第33話 バール、おめかしする
「なんで俺がこんな目に……」
ぼやく俺に、ロニが微笑む。
「大丈夫、バール。それもかっこいいよ」
「じゃあこれでもういいじゃないか」
「でも、こっちも着てみよう?」
ロニの言葉に、控えていた男が「かしこまりました」と返事する。
正直、俺にはあまり違いが判らないのだが……。
「ヴィジル、何とか言ってくれ」
「そう言ってもな。必要なことだ、我慢しろ」
頼りのヴィジルもこの調子だ。
──さて。
どうして俺が呉服屋で着せ替え人形の真似事をしているかというと、ことは昨日の夕食にまで遡る。
食べたこともない様な高級食材を、どこか物足りない上品な味付けにした料理で腹を満たした後の事だ。
コーヒーを飲んでいたザガンが俺に切り出した。
「明日以降の予定だがね。近々に君たちのためのちょっとしたパーティーを開くことにした」
「ザガン。パーティーっていうのは貴族様が貴族様を招いてくるくると踊るあれの事だろう?」
「……およそ間違ってないが、誤解はあるの。ま、客を連れてきたので面通しと、ちょっとしたおしゃべりを楽しもうという集まりだよ」
ザガンの説明によると、俺とロニの事を親しい貴族たちに知らせておいた方が、今後の審議で有利だろうとのことだ。
早い話が、俺とロニの仲が公然となれば、マーガナスの一派が主張する誘拐だとかなんだとかいう話を一刀両断できる、という話である。
「礼儀作法もわからないぞ、大丈夫なのか」
「叩き上げの冒険者だと伝えれば、そこに目くじらを立てる者も少なかろうよ。ただ、さすがに平服というのもいかんな……。バール殿、お主礼服は持っておるか?」
「その日暮らしの冒険者に一番必要ないものだな」
「では、明日、ヴィジルに案内させる故、王都の観光がてら礼服を探しに行くといい」
「いや、俺みたいなDランク冒険者には金が……──」
俺の言葉が終わる前に、家令の男性がカラフル市松模様の袋をテーブルに置く。
「軍資金もこのように準備しておいたでの。よう似合うのを選んでくるのだぞ」
逃げ道を防がれた。
「なに、パーティー会場で『いい服』だと褒められたら、お主は鼻を高くしてロニ殿の名前を出せばよいのだ」
「そういうものなのか?」
「そうとも」
愉快そうにくっくっくと笑うザガン。
悪戯を企んでいる子供のような顔をしている。
「いいのか? 金まで出してもらって」
「なに、先行投資というやつよ」
ザガンの含んだ物言いはやや不審だが、ロニに服を選んでもらうというのは悪くない。
この王都では俺のセンスなど鼻で笑われて終わりだ。ならば、ロニに選んでもらったほうが俺も気が休まる。
どうせ、そのパーティーの出席を回避できないなら、いっそショッピングを楽しんでしまうのも手だろう。
きっと、もう二度と会わない人たちなのだろうし。
旅の恥は掻き捨て、なんて言葉があるくらいだしな……。
──と、言うことで王都の商店が集まる通りに来ているというわけだ。
「ロニ、まだ選ぶのか?」
「もう少し。バールのデビューを飾るんだもの。妥協できないよ」
「大げさな」
五着目の服に袖を通したが、どうにも遊ばれている気がする。
ていうか、この服高いのな……ちょっといい全身鎧が買える値段だぞ。
「よろしければ、装飾品もいかがですか?」
品のいい初老の店員が、いくつかの宝飾品をケースに入れて持ってくる。
「初めての装いと伺いましたので、飾り気も合わせたほうがよろしいかと」
「そりゃいい。これはどこのものだ?」
ヴィジルがケースを覗き込む。
「当店の契約商会、『アーシーズ』の物です」
「この二人は、〝お披露目〟だ。セット物を見せてくれ」
「左様でございますか。おめでたいことです。では、当店もお祝いをさせていただきませんとね」
ヴィジルの会話がよくわからない。
何故俺は見知らぬ店の店主に祝われるんだろう……。
「ロニちゃん、決まったか?」
「三着目のにするよ。あれが一番バールに似合ってた」
もうどれがどれやらわからないが、それにしよう。そうしよう。
戦うよりずっと疲れる。これなら大型依頼に出向いてる方がまだ疲れない。
「じゃあ、このアクアマリンの付いた腕輪を」
「かしこまりました。お衣装の方も、お直ししてお届けしますね」
俺の知らないところでサクサクと話が進んでいく。
……いいことだ。
「腕輪はオレからのお祝いってことで」
「いいんです? ヴィジルさん」
少し止まって、ヴィジルが俺達を見る。
「ま、お前らとの付き合いも長いしな。オレがリードの奴の暴走を止めれたらよかったんだが。すまねぇな」
「マーガナスの奴に誑かされなきゃな……。いや、どうかな。今更考えても仕方ねぇか」
ヴィジルと苦笑し合う。
「さぁ、観光の本番はここからだぜ」
「ん? ロニの服はいいのか?」
俺の服だけ選んで、ロニのドレスは選んでない。
「わたしはもう準備してるから大丈夫だよ」
「そうなのか?」
「そうなのです」
なら仕方ないか。
都会の呉服屋でロニにドレスを選んでみたかったが……いやダメだ。
俺のセンスではきっとひどいことにしかならない。
「伯爵から預かった金もたんまりあるし、遊びまくろうぜ。さぁ、何から行く?」
「わたあめと
俺の返答に、王都経験者二人が「子供のようだ」と噴き出した。
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