跳び箱ッ!!



 二口ほどお茶を飲んで、俺は本格的な検証を開始した。


 えっと、まずは【ファイアポイント】を無難に試してみようかな。

 とりあえず掌を前に突き出し、適当な小枝に向けて発動してみた。


「はッ!」


 ボッとすぐに枝が燃え始めた。

 着火というか……燃焼に近いな。

 着火と言うと、チリチリっと火種がつくイメージがあるけど、このスキルは一瞬で対象を燃やした。


 次は体感で発動可能距離を把握しておこうかな。

 その後、何度も近くの物を燃やし、三メートルという範囲を体に覚えさせた。

 これでこのスキルは十分だろう。


 そうだ【消火】もしないとな。


 未だに燃えている枝に焦点を合わせ、集中する。


「消えろッ!」


 ボフッと、これまた一瞬で火が消えたのだった。

 同じようにこれも何度も何度も発動し、体に五メートルという距離感を掴ませた。

 よし、これもこんなものだろう。


 次はちょっと怖いけど…‥【煙幕】だ。

 説明文では口内から噴き出すと書いていたから、ブレスのようなものだろうか。

 どちらかというと毒霧とかそっちの方が近いのかな。


 スーッと、大きく息を吸い。


「フーッ」


 心で【煙幕】と唱えながら、息を吹きだしてみた…‥のだが。


「ゴホッ……ゴホッ、ゴホッ」


 思いっきり咳き込んでしまった。

 最初は順調に口から煙を吹き出せていた。煙草をふかすような感覚だ。俺自身は煙草を吸わないが、挑戦しようとしたことはあるので何となくだが分かる。


 だけど、息が続かなかった。

 一瞬、息を吸おうとすると、一気に肺に煙が流れ込んで咳き込んでしまったのだ。


 ……このスキル、肺活量必要なの?

 聞いてないんですけど。


 もう一度、試してみる。

 次は途中で解除できるのかどうかを試してみよう。


 大きく息を吸い……【煙幕】ッ。


「フーッ」


 いいぞ、順調だ。

 もう少し、もう少しなら息が続く。

 いけ、頑張るんだ俺。


 そして、苦しさがマックスになったその時。

 心の中で解除と念じ、歯をカチリと合わせ口を閉ざした。


 それが思わぬ結果を生んだ。


「うおッ!? 燃えた!? 煙が燃えた!?」


 カチリという歯を噛むと、生み出されるはずのない火花が生み出され、広がっていくように煙全部が赤く燃え上がったのだ。

 瞬間的に顔に熱風が襲い、火傷したかと思ったよ。

 ただ慌てて、顔を逸らしたので「熱い」で済んだ。

 顔を少しでも逸らすタイミング遅れたら、髪の毛がチリチリになっていてもおかしくはなかった。


 なるほど……。


「要練習だな、こりゃ」


 お茶で煙たい口の中をリフレッシュしてから、次のスキルの検証へと移る。


 えっと次は……そうだな【タンス】を試してみるか。

 説明文を見る限りでは、アイテムボックスやマジックポーチとかに近いスキルなのではないかと踏んでいる。

 というか、そっちであってくれ。

 Web小説では定番、要するに確実に最強なのだ。

 別に最強になりたいわけではないけど、楽できるならとことん楽はしたい。


「おいで」


 スキル【タンス】を意識し、そう口に出してみた。


 結果、目の前に箪笥たんすが出てきた。

 そう、家によくある箪笥だ。どちらかというと庶民の味方のヨケアやコトリにあるような収納箪笥ではなく、昔ながらの和の箪笥といった感じだ。

 まあ、変なところを上げるとするならば、黒く半透明であり、なぜか俺について来るように宙を浮いているというところか。


 ダッシュしてみたり、歩いてみたり、緩急つけて剥がそうとしてみたけど、やっぱりついて来るんよね。犬みたい。ワンコと名付けよう。


【タンス】の一番上の引き出しを引いてみた。


 すると、使い方がなぜか分かった。

 というか頭の中に情報がどっと流れ込んできたのだ。


「あー……そういうこと。要するに、アイテムボックスね。というかモロにアイテムボックスだね」


 それに気が付いてしまった俺は、にやけ顔をどう収めればいいか考えていた。


 考えても見て欲しい。

 アイテムボックスがあれば何でもできそうな気がする。

 しかも、収納量はほぼ無限に近そうだ。

 今度から歩くショッピングモールと呼んでくれ。いや、やっぱりやめてくれ。


 嬉しさのあまり、小躍りしてしまう始末だ。

 本当に近くに誰もいなくて良かった。

 こんなの上司に見られたら一年は飲み会でバカにされるよ。


 さあ、一旦心を落ち着かせるのだ。

 こんなことに時間を使っている暇は正直あまりないのだ。


 検証はここで全てやっていく。


 そして、次には寝床を見つけなくてはならない。

 そんで、できれば情報を知る人物に、詳しく話も聞きたいところではあるが……。


 映画とかでは、グループとか作って良く対立しているのを見るよな。

 そういうのは正直勘弁だな。

 俺の力をなんて説明すればいいのかも分からないし、足を引っ張られる可能性だってある。


 どっかでソロプレイヤーいないかな?

 まあ、いいや。

 とりあえず、検証の続きだ。


 最後は【アラーム】、危機察知系のスキルだと予想しているが……。


「カモンッ!」


 そう唱えてみるも、反応がない。

 何かヒントはないかと、あらゆるものを試してみていると。


 ステータスカードの表示が変わっていることに気がついた。


 ――――――――――

【アラーム詳細設定】

 人間感知:オン/オフ

 モンスター感知:オン/オフ

 敵意感知:オン/オフ

 攻撃感知:オン/オフ

 虫感知:オン/オフ

 ――――――――――


 こんなの全部オン意外に選択肢はないだろう。

 俺はすぐに全ての項目の「オン」に触れた。


≪虫を感知しました≫

≪虫を感知しました≫

≪虫を感知しました≫

≪虫を感知しました≫

≪虫を感知しました≫

≪虫を感知しました≫

≪虫を感知しました≫

≪虫を感知しました≫

≪虫を感知しました≫


 あー、煩い!!

 虫感知オフ、虫感知だけはオフですわ!!


 すぐに頭に鳴り響くアナウンスが静かになった。


 てか、どんだけ周りに虫がいるんですか!?

 目に見えないものまで感知してくれるんですか!?

 凄いですね!?

 他の項目も自分の感知外の反応を感知してくれるんですかね!?


 もう自分でも何に怒っているのか分からなくなっていた。

 ただ性能は十分すぎるほどに高いようだ。


 てか、アナウンスじゃなくてピキッっと感覚で分かるような設定はないのかな?

 よくアニメである「何奴!?」ってのをやりたい。


 そう思ってすぐにステータスカードを弄ってみると、すぐに発見した。

 アナウンスタイプか直感タイプ、視界表示タイプがあるようだ。

 俺はすぐに直感タイプを選択した。


 これでどっちの方向にモンスターがいるとかの感知が直感で分かるようになったみたいだ。

 うん、確かに分かるな。凄いなこのスキルは。「何奴!?」も夢ではないな。


「さて、そろそろ食料も探さないとな」


 一応、キャンプ用の調味料などは準備していたので手持ちにある。

 しかし、食料は現地のスーパーで調達しようと考えていたので、手持ちにはなかったのだ。


 もうほぼ確信しているが、この世界はパニック状態を通り越して、サバイバル状態になっている可能性が高い。

 そうなると、食料はどこも品薄状態。

 奪い合いが始まっていてもおかしくはないだろう。


「ま、どうにかなるよな」


 俺はバイクに跨り……。


 あっ、またゾンビ死んだわ。

 これで検証中に倒したのは七体目かな?


≪レベルが上がりました≫

≪職業:黒煙魔法師のレベルが上がりました≫


 おっ、どうやらゾンビ七体目でレベルが上がったようだ。

 すぐにポケットからステータスカードを取り出してみる。


 ――――――――――

 名前:逢坂氷一郎

 レベル:2

 職業:黒煙魔法師Lv.2

 スキル:ファイアポイントLv.1、煙幕Lv.1、消化Lv.1

 EXスキル:アラームLv.1、タンスLv.1

 称号:【◆の◆◆】◆◆◆、【◆・◆◆】

 ――――――――――


 わーい、上がったよ。

 でも違いが全く分からないよ。なんだろ、これ。

 身体能力が上がったとか?


 そう考えた俺は、一度バイクを降り、その場でジャンプしてみた。


「うわっ!? 本当に身体能力上がってやがる」


 明らかに目に見えるような変化ではない。

 それでも確かに、前の俺よりも高く飛んでいたのは確かだ。自分の身体能力だ、自分が一番詳しいさ……残念な方向にな。

 今なら跳び箱八段飛べそうだぜ!


 あとは……職業の変化はないな。

 レベルは変わった、能力は……そうかそれだ。


「フーッ」


 と、黒煙を吹きだしてみた。

 凄い、煙の量が少しだけ増えている。それに吹きだす勢いも拡散力も少しだけ増している気がする。


 それじゃあ、カチンと。


 ボワッっと黒煙に炎が広がってゆく。


 うん、炎の威力も心なしか増している気がするな。

 そうか、職業のレベルが上がるとそれに付随するスキルの威力が増す感じだな。

 そして、スキルのレベルが上がれば、操作性が増すというような感じでバランス調整されているのかもな。スキルの方はあくまで予想だけど。


 それに基礎レベルと職業レベルはモンスターを倒すことで上がることは明確だ。

 それ以外、考えられない。

 だって、バイクに跨ろうと下だけでレベルが上がるなんてありえない。絶対にゾンビが経験値になってくれたんだ。

 スキルは…‥熟練度的な考えが合っているのかな? 使えば使う程、使いやすくなる。

 うん、とりあえず暫定的な考え方はこれで行こう。


「よし、それじゃあ出発! 目指せ…………食料ありそうなとこ!」


 もちろんこの付近の土地勘なんてない。

 だから、適当にバイクを走らせることにした。


 もちろん万氷球独楽を周囲にぐるぐると回し、ゾンビをひき殺しながらである。


「グワァィゥァィゥァッ!?」


 いや、本当にゴメンと思ってるよ?

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