第47話 バール、骸骨と遭遇戦になる

 翌朝、日の出と同時に俺達は出発した。

 クライスは今回の作戦の重要性をよく理解していて、子飼いの中でも一番のメンバーを選出してくれた。


 巷でも有名な双子姉妹の【司祭】であるマリルとカリル。

 防衛戦にめっぽう強い【騎士】ダガンとノーギス。

 歴戦の【魔法使い】であるデクスロー。

 斥候役で今回の『モルガン冒険社』メンバーのまとめ役、ダッカス。


 ……つまり、『モルガン冒険社』フィニス支社の主要Aランクメンバーだ。


 そのサポートに入るもう一つのパーティも、Bランク上級の『冒険者信用度スコア』持ち。

 この状況下でここまで戦力を割いてもらうのは少し心苦しいが、これでも過剰ではない。

 ロニや【司祭】がいなければ、千以上いるであろう敵に、この人数で立ち向かうなどそもそもありえないことなのだ。


「ダッカス、『骨の玉座』を見たのは確かか?」

「実物を見るのは初めてスから、確実とは言えないッスけど……そうとしか思えない物だったッス」

「……急がないとまずいな」

「ねぇ、バール。どうしてそんなに焦ってるの?」


 ロニが不思議そうに俺を見る。


「なんだ、ロニは『骨の玉座』を知らないのか?」

「うん。その玉座があるとどうなるの?」

「ええとだな……」


 『骨の玉座』は骸骨王スケルトンキングが一定の力を証だ。

 骸骨王スケルトンキングという魔物モンスターは、発生当初はそう危険な魔物ではない。

 魔物モンスターだてらに魔法も使うし、他の魔物モンスターより強力ではあるが、せいぜい単体では危険度ランクはC前後。

 正面切っての殴り合いなら梟熊アウルベアの方が危ないくらいだ。


 だが、配下を増やした骸骨王スケルトンキングはいずれ『戴冠』し、力を取り戻していく。

 そのわかりやすい例が『骨の玉座』だ。

 これに座る骸骨王スケルトンキングは、周囲の骸骨スケルトンを叙勲し、強化する。

 骸骨騎士スケルトンナイト骸骨戦士スケルトンファイターといった特殊な骸骨スケルトンが発生してしまうのだ。


 こいつらは普通の骸骨スケルトンとは一線を画す強さで、一体一体が危険度Cランク以上の評価だ。

 それが集団で連携して襲ってくるのだ、普通にやれば超Aクラスにもなる。

 幸い、『ターンアンデッド』が効く相手なので何とかなることも多いが……まともに殴り合うのはあまり得策ではない。


 そして、最も危険なのは……これらをこのまま放置しておくことだ。

 このクエストを最優先しなくてはならない理由はそこにある。


 つまり、戴冠した骸骨王スケルトンキングは……征服を開始するのだ。

 王らしく、国らしく周囲を骸骨スケルトンに変えて従属させながら、周囲を飲み込み……最終的に骸骨王スケルトンキング死者の王リッチと変異する。


 やがて、そいつはその場に特別なダンジョンを発生させるまでに、世界を歪めていく。

 死者の王リッチが魔王の一角に数えられるのは前例があるからだ。


「おや、【戦士】バール。驚いたのう。詳しいではないか」


 じっと聞いていた【魔法使い】のデクスローが、髭を揺らしながらにこりとした。


「ああ、ちょっと詳しいやつがいてな。もう死んじまったが」


 かつて『パルチザン』に所属していた【魔法使い】。

 そいつが、教えてくれたことだ。


「それで、どうなるの?」

死の舞踏ダンスマカブルが始まるんじゃ」


 俺の説明をデクスローが引き継ぐ。


「……特別な大暴走スタンピードでの、アンデッドが溢れ、疫病が蔓延し、木々は枯れ、水は腐る。これによって王国は一度滅びたんじゃよ」

「それは初耳だな」

「王都の魔法大学に行かないと知らない歴史学じゃしな。そして、突如現れた勇者が死者の王リッチを討ち果たして……現在の王国の初代王となった。教会も、その時に聖女様が興したそうじゃよ」


 受け売りではわからない知識だ。


「え、じゃあ……まずくない?」

「だからまずいんだって」


 俺達のやり取りに、マリルとカリルが噴き出す。


「ロニさんは/天然だね」

「そうかな。わたし、バールよりはしっかりしてるつもりなんだけど」


 聞き捨てならない気もするが、事実なので黙っておこう。

 そんな和やかな空気を、一瞬で何かの気配が塗り替えた。


「む……!」

「これ……!」


 俺とロニの反応が速かった


「ダッカス、思ったよりまずい状況だ」

「どうしたッスか?」

やっこさん、もう移動を開始していたらしい。すぐそこまで来てるぞ!」


 走る馬車の上、姿が徐々に見えてくる。

 平原を一歩一歩確かめるように隊列を組んで歩く骸骨スケルトンの群れ。


「まだ日があるってのに、意外と多い!」

「おびき出すとしようかの。──Burn, Burn, Burn per flamoj. Ruliĝi supren la fajreroj, Burn ilin!」


 老練の魔法使いが、呪文をよどみなく詠唱し前方の骸骨スケルトンの群れに<火球ファイアボール>を放つ。

 狙いたがわず先頭集団に直撃したそれは、派手な爆炎を巻き上げながら相当数の骸骨スケルトンを吹き飛ばした。


「くるッスよ! マリル、カリル。頼んだッス」

「了解/了解」


 重なる様な返事をしたマリルとカリルが、まず強化魔法を周囲に配り、<結界>を張り巡らせる。

 周辺の地面からは、乾いた音を立てながら大量の骸骨スケルトン達が地面から這い出し始めていた。

 それでも、この日の下だ……アンデッドたちにはきついロケーション。

 動きは鈍く、骸骨騎士スケルトンナイト骸骨戦士スケルトンファイターも現れていない。


 おそらく、夜の眷属としての側面が強くなってしまうために日中は現われることができないのだろう。

 ……これも狙い通り。

 ここで、骸骨スケルトンどもの数を減らして、骸骨王スケルトンキングの力を削ぐ。


「ダガン、ノーギス! ここを任せた。デクスロー、魔法に巻き込んでくれるなよ!」


 各々に声をかけて、俺も馬車を飛び出す。


「バールさん、武器は?」


 ダッカスの声に、腰の金梃を抜いて肩に担いで見せる。


「……金梃バールで/戦うの?」

「マジッスか……」

「こいつが俺に一番あってるんだよ!」


 迫る骸骨スケルトンを軽くスイングして砕き割る。


「ロニ、いつも通りにやればいい。無理はするなよ」

「まかせて、バール。ここで食い止めよう」


 『ターンアンデッド』の光がそこかしこに溢れる戦場を駆け、手近な骸骨スケルトンへと躍りかかる。

 『魔神バアル金梃バール』の効果か、骸骨スケルトンどもは再生も出来ずに吹き飛んでいく。


 順調に数十体目の骸骨スケルトンを吹き飛ばしたところで……次なる異変が俺達を襲った。

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