第379話 そして、三門へ(1)
「秋景どの、秋景どの」
三門に向かう旅路の途中、隣を歩く刀華が団子を咥えたまま見上げてくる。
くりっと見開かれた大きな瞳がキラキラとしていて、まるでビー玉のようだ。
何かに興味を惹かれている時の瞳である。
「この黒ゴマ団子、ものすごく美味しいです」
花より団子の方か。
たしか七夢さんが、現実世界で満たされぬ食欲を、無意識のうちに仮想世界で求めてしまうことがあるとか言ってたな。
「好きなだけ食べていいんだぜ。刀華は太りゃしないから」
「そんなわけないので、好きなだけは食べませんけども」
そういえば、泡沫の夢ってのは外見が変わらないらしい。
基本的には不老不死……いや、不死ではないのか。
レーナでハチ子の髪が伸びたり、だんだんと色気が出始めていたのは、単純に現実世界のハチ子が成熟していた証拠だ。
いま思い起こすと、俺があの世界で髪が伸びていることを確認できた人物は、俺と鈴屋さんとハチ子だけである。
鈴屋さんは、そんなハチ子の変化を単純に見過ごしていたらしく、今でもそのことを悔やんでいる。
そう考えると、セブンがハチ子を早々にドリフターだと見抜き、目をつけたのは凄いことである。
ただ、ハチ子に現実世界の記憶が無さすぎたのが不運であった。
セブンがどんなに現実世界の話をしてもハチ子はまったく実感が持てず、そればかりか仮想世界の方を現実として強く認識してしまっていたため、サルベージできなかった。
そうしてセブンは、ハチ子のことを泡沫の夢だと判断してしまったわけだ。
「ところで、秋景どの。伝言の内容は理解できましたか?」
「伝言? あぁ、スーズーたちのか」
温泉で俺が寝込んでいた時の話だな。
ラフレシアがアルフィーの姿で入ってきたってことは、七夢さんが月の目に記録されないよう、何らかの手段を用いて偽装しているってことだ。
そしてそれは『準備は順調、作戦決行の日は近い』って話に、そのまま繋がる。
みんな、現実世界で頑張っているのだ。
「あぁ、何となく理解できてる」
そうですか、と刀華。
少し考える素振りを見せ、やがて……
「何が起こるのですか?」
ストレートな質問だ。
まぁ、気になるよな。
「そうだな。なんていうか、起こり得ないこと……かな」
「起こり得ない?」
刀華が首を傾げるが、俺も全てを把握しているわけではない。
そして必要なのは、臨機応変にアドリブで対応することである。
「快刀乱麻を断つって感じで、スパッと解決……できたらいいんだがな」
尚も首を傾げる刀華に、俺はカカカッと笑い返すのだ。
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