第22話 バール、怒りに震える
取り調べという名の尋問は、苛烈を極めた。
罪の決めつけから始まったそれは、早々に自白を促すための暴力を伴ったチキンレースとなり、最近は拷問じみたことすらやってくる。
縄をかけられ、麻袋をかぶせられて連れてこられたこの場所が、一体どこなのかは知らないが、洞窟のような窓のない地下では一体何日たったのかもわからない。
ロニにすぐ戻ると返事をしたのに、このままではウソになってしまうな。
……説教はごめんだぞ。
「さあ、バールさんよ。今日の取り調べを始めよう……か!」
一発殴られ、床に倒れる。
人の事を言えた義理ではないが、ギルド職員とは思えない粗野さだ。
「ぐ……これが、取り調べか?」
「関係ないことをくっちゃべるんじゃねーよ」
床に倒れたまま頭を踏みにじられる。
「何度問われても答えは同じだ」
「誰か喋っていいと言ったァ?」
「ぐぅッ」
粗野な男が酒臭いため息を吐きながら、俺の腹に蹴りを入れた。
折れては……ないな。よし。
「お前がよ、口に出していいのは『私がやりました』の一言だけだ。それ以外の言葉を吐くたびに痛い思いをすることになるのはもうわかってんだろ?」
「嫌だね。お前らのいいなりなってたまるか」
再び、腹に蹴り。
自分が頑丈で助かった。こんなの、一般人なら死んでいるかもしれない。
「いい加減にしろや。お前の恋人、ロニちゃんだったか? あの女の事はもう諦めたほうがいいぜ? いまごろは勇者様と一緒にベッドん中だろうよ。おれもご相伴に与かりたいね」
げひひ、と男は下品に笑ってから「おっと、こりゃ言っちゃダメな奴だったか?」と口を押える。
「……どういうことだ?」
「おっと、口が滑っちまった。まあいいか。よく聞け? あの聖女様はよ、お前の命と引き換えに、お前がとっ捕まった日のうちに勇者様についてったんだとよ。泣かせるねぇ! ギャハハハ!」
ロニが、リードについて行った?
俺の命と引き換えに?
「あとはお前が自白したら、みんな丸く収まってハッピーエンドってわけよ」
「っふざけんな!」
怒りを爆発させた俺に、再度蹴りを加える男。
「ふざけてんのはテメーだよ、手間かけさせやがって。ま、どうせ今日で終いだけどな」
しゃがみこんだ男が、俺に唾を吐きかける。
「テメーの最後のお仕事は、死体になって出てくることだとよ。『逃走した犯罪者バールは恨みから凶行に及び、〝勇者〟リードリオンに討取られる』ってワケだ。聖女様もお前の死体を見りゃ、あきらめもつくってもんだろ? ……ま、おれらが殺して玄関先に放り投げるんだがな! ギャハハハハ!」
「……」
「かわいそうになぁ! 心底同情するぜ」
「……」
「それにしても、あの勇者。朝から晩まで依頼も受けないでホテルに籠りっきりだとよ! 猿かっての!」
「……」
「ああん? 黙っちまってどうした? 自白するか? もうおせーけどな!」
「……」
立ち上がり、男の頭を掴む。
ミシリ、と音がした。
「おい、テメ……縄」
そのまま男をつるし上げて、壁に向かってぶん投げる。
縄か? 今しがた、ちょっと力を入れたら切れちまったよ。
くそったれ……俺の考えはつくづく甘かったようだ。
あの時、即座にメンディの奴の首を捻じ切っておけばよかった。
ギルド公認調査官ともあろう人間が、こうも非道なことに手を染めるとはな。
「てめ……ッ」
起き上がった男の腹に、踏み込むようにして蹴りを入れる。
「おぼォ……」
「おい、ここはどこだ」
問いかけてみたが、返事はない。
やりすぎたか。
「こうなったら、犯罪者でもなんでもいいか」
目の前で息絶えているコイツが、本当にギルド職員か怪しいし、利用されて殺されるくらいなら犯罪者でいい。
何より、このままで済ますわけにはいかない。
やることは決まっている。ごくごくシンプルな話だ。
──嵌めたヤツ全員を殺す。
命のやり取りとなった以上、これは戦いだ。
誤解に基づくもので、時間や話し合いが解決するならと少しおとなしくしていたが……俺の死体で〝勇者〟だと?
リードリオンめ。
あんな奴を親友だと思っていた自分が情けない。
命のやり取りを希望するなら……いいだろう、受けて立つ。
メンディも、マーガナスも、関係者全員だ。
俺の命をぶら下げて、ロニに辛い選択を強いたヤツ全員を挽肉にしてやる……ッ!
怒りに震えながら一つしかない扉を開けると、監視らしき男が居眠りをしていたので、近づいてこれの首もひねっておく。
コキュリと湿度のある音がして、あらぬ方向に首を傾げた男がぐにゃりと脱力して倒れた。
……しまった、また場所を聞くのを忘れた。
まぁいい。
搬送された時の感覚からして距離的にも、そう遠くはあるまい。
そう考えて、地上に通じているであろう階段を上る。
「止まれ!」
登りきったところで、数人の武装集団に取り囲まれた。
念の入ったことだ。詰所と出入り口両方で見張ってるなんて。
ああ、なるほど。万が一にも俺の事が外部に漏れるとまずいからか。
「どけ」
短く告げる。
すでに体に火が入ってしまっているのだ。
【狂化】が俺の怒りに反応して、体の奥で破壊衝動を湧き上がらせている。
「捕らえろ! 殺しても構わんッ!」
そう声をあげたやつに、全力で飛びかかり勢いのまま轢きつぶす。
恐怖で怯む周囲に、俺は小さく嗤った。
「それはつまり……殺されても構わんってことだろ?」
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