第12話 鈴屋さんがいない日っ!〈1日目〉
鈴屋さんとの生活がこのまま続けられるのか…その確証を得るためにも、この世界の真相を突き止めようと決意したあの日。
もはや俺の中では、鈴屋さんは女なんだろうと心の何処かで決めつけていたのだが、実際のところは彼女がそのことをはっきりと明言しないので有耶無耶のままだ。
何か言えない理由があるんだろうし、それは待っていればそのうち解決するような気がしていた。
もし男だったら…おそるべしネカマプレイヤーとして称賛し、親友にでもなってやるさ。
と、まぁ…俺は概ね大雑把かつ脳天気な考えでいた。
「…で、俺はこれからこの世界の謎を明かそうと決意も新たに燃えていたはずなのに………なんで俺はパンを焼いてるのか、そこんとこ説明プリーズ」
「どうせ暇してんでしょ」
歌舞伎町にいそうな筋肉髭坊主がパンを焼く間にガツンガツンと剣を鍛える様は、一種異様な雰囲気を醸し出している。
もういろんな意味でファンタジーだよ、あんたの場合。
「…なぁ…せめて南無子になってくんない? モチベが上がらないんだけど」
「…………あんたのその隠そうともしない真っ直ぐなエロってどうなの…?」
えらいジト目を投げかけてくる。
「純粋って言ってくれ、せめて」
「………鈴ちゃん、よくついていけるなぁ…」
そんなしみじみと言わないでくれよ、俺だって不思議だし…
「ねぇ、アーク…すっごい単純な疑問があるんだけど………」
「おうよ」
「………あんたさ……鈴ちゃんと最初に会った時に“私はネカマだ”って言われたはずだよね?」
「だね」
「…………なのに、なんでそうなるのよ~」
南無さんが頭を抱えてうずくまる。悩める15歳は見てて面白いな。
「…う~ん…なんとなく? てかさ、そんなこと言い出したら、鈴屋さんにも同じこと言えんじゃん」
「鈴ちゃんはいいの。問題があるとしたら、あんたよ……まったくなんで……」
「あのさぁ~南無さん。前からちょくちょく思ってたんだけど…………南無さんってさ、鈴屋さんを女だと知ってるかのような口ぶりだよね」
「~~~~~~~~っっ!」
ワオ、わかりやすい。この娘は本当に素直だなぁ。
「そうだ、鈴屋さんと言えばさ…今日見かけないんだけど…南無さん、何か聞いてない?」
「聞いてないけど…どうしたの?」
「う~ん…部屋にもいないみたいだし……何も言わずに朝からいないって初めてだからさ」
南無さんが少し考える素振りを見せる。
「ん~~…………ちょっと思い当たるとこ探してみるけど……」
「そうか…ありがとよ~。まぁ俺も午後には本腰入れて探してみるよ」
と、言いつつ南無さんの「思い当たるところ」がすごく気になるが………俺も俺でいくつかあるし…ま、とりあえずまわってみるか…
しかし俺はその日、鈴屋さんを見つけることができなかった。
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