彼岸花

@hikari-book

第1話

 旦那が死んだ。職場で急に倒れて、そのまま死んだ。くも膜下出血だったそうだ。まだ実感がわかない。もうあなたと会えないだなんて、信じることなどできるわけがなかった。友人とかお義母かあさんとか、色々な人と話をした。思い出話やこれからやりたかったこととか、とにかく話して、とにかく泣いた。葬式とかやらないといけないことが終わるまで、夢もみなかった。夢であなたに会って、泣いて泣いて泣いて、朝起きてあなたがいない事を実感させられるのも嫌だったからそれで良かったのかもしれない。


 それから二週間が経った。私は大きな川のそばに座っていた。すぐにこれは夢だと気づいた。なぜなら旦那が川の向こうに立っていたから。

「すぐに会いに来れなくてごめんな。すごく、迷惑かけた。」

「ほんとよ!私がどれだけ待って、どれだけ悲しんだかわかる!?」

「ごめん。本当にごめん。死んじゃったことも、君を一人にさせてしまったことも。」

「苦しくなかった?」

「え?」

「倒れた時とか、病院に行った時とか。」

「苦しくは...無かったかな。君への申し訳ない気持ちの方が強かった。」

「そっか...まだ気持ちの整理はつかないけど...とにかく私は精一杯に生きるわ。あなたは私を一人にした罰として少しそこで待ってなさい!」

「君は...本当に強いな...」

「あなたはもう居ないのだし...私も強くならないといけないのよ。」

 決心のように私は夢の中の旦那に告げた。


「そうだ、ここに花を植えていかないか?ほら僕が好きだったあの花を。」

「いいけど...そんなことできるの?」

「できるさ。この花が僕らが一緒にすごした証だよ。」

「この花があればまた会えるのかな。」

「会いに来るさ。君が望めば、いつだって。」

「うん...会えた数だけ花を植えましょう。私たちの想いの数だけ。」

「なら、ここがいっぱいになるまで会いにこないといけないな。」

「そうね。」

 久しぶりに、笑えた気がした。


 うたた寝から目覚めると、私の手には一輪の真っ赤な、それは真っ赤で美しい彼岸花が握られていた。

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