第6話 リード、暴走する
※リードリオン視点です。
「どうなっているんだ……!」
そんなことはこちらが聞きたい、と僕は思う。
そういったマネージメントはお前の仕事で、自分にまかせろと言っていたじゃないか。
「落ち着け、マーガナス」
「落ち着いてなんていられませんよ。おかしすぎるでしょう!」
言いたいことはわかる。
担当ギルド員の裏切りに、予定されていた新メンバーの失踪。
俺達にとって大きな問題だ。
だからと言って、激昂したところで何も変わらない。
これでは、まだ見知ったバールの怒声のほうがまだマシだ。
「……とにかく、探させます。もしかしたら何か事件に巻き込まれたのかもしれませんし」
「ああ、頼む。僕ももう一度ギルドで訊ねてみるよ」
そう声をかけて、冒険者ギルドへと向かう。
とはいえ、結成以来長らく『パルチザン』の担当だったギルド員のキャルはもういない。
面倒なことだ。
詳しくは聞いていないが、キャルは町を去るバールに何かしらの便宜を図って処分されたらしい。
バカな女だ。このままいけば、〝勇者〟リードリオン擁する『パルチザン』の担当ギルド員としての名誉を受けられたものを。
「ロニ・マーニーについて何か情報は?」
冒険者ギルドのカウンターで、捕まえた職員に尋ねる。
期待はしていない。
こいつらが見つけていれば、すぐに連絡が来るのだから、本来は冒険者ギルドにくる必要もないのだ。
ただ、彼女は僕にとって特別だ。わかっていても、気が逸ってしまう。
「いいえ、特には。現在、ギルドでも捜索しています」
「そうか」
予想された答えに落胆する。
しかたない、いったん拠点に戻ろう。
もしかしたらロニが来ているかもしれないし。
「ロニ……。やっと会えるって思ったのにな」
ロニ・マーニーは教会公認の【聖女】である。
かつて『パルチザン』に籍を置いていた【司祭】で、神託によって、ある日突然に【聖女】に選ばれたらしい。
それによって彼女は『パルチザン』を離れることになったのだけど、そんな理由を知ったのはつい最近だ。
〝勇者〟と〝聖女〟を並べて演出する……というのが、あの浅はかなマーガナスの計画なのだろうが、僕にとってはロニが〝聖女〟なのはうれしい誤算だった。
滑らかな褐色の肌に映える金の髪。
それと同じく輝く、黄金の瞳。
くるくるとよく変わる表情と声。
出会ったころから、僕は彼女に惹かれていた。
もっとも、彼女の方がもっと僕に惹かれていたんだけど。
一度は離れてしまったが、きっと神託は今回の為に下されたに違いない。
そう、まさしく神の所業だ。
〝勇者〟たる僕に相応しい伴侶として、天がロニを選んだのだろう。
そうでなくてはこんな偶然あるものか!
……しかし、そんな彼女が姿を消した。
フィニスに到着していることはわかっているし、冒険者ギルドで冒険者の再開申請をしたことも判明している。
しかし、その後の足取りがつかめないのだ。
本来なら今日はフィニスの諸氏を招いて、新生『パルチザン』の為の宴が開かれるはずだった。
〝勇者〟として成長した僕を知らしめ、彼女は……ロニには僕の特別な女性として隣に立ってもらうはずだったのだ。
「どこに行ってしまったんだ……ロニ」
仮宿となるはずの教会の一室には戻った形跡はあるものの、荷物は置かれたまま。
おっちょこちょいな彼女が、果実酒で汚したらしい司祭服は洗濯籠に入ったままになっていた。
平服に着替えて、どこかに出かけたのかもしれない。
〝聖女〟とはいえ冒険者だ。古巣のフィニスに戻ってきてテンションが上がってしまったのかもしれない。
ロニはそういうところがるからな。そこもまた、かわいいんだけど。
……そういえば。
ブルドアが、冒険者ギルドでバールとロニが鉢合わせたと言っていた。
すぐに引きはがしたから、問題ないと言っていたが……もしかすると、この件にはバールが絡んでいるんだろうか?
そう言えば、バールの姿も見ていない。
昨日の今日で町を出たのだろうか。
別れの挨拶くらいしてやろうと思っていたのに、恩知らずで恥知らずな奴だ。
「……ん?」
ふと足を止めて考える。
バールが姿を消したのは今日。
ロニの足取りが負えなくなったのも、今日。
妙な胸騒ぎがする……!
あり得ない話じゃない。
僕だけが〝勇者〟候補として評価されるのが面白くないバールが、恨みを募らせて僕の
実際に昨日、二人は顔を会わせているわけだし……顔見知りならロニも油断もするだろう。
ロニの細腕じゃ、筋肉馬鹿のバールには対抗できない。
自棄になったバールが、僕への恨みにまかせて彼女をどうするかなんて明白だ。
……すぐに助け出さないと!
「バールだ、バールがロニを誘拐した。間違いない!」
「どういうことです?」
拠点に駆け込んで、マーガナスに説明する。
なるほど、なるほどと相槌を打つマーガナスに僕は、バールが潜伏する可能性がある場所について、事細かに説明していく。
「なんですって……!? この事は誰かに?」
「いや、まだ誰にも。すぐにギルドに知らせるべきだ」
「事を大きくしては、マーニーさんに危険が及ぶかもしれません。まずは我々で対処しましょう」
「そんなことを言ってる場合か! 今頃ロニは……」
あいつに……!
だめだ!
あってはならない。
そんなことはあってはならない!
ロニ・マーニーは僕の伴侶となる清い存在だ。
触れていいのは〝勇者〟たる僕、ただ一人……。
絶対に助けてやるぞ、ロニ……!
無事でいてくれ。
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