第382話 そして、三門へ(4)

「さて、楽しい探り合いの二回戦じゃ」


 凛が鼻をツンと上げながら、笑みを浮かべる。

 まるで心理戦を楽しんでいるようだ。

 なぜだか、イニシアティブを握られているような気がする。


「いま言った陽の光を知らないってのは、日陰者って意味か?」

「失礼な奴じゃな。妾を、そのような者達と一緒にするでないわ。それは文字通りの意味じゃ」


 なるほど。

 つまり生まれてこの方、月や太陽を見たことがない……見れない状況にあったってことか。

 そんな事があり得るのだろうか。

 そういえば船って言葉にも、やたら反応していたな。

 生まれを聞きたいところだが、それはきっと現実世界の名称に関わるだろうし……そうだな、なら……


「凛の剣術は、ここで習得したものか?」


 俺のように別の世界ワールドで習得したスキルなら、凛達はこの世界の住人ではなくなる。

 事実、凛と白露も俺のスキルを見て、ここの住人ではない判断し近づいてきたのだ。


「いや、妾は最初から使えた。白露殿も同様じゃろうな」

「二人とも……最初から?」

「そうじゃ。妾とあの男に違いがあるとするならば、妾は当主を継ぐ事を受け入れ、あの男は継がずに逃げ出した事じゃろうな」


 そういや白露、そんな事も言っていたな。

 しかし、これでは何も判断できないぞ。


「次は妾の番じゃ。温泉では主らの他に、誰がいた? たしか俺の仲間が何かした……とか言っておったな?」

「ん〜そうだな。誰ってのは言えないが、三人ほど来てたな」


 三人もか……と、凛が鼻の下を指で擦りながら一考する。


「聞き方を変えよう。その者達は、何をしている者じゃ?」

「何を……一人は俺の幼馴染で人探しの専門家、一人は頼れる引きこもり、一人は……管理者、とかかな?」

「管理者……なるほどのぅ。だから、認識不可能の領域を創ることができたんじゃな」


 それって、特異点シンギュラー・ポイントの事だよな。

 なにこのロリっ娘、めっちゃ頭良くて怖い。

 まるで七夢さんみたいだ。

 是非とも中身の年齢を知りたいぞ。


「主、その者に会える手筈を整えられるか?」

「あぁ〜もちろんだけど、今はちょっと忙しいと思う。俺の用事が済んでからになるかも」

「構わぬ。であれば、妾達は大人しくしていよう。ただ主らとの接点は、妾達にとって重要な生命線でもある。その線が途絶えぬよう、常に近くで行動はしたいのじゃ」

「それも多分、大丈夫かな。危険な状況の時は逃げてもらうことを前提で」

「妾はそう簡単にやられはせぬが、了承しよう」


 真面目な表情で頷き、手を差し出してくる。

 俺はそれを約束する意味も込めて、力強く手を握ってみせた。

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