第53話 バール、青翼竜を仕留める

「まだ巣にいてくれて助かった」

「ああ、しかし、バールさんすげぇな」

「マジでそれ。どうやったら金梃バール青翼竜ブルードレイクの頭をカチ割れるんだろうな」


 見事な連携で青翼竜ブルードレイクを討取った『アルバトロス』のメンバーが俺の方をチラチラ見てる。

 これは褒められているのか?

 いや、どうだろう……まぁ、このAランク最前線でCランクが金梃など振るえば奇異な目でも見られもするか。


「よ、お疲れ」

「おう。首尾よくいってよかったな」


 地面に横たわる鮮やかな青色の翼竜を見て、胸をなでおろす。

 被害もほとんど出なかったし、実に重畳といえるだろう。

 さすが、『モルガン冒険社』は経験が違う。


 そもそも、青翼竜ブルードレイクを討伐するには入念な準備が必要だ。

 空を飛ぶ青翼竜ブルードレイクは飛び道具や魔法で攻撃するしかないが、それでは青翼竜ブルードレイクに対するには不十分だ。


 そのため、まずは飛行能力の無力化から始める。

 使われるのは大型クロスボウの太矢クィレルにロープをつけたもので、引っ張って飛行能力を奪う。

 力ある青翼竜ブルードレイクの動きを完全に封じることはできないが、空を飛ぶというのはどの生き物にとっても不安定なものだ。

 それにロープで翼の動きを抑制するだけでも飛び上がるのは阻止できる。


 次に使うのは麻痺毒。

 これも遠隔攻撃を得意とする者に任せる。

 地上戦にこぎつけたとして、青翼竜ブルードレイクとて竜族の端くれ、まともにやりあっては被害が大きくなってしまう。

 竜に効く毒は少なく効果も薄いが、青翼竜ブルードレイク相手ならばそれなりに有効だ。


 その段階になって、ようやく地上部隊……つまり俺の出番だ。

 初めての麻痺毒に混乱する青翼竜ブルードレイクの頭を、金梃でフルスイング。

 これでジ・エンドだ。


 クライスには角と牙は貴重なので加減しろとなどと言われたが、他の部位はきれいなのだから結果オーライだろう。


「これで目撃情報のあった危険度Aランクは全部か?」

「そうだな。だが、魔物モンスターが減ったって情報は上がってきてない。どこかに大暴走スタンピードの引き金になるモンがあるはずなんだが」


 首をひねるクライスに頷いて応える。

 俺も最初は死者の王リッチとなった骸骨王スケルトンキングが原因かと思っていたが、魔物モンスターの増加は止まっていない。

 毎日、『モルガン冒険社』が総出で討伐をしているのに、だ。

 つまり、別のどこかに魔物モンスターを誘引、活性化する何かが在るか、居るかするはず。


「魔物の増加はサリエリ湖からって言ってたな……」


 最初の情報収集であの周辺から魔物モンスターの報告が増えたとブルドアが言っていた。

 何かしらの原因があの辺りにあるのか?

 以前、俺が立ち寄ったときは風光明媚な湖でそれらしいものは見当たらなかったが。


「やはり、そこだな。調査に乗り出したいが、さて……」

「リードの奴がどうちゃちゃを入れてくるかだな。向こうは〝勇者〟様だ。実績が欲しいだろう」

「おいおい、勇者様はお前だろ?」


 にやにやと笑ってクライスが俺の肩をつつく。


「忘れろ。俺は世界の希望になんてなる気はない。ただ、ロニの為に必要なことをするだけだ」

「はいよ、ご馳走様。それで、調査はどうする?」


 少し考えて答える。


「一応、〝勇者〟様を立ててやったらどうだ。その間に、周辺の討伐をこなしちまおう」

「そうだな。目についたAランクは討伐したが、まだ魔物モンスターは多い。効率よくやるか」


 俺達がサリエリ湖に向かうとして、その間にリードたちが俺達に投げたCランク以下の魔物討伐を進めてくれるとは思えない。

 それに青翼竜ブルードレイクで半壊したという手際からして、留守を任せるにはやや不安が残る。


「話、終わった?」


 司祭服姿のロニが、金の髪を揺らしながら駆け寄ってくる。


「治療は終わったのか?」

「うん。怪我してる人、あんまりいなかったし。で、次はどんな悪だくみの相談?」


 クライスと二人顔を見合わせる。


「そりゃないぜ、ロニちゃん。なぁ、バール」

「悪だくみじゃない。次の動きについて話してたんだ。……どうだ? 気配は」

「まだ、あるように思う。原因がわからなくてモヤモヤするけど」


 ロニがまだと感じているなら、まだ終わっちゃいない。

 このフィニスに、聖女的に気になる何かが在るということだ。


「ま、ロニちゃんがそう言うんなら、そうなんだろ。とりあえず帰るか」


 討伐した青翼竜ブルードレイクを荷車に積んで、フィニスへの帰路へとつく。

 帰ったらまだ居残っている情報屋をあたるとしよう。

 もしかしたらサリエリ湖の異変について何か知っているかもしれない。


「なんだか、違うんだよね……」


 馬車の中、隣に座るロニがそう独り言ちる。


「どうした?」

「ううん。わかんないんだけど……ヤな感じがする」

大暴走スタンピードか?」


 俺の言葉に少し首をひねって、考え込むロニ。


「何だろう、不安に……邪悪さが足りない?」

「なんだそりゃ」


 哲学じみた言葉だ。


「わからないんだってば。死者の王リッチも、『淘汰』の一つの可能性ではあったんだと思う。あれはわたし達に、とっても敵対的だった。でも……あれをやっつけてから気配が少し変なの」

「どう変なんだ?」

「うーん、なんていうか直接的な害意はないっていうか……無邪気っていうか。でも、そのままにしておいてはいけない感じがする」


 不安げな表情で、俺を見上げるロニ。

 抱き寄せ、肩を撫でる。


「世界を滅ぼす『淘汰』のくせに、害意がない?」

「うん。なんだろう……?」

「わからないな……。ただ、この地にまだ何かあるのは確かなんだろう。出来ることからやっていこう。大丈夫だ、俺がついてる」

「うん。そだね」


 ロニの顔に笑顔が戻る。


 それを見て少しほっとしながら、少しばかり俺も思考を巡らせた。

 方向性のない世界の危機っていうのは、逆に危ないんじゃないだろうか。

 いかような手段でもって、『淘汰』をもたらすかわかったものではないし、現状、敵ですらないなら殴りつけることも出来ない。


 さて、どうなることか。

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