しました。SkillPointが50ポイント必要です。本当によろしいですか?≫
「イエスだ」
≪スキル:【タンス】を選択しました。SkillPointが50ポイント必要です。本当によろしいですか?≫
「イエスだよ」
≪スキル:【アラーム】および【タンス】を獲得しました≫
ふぅ、やってしまったか?
いや、ちゃんと確認してからにしよう。
俺は再びステータスカードに目を向けた。
――――――――――
名前:逢坂氷一郎
レベル:0
職業:黒煙魔法師Lv.1
スキル:ファイアポイントLv.1、煙幕Lv.1、消化Lv.1
EXスキル:アラームLv.1、タンスLv.1
状態:人間(正常)
称号:【◆の◆◆】◆◆◆、【◆・◆◆】
――――――――――
もう少し詳しく分からない物かと、スキル名に触れてみた。
すると、どうだろうか。より詳しく説明文が表示されるようになったのだ。
【黒煙魔法師】
1st職業。煙と火を操る魔法師の卵。
【ファイアポイント】
最上位の着火スキル。半径三メートル以内であれば、どこでも着火可能。
【煙幕】
口内から煙幕を吹きだすスキル。煙の為、風に左右されやすい。
【消火】
最上位の消火スキル。半径五メートル以内であれば、どこでも消火可能。
【アラーム】
モンスター、人間、敵意、攻撃などを警告するEXスキル。レベルに応じ、範囲と感度が拡大する。
【タンス】
物を収納するタンスを出現させるEXスキル。容量、追加効果はレベルに属する。
まあ、あれだ。俺の勝ちだ。
スキルポイント50ポイントは伊達じゃなかったな。
ネタでもなく、まさかのEXスキルときましたか。
説明文を見るからに、当たりの予感しかしない。
「ふっ、ははははははッ!!」
俺は笑わずにはいられなかった。
都合の良いことに、近くには誰もいない。
≪ファーストジョブとファーストスキルを確認いたしました。これよりレベル制システムを解放いたします≫
ぬおッ!?
次はレベル制システムと来ましたか。
どれどれ。
――――――――――
名前:逢坂氷一郎
レベル:1
職業:黒煙魔法師Lv.1
スキル:ファイアポイントLv.1、煙幕Lv.1、消化Lv.1
EXスキル:アラームLv.1、タンスLv.1
状態:人間(正常)
称号:【◆の◆◆】◆◆◆、【◆・◆◆】
――――――――――
おお!!
ついにレベル表示が『――』から『1』に変わった。
恐らくトリガーは、モンスターを倒し新規職業とスキルを手にすること。
そうすることで、ようやくこの世界では出発点なのだろう。
まあ、俺の場合、職業とスキルを手にするまでの数え切れないほどの大量のゾンビとスケルトンを……。
ああ、そういうことか。
恐らくスキルポイント104は、普通よりは多い可能性を考えていたけれど、もしかしたらファーストキルで職業とスキルが選択可能になる。
そして、選択するまでの間に倒したモンスターの分だけスキルポイントが入る仕組みなのかもな。
その方が納得できる。
「よっしゃ、後は検証だな」
俺はその場に立ち上がり、より詳しくスキルの検証を開始することにしたのだった。
むふんっ、と鼻息を鳴らしながら。
******************************
――氷一郎を遠くから見つめる者が一人いた。
「あれは……何をしているの?」
私は森の茂みに隠れながら、望遠鏡を覗いていた。
細かい動作や何をしているのかまでははっきり見えない。
森は都心よりもモンスターが多い、だからこうして強行突破できそうな道を探していたんだけど…‥。
そんな時、たまたま大きな声を聞いて彼を見つけたのだ。
山の中にある自販機。
その近くにあるベンチに座る一人の男を発見した。
無防備にもほどがある。
山の中はモンスターがより一層蔓延る危険地帯なのだ。
なのにあんな大声で独り言を喋り、碌に周りを警戒するそぶりすら見せない。
あんなことしていたらすぐにあいつはモンスターになってしまうだろう。
そう考えた私は、【消音】スキルで音を消しながら足早にこの場を後にすることにした。
「一応、戻ったらリーダーに報告しておこうかな。山中にヤバい奴がいたって」
スキル【地中潜り】で地面にスッと入って行く。
そして、できるだけ早く街にある住処「大型スーパーマーケット」へと戻っていったのだった。
「赤司さん戻ったよ」
私はすぐにこのグループを纏め上げるリーダーの赤司総司さんに報告をする。
いつも通り、優しく微笑んで報告を聞いてくれるリーダー。
本当に私はいいグループに恵まれた。
「お帰り、ねむ。森の様子はどうだった?」
ペットボトルに入った水を渡しながら、赤司さんが聞いてきた。
ありがとうございます、ちょうど走ってきて喉が渇いてたところなんです。
私は数口水を飲み、口を開いた。
「モンスターの数は少しだけ減ってたよ。それとね……うんとね、変な男の人がいたよ」
「ほぉ? あのゾンビの巣に?」
「うん、それも結構余裕そうな顔してた。遠くからだったから、はっきりとは見えなかったけど」
「そうか、そうか。一応、みんなに共有して注意しておいた方が良さそうだね」
「そうだね、赤司さんに任せるよ」
すると、赤司さんが私の頭を優しく撫でてくれた。
あの男の人……ここに来るかな?
来たら色々と面白そうだな、ふふふっ。
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