第16話 ヴィジル、嘆息する
『パルチザン』のメンバー、ヴィジル視点です。
「くそ、これじゃダメだ」
リーダーのリードリオンが、荒れた様子で壁を叩く。
ここのところ、オレたちは
丘陵地帯に陣取った数体の丘巨人の討伐。
亜人ボルグルに占拠された『ベリーガー水路』の解放。
新たに発見されたダンジョンの調査・制圧。
どれもAランクに相応しく、どれもオレたちにとってはなんてことない依頼だったはずだ。
特に『ベリーガー水路』の解放は、
今頃、別のパーティ……『モルガン冒険社』あたりが、これを攻略していることだろう。
「落ち着け、リードリオン。過ぎたことは仕方ないだろう」
「これが落ち着いていられるか! ヴィジル、君は僕らがこの一ヵ月で、どれだけ
まったくもって同じ感想だが、パーティメンバーに問題がある。
バールを無理やり
【戦士】と【魔法使い】両方の力を持った希少ジョブだと聞いてたのだが、いざクエストに出かけてみれば、どちらも中途半端な能力で、てんで役に立たなかった。
前線で敵を押し留めることも、遠距離から高火力で先制殲滅することもできないのでは、不足も不足だ。
「どうしてこうなったんだ……!」
リードの呟きをきいて、ばれないようにそっと鼻で笑う。
(オレに黙ってバールを
今やこの『パルチザン』では古株になってしまったオレだが、バールが抜けるタイミングで一緒に抜けておけばよかったと心底後悔している。
損得勘定で動くオレではあるが、流石にバールを
様々な面でバールは『パルチザン』の要となるメンバーなのに。
特に戦闘でバールが前線にいるといないとでは、安定感が違う。
盾役もこなせる【戦士】というのは、希少ジョブ以上に貴重で希少だ。
殲滅力と威圧力でもって迫る敵を押し留め、遊撃や魔法の機会を意識的に作れる者など、戦場にだってそれほどいない。
それに……バールは事前準備を念入りにするヤツだった。
冒険者ギルドで調べ、情報屋に金を渡して調べ、時には現地に前入りして調べる。
どんな地形なのか。
どんな生物がいるのか。
どんな危険があるのか。
それらを把握して、クエストを先導していた。
パーティの頭脳担当を自称するマーガナスは「スマートではない攻略」などと評して嫌悪していたが、オレ達の力量と能力を正確に判断したほぼ完ぺきなクエスト・コントロールは見事というしかない。
そして、逆にそれがあるから、バールは力任せでモノを解決するのだ。
自分の力を把握した上での、それはただの蛮勇とは違う。
「僕はこんなところでつまずくわけにはいかないのに……」
「リーダーとして、しっかりしろよ。まずは反省点を洗い出す為の会議をしたらどうだ?」
「バカにするな! 原因はわかっている。マーガナスが魔法を惜しむからだ!」
原因はそこじゃないだろ、リードリオン。
何故、【賢者】であるマーガナスが魔力を惜しむ必要があるかに着目しろよ。
それは、お前が『愛しのロニ・マーニー』でないと意味がないと
おかげで、マーガナスの奴は得意でもない回復魔法を使うために魔力を残しておかねばならない。
消極的にもなるというものだ。
それにしても……その原因はそうなってるんだろうな。
〝聖女〟ロニ・マーニー。
『パルチザン』の初期メンバーだった司祭──いや、今は【聖女】か──は現在目下行方不明中だ。
バールと一緒に抜けることとなった【僧侶】モルクと入れ替わりに『パルチザン』へ入る予定だったが、行方不明になってからもう一ヶ月が経つ。
おかげで冒険者ギルドも教会は今も大騒ぎだ。
リードリオンはバールが誘拐したのなんだと主張しているようだが、そのバールも行方は知れない。
というか、行き先を誰かが知っているとして、バールが行き先を告げるような親しい者なら全員口をつぐむだろう。
オレだってあんな仕打ちをされれば、探されたくなどない。
……案外、誘拐はともかくとして、聖女様はバールとよろしくやっているのかもしれない。
惚れるなら、ガキ臭くてヒステリックなリードリオンよりも、バールだしな。
だいたい、リードリオンはリーダーの器ではない。
見目がそこそこいいのと、希少ジョブであるというだけでもてはやされてる、頭の弱い三流のガキだ。
それを焚きつけたマーガナスがコントロールしているならまだしも、あいつはあいつで面倒で夢見がちで世間知らずだ。
放っておけば、『パルチザン』の名前でクソみたいな失敗をやらかすだろう。
……ああ、考えていたらやっぱりオレも『パルチザン』を抜けたくなってきた。
「わかりましたよ!」
リードリオンの相手も面倒なので、そろそろ席を立とうかというところで、マーガナスが部屋に飛び込んできた。
興奮した様子で、顔には喜色が浮かんでいる。
こういう時のコイツは、大抵ろくでもないことを言い出す。
「何がだ?」
「〝聖女〟ロニ・マーニーの行き先です」
マーガナスの言葉に、リードリオンが頭を勢いよくあげる。
「どこだ!?」
「ここから北西の宿場町でそれらしい姿を見たと報告がありました」
地図を広げ、指さす場所はここから二週間ほどのところにある街道沿いの宿場宿だ。
「この事をギルドや教会は把握してるのか?」
「いいえ。バールがロニさんを誘拐したと仮定すれば……下手に刺激するのはよくない」
「そうだな。僕らの力でロニを助け出そう」
……は?
「待て待て待て。まず、バールが聖女を誘拐したって証拠はなんだ」
「ロニが消えた日、バールも消えたんだ。二人は知り合いだし、ロニは僕の恋人だ。恨みを募らせたバールがロニを誘拐すると考えたら自然だろ?」
……自然? どう考えても不自然だろ。
「リード。リードリオン。冷静になってよく考えろ。ロニがお前の恋人だなんて話、聞いたこともないぞ」
「ヴィジル、僕とロニは三年前に再会の約束をした。あの時から運命はもう決まっていたんだ……!」
ダメだ……。
頭に花畑どころか、熱帯雨林ができてやがる。
やれやれ、止めても無駄か。
……だが、バールを探すってならオレもついていこう。
こいつらがバカをしないようにお守もしなくちゃならないしな。
しかし、面倒なことになったぞ。
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