第32話 バール、王都に到着する
タルザックを後にしてから、二週間。
俺達一行はようやく、王都『シェラタン』へと到着していた。
「これはすごいな……!」
馬車の中から華やかな王都をきょろきょろと見やる。
「おい、バール。おのぼりさんみたいな真似はやめろ」
「馬鹿かヴィジル。俺はおのぼりさんだ」
俺のような田舎者にとって、王都というのは想像の場所だった。
古代の言葉で〝輝きで照らす都〟の意である『シェラタン』は白亜の城壁に囲まれた、この国の王が住まう場所で、自分たちのような田舎者は入ると棒で叩かれると親には教えられていた。
まぁ、今となれば子供の余計な興味をそらせるための戯言とわかるが、それでも王都はなかなかに遠い場所だった。
「なぁ、あれはなんだ?」
「わたあめだな。砂糖で出来てる」
「あれは?」
「
ヴィジルに質問を投げながら、流れる王都の景色を楽しむ。
「……そう言えば、宿はどうしたらいいんだ?」
王都に俺が入れる宿なんてあるんだろうか……。
「ワシの客人なのだから、ワシの屋敷にくればいいだろう?」
「いいのか?」
「閣下は金梃を振り回す粗暴な奴を野放しにしたくないとさ」
「ヴィジル……もう少し、言い方を考えろよ……」
冒険者ギルド本部へ行くというキャル、そして護衛依頼を終えたクライスたち『モルガン冒険社』の面々と別れ、貴族街と呼ばれる上流階級ばかりが住むエリアへと馬車は入っていく。
ここでもがらりと景色は変わった。
薔薇のアーチやら、噴水、やけにセンスのいい喫茶店のようなものやらが、そこらかしこに見られる。
「目がちかちかする……」
「バール、大丈夫?」
ロニが心配そうに俺を見るが、これに大丈夫と頷けない。
泥臭い田舎町から出てきて、血と汗にまみれた冒険者生活を送って来た俺に、この場所は少しまばゆすぎる。
そこらにいるやつら、本当に人間か?
何故、平時からそんなにめかし込む必要があるんだ……?
頭をぐらぐらさせていると馬車が止まる。
「長旅ごくろうさまだったの。我が屋敷に到着じゃ」
「行こ、バール。わたし貴族のお屋敷なんて初めて」
手を引かれて馬車を下りる。
屋敷の入り口にはずらりと同じ服を着た人間が並んでいて、ザガンに頭を下げている。
「戻ったよ」
気さくそうにザガンがそう片手をあげると、全員が「お帰りなさいませ」と頭を下げた。
こういうの、話には聞いていたがふかしじゃなかったんだな。
てっきり、酒の席の与太話かと思ってた。
「カル、マル。こっちへ来なさい」
ザガンが呼ぶと、並ぶ列の中から男女の人影がザガンの前へと進み出る。
若いな。まだ子供のように見えるぞ。
「カルはバール殿に、マルはロニ殿につくように。しっかりお世話しておくれ」
「はい、ザガン様」
「わかりました、ザガン様」
二人が俺達に向かってペコリと会釈する。
「よろしくね、マルちゃん」
「はい、よろしくお願いしますロニ様」
仲良さげな女子組に対して、カルは些か俺を警戒しているようだ。
まぁ、こんな場所に住んでいるんだ、武装した冒険者を見るのも初めてかもしれないな。
「俺はバール。よろしく頼む」
「はい、バール様。お荷物をお持ちしますか?」
俺から声をかけたことで緊張を解いたのか、子供らしい顔になるカル。
「大丈夫だ、自分で運ぶ。ありがとうな。それで、ザガン……様? 俺はどうしたらいいんだ?」
「今日のところはゆっくり休んでくれ。明日以降の段取りは夕食の時にでも伝えよう。あと、様はいらぬ。今更じゃ」
「わ、わかった」
また明日来る、と言って去っていくヴィジルに挨拶をし、カルに案内されて屋敷の中を歩く。
貴族の家はすごい……廊下にまで絨毯が敷いてある。
広い屋敷を案内されて、その奥でカルが扉を開けた。
「こちらが、お部屋になります」
「おお……」
思わず声が出てしまった。
今まで泊ったどの宿より広く豪奢だ。
「御用の時は、鈴でお呼びください」
「ああ、ありがとう。ロニはどこだろう?」
「後でマルに確認いたしますね。夕食の時間に呼びに伺いますので、そちらにお着換えになって、ゆっくりとお休みくださいませ」
そう言ってパタンと扉を閉めるカル。
若いのにしっかりしてるな……。
「さて……」
鎧を脱いで、準備されていたやけに肌触りのいい部屋着に着替える。
そう言えば、『
もしかして武器として認識されなかったか?
まぁ、いいか。
預けたところで呼べば手元にくるのだから、持っていても危機管理という点では変わるまい。
「……落ち着かねぇ……!」
やけにふかふかした天蓋つきベッドに寝転がってみたものの、どうにもおさまりが悪い。
むしろ、床に寝転がったほうがよく眠れるんじゃないだろうか。
「うーむ……。しかし、なんだってこんなところに連れてこられたんだろうな」
そう独り言ちる。
ヴィジルもいるし、ザガンは信用できると思うが。
足りない頭で考えても答えは出ないか……。
きっと明日になれば何かしらわかるだろうし、後で考えよう。
「しかし、落ち着かない……!」
二度目のぼやきをこぼして、結局俺は夕食時間まで床に寝転がることにした。
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