第60話 ロニ、襲撃される
※ロニ視点
『
心にある不安が、どんどん大きくなるのは、きっと不安の原因が近づいてきているからだろう。
最初は、違和感というか服を表裏逆に着ているかのような小さな不快感だったのに、三日前のあの日……それが強い嫌悪感に変わった。
形のない何かが悪い方向性を得たのだと、確信せざるを得ない。
そして、それが『
「バール、大丈夫かな」
思わず漏らした声に、とん、と肩を叩かれる。
振り向くとマルファナさんが目を細めて笑っていた。
「さすが、ロニ様が選んだ〝勇者〟ですな。先陣をきっていかれましたぞ」
「うん。でも、無茶しないか心配なの」
バールの無茶は今に始まったことではないけど、昔はもっと計算高かった。
ちゃんと安全を確保した上で無茶をするのがバールのやり方だったはずなのに、最近は本当の無茶をたびたびする。
それは無茶でなくて無理と言ってもいいもので、その無理を本当に無理やりに超えてるような……そんな危険さがある。
原因はわかってる。
わたしだ。
「接敵―――ッ!」
城壁の上から鐘の音が聞こえて思考を中断させる。
ついに、城壁にまで『
「怪我人が増えますな……各々方、気を引き締めよ!」
マルファナさんの声に、待機中の治癒担当が返事を返す。
三倍の大きさになった救護所には十分な数の【僧侶】が配置されている。
ここからが、この場所においての本当の戦いになるだろう。
わたしも配置について、
城壁外の戦闘音が、ここにまで近く聞こえるようになってしばらくすると、続々と怪我人が運び込まれてきた。
それを順次魔法と薬で治癒していく。
「む……? あれは」
運び込まれた怪我人の振り分けをしていたマルファナさんが、あるとき怪我人用の通用口を見やった。
その様子に、わたしも通用口を見る。
真っ白の人影が数体、そこからこちらに向かってきているのが見えた。
「『
「救護所を守れ! 守備、前へ!」
素早い指示で
それに向かって、『
「ぐっ……ああああああああ」
苦しみだした
他の者が引きはがそうにも、がっちりと組みつかれて間に合わなかった。
そして、その液体が
聞いてはいたが、思っていたよりもずっと吐き気を催す光景だ。
人が、
後ろから悠々と歩いて、新たな『
わたしの〝聖女〟の勘が、これこそが『脅威』だと警鐘を鳴らした。
そいつが、吐き気をさらに増す声を口から発する。
「ロニ、迎えに来たよ」
『
妙に豪奢な姿をしたそれの頭部は見知った顔で、他の『
「リード……」
周囲の
それを嬉しそうな表情で見ながらリードリオンの顔をした『
「この汚れた世界を、真っ白に染め上げて美しいものだけで彩ろう。君には僕のそばでそれを永遠に見ていてほしい」
芝居がかった台詞。
自分が中心、自分が主人公だと勘違いしている。
「わたしはこの世界でバールの隣にいる。人間ですらなくなったあなたの隣なんて絶対に嫌」
わたしの返答に、きょとんとした顔の『
「おかしいな。僕は王だぞ? どうして言うことが聞けないんだ、ロニ。いけない子だね」
「あなたは王でもなんでもない」
周囲の『
「リードさん。あなたのしていることは間違っていますよ」
「モルク。下賤の身で僕に意見する気か? お前はいつも、バールの肩を持っていたな」
「あなたの意見に賛同できなかっただけですよ、リードさん。栄光も名誉も手に入れたあなたが次は何を欲するというのです」
魔法を展開するモルクさんに『
それを弾いて、マルファナさんさんがかつての部下だった『
「僕は、王の器だ」
「あなたは器ではありませんよ」
モルクの即答に、表情豊かな『
『神聖変異』したリードリオンの斬撃がモルクさんを捕らえて、防御魔法ごと彼を吹き飛ばす。
「モルク殿……ぐぅ!」
『
「また、これだ。穢れた世界の住民どもめ。世界の王たる僕に嘲笑を向けるなど万死に値する……!」
「やめて、リード!」
「やめるものか! この世界はね、僕のモノなんだ。僕は王で……いずれ神に至るのだから」
抵抗しようとするわたしを、先ほどまでは人間であった『
「さぁ、一緒に行こう……僕だけの花嫁になるんだ」
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