第386話 そして、三門へ(8)

「最期の準備とは、具体的にどういったことをすればいいのですか?」


 隣を歩いていた刀華が、真っ直ぐな目を向けてくる。

 言葉遣いもそうだが、その純朴な感じ……刀華ってたまに、ハチ子に似てるんだよな。


「秋景どの?」

「んあ、いや。凛が言っていることは、集団戦闘に向けた準備ってだけじゃないと思う」

「戦闘の準備以外……なるほど。つまり、心の準備ということですか?」

「まぁ〜そんなとこだ」


 実際に防衛戦ってのは、事前の作戦も何もない。

 タワーディフェンスで一番重要なことは、早い判断力と臨機応変な対応力だ。

 事前にできる準備なんて戦力の増強や、バリスタなどの据え置き型高火力兵器の設置くらいだろう。

 戦力の増強については……これが本当に最期の作戦になるなら、取れる手がひとつだけある。

 そっちは俺が準備しておくとして、あとは……


「あとは乱戦の中から幻影剣の綾女を、どうやって見つけるかだ」


 見つけるだけじゃなく、捕まえて、ゆっくり話をしなくてはならない。

 だがしかし、記憶をなくしている状態でも、ハチ子はハチ子だ。

 戦闘能力は高いし、遁走術にも長けている。

 さらに刀華は、綾女への復讐が旅の目的でもある。

 なんとしても、それだけは阻止しなくてはならない。

 ……いやこれ、よく考えたら難易度高すぎないか?


「綾女は、たぶん私を探しているはずです。二人で派手に動いていれば、必ず向こうからやって来ます」

「そうなのか?」


 深く頷く刀華。

 何か根拠があるらしい。

 派手に暴れるだけでいいなら、何とかなりそうだが……


「彼女を逃さない方法も考えてあります。ですから秋景どのは、遠慮なく暴れてください」

「そうか。じゃあ、なるべく派手に暴れてやるか」

「はい♪」


 その時、俺は思わず大きく息を呑みこんでしまった。

 なぜなら相手を信頼しているからこそ生まれるその笑顔は、正にハチ子を想起させるものだったからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る