第385話 そして、三門へ(7)

 凛は聞き込み中も、俺の頭を抱き枕のようにして、しがみついていた。

 これがラフレシアなら、俺は今ごろ混乱の渦に飲み込まれていたことだろう。

 何せあのオタクハッカー娘は、無駄にボディが成熟していたからな。

 彩羽が復帰するまでの間、毎日が煩悩との戦いだったぜ。

 某ステルスゲームの有名なセリフ『性欲を持て余す』が、あのイケヴォで何度も脳内再生されたってもんよ。

 まぁ凛には、そんな心配をしなくてもいいわけだ。


「むぅーん」


 凛が唸りながら、周囲を観察するように何度も大きく首を横に振る。 

 この強引な肩車の理由は、遠くまで見渡せるからだろう。

 こういう時、低身長キャラは大変だなと思う。


「どうだ、なんか分かったか?」


 俺の質問に、凛は再び唸りだす。

 そして長考に長考を重ね、慎重に言葉を選び始めた。


「三門が閉まっておる。それに中央の住人が、やたら多いのう」

「あぁ〜、あの中華風の人たちか。そういや、たしかに多いな。中央って三門の奥にある、もう一つ内側の住人だよな?」

「そうじゃ。そして、この……街全体から感じる、妙な高揚感……」


 凛は一度言葉を区切り、結論を述べた。


「近いうちに、三門の防衛戦が始まる」


 門を賭けた防衛戦。


 もともとこのゲームには、防衛と討伐を行う『グランドクエスト』というものがある。

 防衛戦とは、定期的に起こる妖魔軍からの侵攻に対して『タワーディフェンス』を行うイベントのことだ。

 タワーディフェンスは、領地に侵入してくる敵を迎え討つ集団戦闘のことで、ルール的には規定の時間まで相手の攻撃を凌げば勝ちになる。


 ちなみに最果ての斑鳩は七夢の管理下にあるため、タワーディフェンスが行われることは無いはずなわけで……


「そんなものが、あるのですか?」


 隣で聞いていた刀華が、首を傾げる。

 まぁこのゲームは、未発売のまま七夢に買い取られてしまったからな。

 これまでそんなイベントは、一回もなかったはずだ。

 刀華は知らなくて当然である。


「まず間違いないじゃろう。門が閉まっているのは、あの門の向こう側が占拠されているということじゃ。中央の住人が多いのも、こちらに追いやられたせいじゃろう。しかし……」

「どうかしたのですか?」

「いや……防衛戦が始まるはずないんじゃがのぅ」


 ちらりと俺に向けて、疑いの目を向けてくる。

 しかし俺は首を傾げた。

 実際、俺にもよくわからな事態だからな。


「どうするよ。門まで行くか?」


 いや、と凛が首を横に振る。


「門の周りは、さらに兵士が集まっておる。防衛戦は、まず間違いないじゃろう。であれば、防衛戦の準備をすることが先決じゃ。それこそ、これが最期だという気持ちでな」

「最期? それはどういう……?」


 しかし凛は刀華の質問に答えず、俺の肩からぴょんと飛び降りる。


「妾から話せる内容は限られておる。とにかく、そういう心持ちでおれということじゃ」


 凛は真剣な眼差しを俺に向けながら、そう話した。

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