第29話 バール、ロニと再会する。
『ガデスの玉座』とデクスローが呼んだ塔のような建物の中を、俺達は
そう、あのエルフェリアにあったものとほぼ同じものだ。
この大掛かりな
「このまま最上階まで上がる」
そう短く告げたデクスローが、新たな杖を振るって俺に強化魔法を施す。
その意図を、俺は察する。
このまま会敵して、戦闘になるということだ。
「前回は、これに乗らなんだ」
視線を少し落として、デクスローがつぶやく。
「前回は……エマの背に乗って、最上階に攻撃を仕掛けたのじゃ。あの頃、この玉座はガデス王族の最後の砦であり、多くの敵がここを守っておったのでな」
「全部すんだらよ、酒を飲もう」
かける言葉が思い当たらず、俺は未来の話をする。
それに老魔術師が小さく笑う。
「若者は、良い。顔を上げて、未来に向いて歩いて行ける。儂はいつも足元を見るのよ。なんぞ、こぼしておらぬか、とな」
「なら、今は前を向いてろよ。俺と同じにな」
「……」
俺の言葉を聞いたデクスローが小さく笑い始める。
「そうさの。酒を飲もう。お主と、ロニ殿と、社長たち皆で。儂が秘蔵しておる一番いい酒を出してやろう。ならば……生き残らねばならんのう」
デクスローの眼光が厳しく、『敵』を見据える。
すでに
「ロニッ!」
その玉座の隣に、ロニがいた。
黒と赤を基調とした些か布面積の少ないドレスを纏って、無表情にこちらを見ている。
俺の声にも、まったく反応しない。
「〝勇者〟ご一行の到着ですか。私の【勇者】たちは役に立たなかったようですね」
豪奢な司祭服を着た男が、不愉快そうに俺達を
「ロニに何をした……!」
「少しばかり協力してもらっただけですよ。彼女の〝聖女〟の力が必要だったのでね」
ナブリスが顎をしゃくると、ロニが一歩前に出る。
俺達を視界に捉えてはいるようだが、その瞳には何も映っていない。
俺が、わからないのか? ……ロニ。
「ここまで高出力な『神威端末』だったとは、嬉しい誤算でしたが」
「何を言っている……ッ」
「野蛮人には理解できないことですよ。さあ、ロニ。殺しなさい」
ナブリスの言葉にロニが身の丈ほどもある見慣れない大剣を振り上げると、閃光がきらめいて数条の光線が俺達に向かって発射された。
「いかん……ッ!」
間一髪のところで一歩前に出たデクスローが、<
防がれた光線から魔法の火花が周囲に飛び散り、その余波で背後の壁がボロボロと削れていく。
「ロニ……? どうしたんだ、ロニッ!?」
俺の声がまるで聞こえていないように、なおも攻撃を続けるロニ。
「ロニ、それを処分しておきなさい。私は先に行っていますよ」
「はい。ナブリス様」
混乱する俺達をつまらなさげに見たナブリスが、身をひるがえして奥の扉に消える。
「待て、ナブリス!」
俺が前に踏み出そうとした瞬間、今だ光弾が舞う広間をロニが跳んだ。
<
突然のそれを『
「くっ……」
速さも、パワーも【勇者】たちを凌ぐ勢いだ。
「ロニッ! ロニッ! やめろ! 俺だ!」
俺の必死の呼びかけに、ロニが口を開く。
「バール」
「ああ、俺だ。ロニ、帰ろう!」
ロニがピクリと反応して……直後に手から発生させた衝撃波でデクスロー諸共に俺を吹き飛ばした。
壁がへこみ、ひびが入るほどの勢いで吹き飛ばされた俺の肺から空気が押し出される。
「ガぁッ……」
「帰るところなんて、もうない」
「ロニ?」
「だって、わたしが燃やしたんだよ?」
無表情のまま、そう告げるロニ。
「燃やした?」
「そう、燃やしたの。わたしが、燃やしてしまったの」
近づいてくるロニに、手を伸ばす。
抱きしめてやれば……わかってくれる。
きっと、大丈夫だと囁いてやれば安心するはずだ。
だが、ロニの取った行動は無慈悲だった。
俺に手の平を向けて、衝撃波を発射する。
耐えがたい衝撃に血を吐き、うずくまる俺に剣先を向けるロニ。
「ロ……ニ……! どうして」
「どうでもいい。バールも、世界も。全部壊れちゃえば、平等でしょ?」
何を言ってるか、まったく理解できない。
あのロニから全く異質な言葉が紡がれることの違和感に、脳がついていかない。
「ほら、バールは弱い。結局、何も守れないんだよ」
「ロニ……ッ!」
とどめを刺そうと大剣を振り上げるロニが、飛来した魔法の衝撃で横に吹き飛ぶ。
「んっ……」
小さな声を上げたものの、小規模な<結界>を構成して威力を相殺したらしいロニは、こともなげに体勢を立て直した。
「さっきのは少しばかり老骨に応えたわ」
杖を構えるデクスローが、魔法を矢継ぎ早に唱えて俺の身体を癒す。
「立つのじゃ、バール」
そう言われて初めて、俺はこの戦闘の最中いまだ立てずにいたことに気付いた。
思考が追いつかない。ロニの言葉が、グルグルと頭の中をかき乱していく。
「ナブリス様の邪魔をしないで」
「そいつがお前にロクでもないことをさせてるんだぞ!」
「ううん。違うよ、バール。勘違いしないで? わたしが、守るの」
ロニが再び大剣を構える。
その背中には光の輪のようなものが形成され……猛スピードで光を放ちながら回転し始めた。
「壊して、守るの。みんなみんな、全部全部壊れちゃえば……もう、誰も苦しまないし、悲しまないんだよ? バールも、わたしも、みんなも」
ロニの大剣の切っ先に、強烈な光輝が集まっていく。
先ほどの光線より強い輝きを放つそれが、俺に向けられている。
「だから、バール。もう、おしまいにしよう」
無表情のまま一筋の涙で頬を濡らしたロニが、剣の先から破滅の神光を放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます