第26話 バール、決着をつける

 俺の言葉を合図に、リードとダールモンと呼ばれていた【魔法戦士】が突っ込んでくる。

 【魔法戦士】を盾にした遊撃スイッチか?


「所詮は田舎【戦士】、私の敵ではな……──」


 魔法の輝きを剣に宿した【魔法戦士】は、台詞が終わる前に俺の視界から消えた。

 ま、俺が吹っ飛ばしたんだが。

 なんだ、その脆弱な踏み込みは。もしかして、俺をバカにしてるのか?


「ダールモン! よくも!」


 そのダールモンを囮に使ったリードが、跳んで魔法剣を振りかぶる。

 冗談みたいに軽い斬撃を、金梃で受け止め弾くとバランスをくずしたリードがたたらを踏んだ。


「く……! バール! これ以上の罪を重ねるな!」


 剣を構えなおして、リードががなる。


「リード、援護します!」


 マーガナスの警告と共に、炎の弾が飛来する。


 おいおい、こんな所で<火球ファイアボール>かよ!

 避けようと思えば避けられるが……そうすると背後にいる野次馬たちが爆発に巻き込まれることになってしまう。

 何より、ロニが火傷でもしたらどうしてくれる。


「クソったれがぁッ!」


 迫る<火球ファイアボール>に『魔神バアル金梃バール』を力を込めて投げつける。

 神話エピック級の武器だ、多少雑な扱いをしても壊れやすまい。


 マーガナスが放った<火球ファイアボール>と放り投げた金梃とがぶつかり、大爆発を起こした。

 射線上で馬鹿みたいに突っ立てた、リードの真横で。


「おッ……ぁぁ!」


 爆発で大きく吹き飛び、火だるまになりながら転がるリード。

 新手のコントか何かか?


「な、なんてことです! 大丈夫ですか、リード! ……オ、グゥッ!」


 一瞬パニックになったらしいマーガナスの腹部を、飛来した『魔神バアル金梃バール』が直撃する。

火球ファイアボール>の爆発のせいで随分と勢いを殺されてしまった。

 当たりはしたが、残念ながら仕留めるには至らなかったようだ。


「バーァァル!」


 自分に回復魔法をかけて立ち上がったリードが、俺の名を叫ぶ。


「僕は、〝勇者〟だぞ! こんな、無様な……! お前みたいな……ッ!」

「何が言いたい?」


 ひとりでに回転しながら手元に戻って来た『魔神バアル金梃バール』を掴み、肩に担ぐ。


「もう、僕は底辺の田舎者じゃない! お前とは違う! 僕は、僕はな……ッ! 手に入れるんだ! 栄光を! 名誉を! 喝采を浴びて、英雄になるんだ!」

「くだらねぇ! 勝手に〝勇者〟にでもなんでもなっちまえ! ……ただし、ロニだけは諦めろ!」


 リードに魔法の燐光が集まっていく。

 【パラディン】特有のスキルを使うつもりだろう。

 ……まったく、生臭司祭ロニといい勇者かぶれリードといい、天におわす神様ってのは、人事が不得意なのか?


「汝悪なり! 神の正義の名のもと……〝勇者〟リードリオンが聖滅させる!」

「よくも恥ずかしい口上を、すらすらと口にする!」


 『神聖変異』して全身に輝きをまとったリードが、高速で跳躍してくる。

 【パラディン】でもなかなか発現しないこの希少スキルが、リードを〝勇者〟などという不相応な夢を見せたのだろうか?

 確かに、自惚れ、増長するには十分な力ではあるかもしれない。

 だが、それに振り回されるようなら、お前は器じゃないってことだ。


「バール! お前を討って……ロニを取り戻す! ロニは僕の……僕だけのものだッ!」

「テメェのモンじゃねぇって……言ってンだろうがぁッ!!」


 いい加減頭に来ていた俺の怒りに反応して、『魔神バアル金梃バール』がぞわりとした感覚をよこす。

 それに身を任せて『狂化』を体にみなぎらせて振るった俺の金梃が、リードリオンの魔法剣とぶつかり合う。


 パキ……ンッ


 乾いた金属音を響かせて、『魔法剣ゲイルライザー』が中ほどから砕け折れる。

 そして、勢いそのまま振り降ろした『魔神バアル金梃バール』が、リードの左肩を捉えた。


「ぐ……ぁッ!」


 強化付与された鎧を砕き、足元の石畳にひび割れを作りながらリードを叩き伏せる。

 軽くバウンドしたリードがごろごろと転がって、飛んでいくがすぐに立ち上がろうと動く。

 『神聖変異』しているせいで、バカみたいに丈夫になってやがる。

 まあ、死ぬまで殺せばいいだけだが。


「まだだ、僕はまだ倒れられない……!」


 起き上がって、俺を無視してロニに向かって手を伸ばす。


「ロニ……ロニ。君はわかってくれるだろ?」


 『神聖変異』で体を自動治癒した体を引きずって、のろのろとロニに向かうリード。


「僕は、〝勇者〟で君は〝聖女〟なんだ。僕らは愛し合う運命にあるんだよ……!」


 ロニの前に体を滑り込ませて、『魔神バアル金梃バール』を構える。


「いい加減にしろよ、リード」

「ロニ! どうしてなんだ!? 君の恋人は僕であるべきなのに! どうしてコイツなんだ! 僕の方がずっと君に相応しい!」


 俺の後ろからロニが一歩前に出る。


「おい、ロニ……」

「大丈夫。守ってくれるよね?」


 決意したような目に、若干気圧されつつ俺は頷く。


「……ねぇ、リード」


 答えを求めるように、無邪気な顔でリードが止まった。


「なんだい、ロニ? やっとわかってくれたのか?」

「わたしは、バールが好きなの。出会った頃から、ずっとずっと好きだったの」


 リードの喉から過呼吸を起こしたような「かひゅッ」という音がした。

 コントの次は顔芸の時間か?


「バールといるのが幸せなの」

「やめろ」

「他の誰でもないバールと一緒に生きたいの」

「やめろ……やめろ……!」


「──バールを、愛してるの」


 微笑んで振り向いたロニが、背伸びして俺と唇を重ねる。


「やめろおおおおッ!」


 狂ったように激昂したリードが、折れた魔法剣を片手に襲いくる。

 それを、俺は渾身のフルスイングで迎え撃った。


 破砕音と共に、自称〝勇者〟が空高く舞う。

 超、高速で。きりもみ回転しながら。


 それは、ホテルの二階部分に激突して大穴を空けた。

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