第380話 そして、三門へ(2)

 本日の宿は、人の手から離れた廃寺だ。

 もとは仏像的な何かが置かれていた部屋なのだろう。

 無駄に、だだっ広い。

 もちろん野宿するよりはマシなのだが、風呂はもちろんちゃんとした飯がないのは少し悲しい。

 道場育ちの刀華には、さぞキツかろうと思っていたのだが……


「隣で寝ますので、何かあったら起こしてくださいね」


 そう言うと、外套を布団がわりにしてすやすやと眠ってしまった。

 旅慣れしてきたのだろうか。

 こうしてどこでもすぐに眠れることは、冒険者として素養がある。

 刀華もいつか、胸踊る冒険へと連れ出したいものだ。


「さて……」


 俺は小さくため息をすると、首を横に向けてみる。

 視線の先のいるのは片膝を立てて、太刀を抱きしめるようにして座っている水雲 凛だ。

 ちなみに白露は端っこで寝ている。


「なんじゃ?」


 ジト目とツインテールが、懐かしの南無子を思い出させる。

 水色の長い髪に巫女姿ってのは、鈴屋さんもしていたよな。

 まさにツンデレの完成体だ。


「主、妾に欲情しとるのか?」

「するかよ、ロリ神様」

「ほうほう、よほど死にたいと見える」


 なんて奴だ。

 どこぞのアサシン姉さんみたいな目をしやがる。

 いやいや、殺気が冗談のレベルじゃないんスよ、あなた。


「ちょっと外でないか。見回りついでに話でも、と思ったんだけど」

「うん? あぁ、そういうことならいいぞ」


 凛があっさり快諾し、刀を杖代わりにして立ち上がる。

 俺も刀華を起こさないよう気をつけながら、音を殺して外へと向かう。


「なんじゃ。主は存外に寂しがり屋じゃのう」

「うるせぇし。否定はしないし」

「否定はせんのか。何とも人間らしい答えじゃの」


 人間らしい……ね。

 うん、彩羽達に聞いていた通りだ。

 この娘と白露は泡沫の夢ではない……かもしれない。

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