第10話 鈴屋さんと赤いマフラー!
鈴屋さんが男装を堪能してから三日後の夕方、俺たちは遺跡に出没したトロールを退治し碧の月亭にもどってきていた。
「うはぁ…腹へったぁ」
お腹をさすりながら、自分たちの席に向かう。
俺たちは毎日同じ席に座っていたため、特別に指定席を頂いている。
まぁちょっとばっかし有名になりつつあるのも理由のひとうだろう。
テーブルには昔懐かしい相合傘的なものが彫り込まれていて2人の名前もしっかりと刻まれている。
危うく「誰だよ、もうっ!」的な事を言いながら顔を真っ赤にして削り消すなんていう甘酸っぱいエピソードが生まれそうだったが、鈴屋さんの「いいじゃん、このまま指定席にしちゃえば」で何も言えなくなってしまった。
ちなみに犯人はグレイで、後日鈴屋さんのサラマンダーに買いたてのマントを消し炭にされたのは言うまでもない。
ここまで2人で一緒にいると色々と噂も出てくるのだが、それによって鈴屋さんの営業妨害になることはなく、彼女は相変わらずのもてっぷりだ。
次々と運ばれてくる料理も「あちらのカウンターに座っている剣士様からです」の一言が添えられていて、ほぼ毎日タダ飯にありつける素晴らしい日々を送っている。
だがしかし俺はと言うと、どうにも素直に喜べない。
なんか、こう……紐っぽい感じがしてしまうのだ。
それでも目の前の料理を食べてしまうのだから、俺の尊厳はどこか旅に出ているのかと、疑い始めていた時の事である。
「アーク!」
唐突に名前を呼ばれて、ぼんやりと鈴屋さんの方に向けていた視線を声の主の方に移す。
見れば真っ黒なツインテールに、黒のミニスカート+膝上までの黒いブーツをはいた健康的な女子が立っていた。
まったく見覚えはないが、その絶対領域が俺のハートをつかんで離さない。
ここは知った風に手を上げよう。
「よう、元気か?」
「…あれ、あんまり驚かないね」
ツインテール女子はそう言いながら不満げに腰に手を当て、髪をかき上げる。うん、かわいい。
一方の鈴屋さんはと言うと、あからさまに訝し気な目で俺を見ていた。
「なによ、拍子抜けね。まぁ、私とアークの仲ならすぐにばれるかぁ。…もうちょっと感動してほしかったけどね」
彼女はそう言うと俺と鈴屋さんの間の席に座り、そのままテーブルの料理に手を伸ばす。
ちなみに今彼女が座っている席は、通称「チャレンジシート」と呼ばれている。
鈴屋さんを口説こうとする男が座る席な訳だが、誰が座っても軽くあしらわれてしまうため、いつの日からかそんな名前がついていた。
そんな曰くつきの席に座り、勝手に料理を食べるという蛮行に俺は思わず声を失う。
なんという恐れ知らずな女子だ。
「あー君、説明」
あ………その台詞………また怒ってる。
そんな鈴屋さんの反応を見てツインテール女子が目を丸くする。
やがて何かを思いついたのか、えらくニヤニヤとし始めた。
「あーくぅ~」
どえらい甘え声をだしながら俺の腕に絡みついてくる。
大丈夫、俺は顔色一つ変えていない。いたって冷静だ。
まったくもって悪い気がしない。
しかし「アーク」と呼ぶあたり、こっちに来てから知り合った人だろうか。
………駄目だ……何度あの絶対領域を見ても思い出せない。
「あー君、さっきからどこ見てるの?」
うん、怒ってる。目を細めても、かわいい。
いやでもね、鈴屋さん。今さら「君の名は?」なんてキメ顔で聞けるわけないじゃん。
「えぇ…っと………今日はどうしたんだ?」
ツインテール女子が真っすぐに見つめてくる。
顔が近いですしとてもいい香りですし御馳走さまです。
「アークはぁ、もう忘れたかしら?」
「……ええっと…なにを?」
彼女は俺のマフラーに手を伸ばし自分の首にも巻き付ける。
……何これ、恋人巻き的な?
実際に見たことはないけど…現実に存在してたの、これ……
「赤いマフラー2人でしてぇ、一緒にお風呂行くって言ったのにぃ…」
パキンッ…と甲高い音がした。
確認するまでもない。
鈴屋さんがマグカップを割った音だ。
若すぎるぞツインテール、何も怖くないってのかよ!
俺はもう鈴屋さんの方に目を向ける勇気がないからな!
「あーくくん、ちょっといい? 2階で話しよっか」
怖い怖い…怖いって…
「待て待て待て……白状します。……まず、君は誰!」
「…なによ、やっぱりアークも気づいてないんじゃない。私よ、私!」
いやだからわかんないってば……すさまじいオレオレ詐欺だな…
見かねた鈴屋さんが、ツインテール女子の首に巻かれたマフラーをはずす。
「あなた…あんまりうちのあー君にくっつかないでもらえるかな?」
「えー………鈴ちゃんまで…まだわかんないの?」
「……すず…ちゃん?」
そこで俺はやっと気づいた。
「あーーーーっ、南無さんかっ!?」
「あっ! まさか、あー君の丸薬?」
「ピンポーン! 二人まとめてご名答ぅ~!」
そう言って南無さんは小悪魔笑顔でウインクをしてみせた。
「んなのわかるわけないじゃん!」
「…だったら、わかってる風にしないでよ」
いや、それはおっしゃる通りです。
でもこれで鈴屋さんの誤解も……
「……ふぅん、で、2人で混浴行く約束してたんだ。私があげたマフラーを2人で巻いて………へぇぇぇ……」
……って、解けてないですよ、南無さんっ!
「鈴ちゃんって意外にヤキモチ焼きね」
「……誰が誰に何を焼いてるって言うのかな?」
「冗談よ、冗談。安心して鈴ちゃん、そんな約束してないから」
まだ怪しんでいる鈴屋さんを説得するのに、それから軽く小一時間はかかってしまった。
そんなこんなで3人はいま、公衆浴場まできていた。
「南無さん、もしかして今まで男風呂入ってたの?」
「………んなわけないでしょ………」
え…ってことは風呂入らず? でもさっきはいい匂いがしたような…
「あー君、変態顔になってるよ」
エスパーですか、鈴屋さん。どこから読み取れるの、ソレ。
「……川よ」
「えっ?」
「だから……毎朝、川ですませてたのっ!」
おふっ……どこまで不幸なの、この娘……
「でも、あーくんが丸薬作ってくれたからさぁ……」
「南無っち、それは駄目」
「…あ、あぁ……っと………アークが丸薬作ってくれたからさぁ~」
鈴屋さんも容赦ないな……まだちょっと不機嫌のようで。
「私…やっと…念願の女湯に入れるのね…」
南無さんは嬉し涙を流しながら、ふるふると身震いをしている。
セリフだけ聞いてるとなかなかの変態だが、南無さんが言えば言葉に重みがある。
「そっか、まぁ堪能してきてよ。じゃあ一時間後に外でいいかな?」
オッケー!と南無さん。
勇み足で女湯に向かうのを見送りつつ、俺たちはいつも通り混浴へと向かう。
「…って、ちょっと待って! 鈴ちゃん、どこ行くの?」
「? …お風呂だけど?」
「いや、だってそっち混浴…」
「うん?」
何これ面白い。ちょっと静観しとこう。
「……えぇっと鈴ちゃん、女湯に行かないの?」
「うん、あー君が混浴じゃないと駄目だって………だから、初めてきたあの日から毎日混浴だよ?」
まぁ嘘は言っていないけど、順調に誤解は生んでいるようだ。
その証拠に南無っちが凄い目で俺を見ている。
「…す、鈴ちゃん、それでいいの?」
「だって私ネカマだし。女湯はいったら倫理的に駄目だろってあー君が言うし」
「…ちょっと、アーク。それを理由に鈴ちゃんを混浴に引きずり込んだって言うの?」
「いやだって、倫理的に…」
おぉ、お得意のあんぐり顔。女の姿になってもするのね、それ。
「…鈴ちゃん、今からでも遅くないわ。私と女湯いこ?」
しかし鈴屋さんは首を横に振る。
「ありがとう、南無っち。でも、もういいの。私はもう汚れちゃったから…」
「あ、あ、あ、アークっ!」
「待てぃ! 話が暴走し過ぎだ。俺はちゃんと扉の外で待ってるし、何もしていない!」
「…本当に?」
「誓って言う、俺は清廉潔白だ。覗くどころか、ラッキースケベも発動させてない。むしろ混浴を毎日締め出される哀れな男子としてプチ有名なくらいだ」
今度はうわぁといった表情で鈴屋さんの方を見る。
鈴屋さんはと言うと、てへぺろこつんアクションで相変わらず可愛さマックスだった。
いつも通り……そう、先ほどの言葉通りに、俺は廊下で胡坐をかいていた。
鈴屋さんは最初に比べて、だんだんとお風呂の時間も長くなっている。
そのため俺も日に日に目立つ一方だった。
たまに通り過ぎるカップルが同情にも似た目で見てくるが、もはや気にもならない。
「見ろよ、あいつまだいるぜ。毎日締め出されて、かわいそうに…」
しかし今日に限って、わざらしく大きな声で言われた。
……くそっ…わざとかよ、当てつけやがって…
「なぁ、君さ。騙されてるだけだって、いい加減気づけよ。あんな奇麗な娘がお前みたいな目つきの悪いガキを相手にするわけがないだろ?」
………気にしない気にしない。むしろ俺は鈴屋さんが覗かれないように見張っているのだ。
「…ちょっと、やめなよ。可哀そうだって…」
………あ…それは駄目っぽい………ちょっと泣きそう………
そこで唐突にガタンッ!と、背を預けていた扉が開かれた。
そこにはバスタオル一枚の姿で、唇をきゅっと結んだ鈴屋さんが立っていた。
綺麗な水色の髪は濡れたままで、泡もまだ残っている。
しかしその無言で怒る迫力に、カップルも言葉を飲み込んでいた。
「あー君、一緒にはいろ!」
鈴屋さんは2人を一瞥し、俺のマフラーを引っ張るようにして脱衣所に引きずり込む。
俺はなすがままに脱衣所に転がされて、扉をガタンッと閉める鈴屋さんを見つめていた。
しばらく呆然としていたが、そのあまりにも魅力的な後ろ姿から視線を外す。
「…………え…っと、一緒には……入らないよね?」
一応確認すると、鈴屋さんはややあってから小さく頷いた。
「ごめんね、あー君。でもそこに居ていいから………あの……終わるまで向こうむいててもらっていぃ?」
…あぁ、そうですよね…………そうじゃないとむしろ俺が大混乱です。
とりあえずマフラーで目隠し状態にして、扉の方に体を向けて正座し直す。
「…あー君…嫌な思いさせてごめんね」
湯舟の中から届いたその優しい声に少し心が震えたが、気持ちを強くもてと自分に言い聞かせる。
「あぁ、うん大丈夫だよ。むしろさっきのはちょっと痛快だったかも」
言って、かかかっと笑ってのける。
「ねぇ、鈴屋さん…」
「…なぁに、あー君」
さっきのカップルの言葉が妙に頭に残っていた。
「…俺って目つき悪い?」
しばらく沈黙が続き、やがて「そんなことないよ」とかえってくる。
「…それにキャラメイクだし…気にしなくても……」
「…あぁ……まぁそうなんだけどさ……俺、リアルもこんな感じなのよ」
「そうなの?」
「…キャラメイクとか昔は凝ってたけどさ………それこそクスエニ風にしようって頑張った時期もあるけど…何個もキャラも作ってるうちに段々タルくなってきてさ…………最初は身長や体形だけだったんだけど、どのゲームでも俺風なのを作るようになったんだよね。今はもう、ぱぱっと作れちゃうよ。………まぁそんなわけで、実はこれ、けっこうな再現度なのよ……だから、あいつらの言うことはリアル俺に言ってるようなもんなのさ」
「…ふぅん」
鈴屋さんが湯舟の中でぶくぶくと何かを言う。
「え、なに?」
「…………ん~ん…なんでもない………………私たちよく似てるね…」
「…へ? だって鈴屋さんのキャラメイクって一日物でしょ?」
「……いざ自分に似せようとしたら凄い大変だったもん。今までそんなことやったこともなかったし…」
「あぁ、そっか、自分に似せつつ女に変えなきゃいけないって難しそうだね…………って、じゃあすっげぇ美形なの? まぢでか……なんて、うらやま勝ち組……」
しかし鈴屋さんは湯舟でぶくぶくするだけだった。
「……そのさ、さっきの…鈴屋さんは気にしないでいいからね…」
かなり長い間があき、やがて「うん」とだけ小さく聞こえてきた。
「あー君、あのね……私………」
鈴屋さんが何かを言いかけたその時だ。
『きゃぁぁぁぁあぁぁぁぁーーーーーーーーーー!』
耳をつんざく女性の悲鳴が外から聞こえてきた。
「な、なに…?」
と、不安そうな声の鈴屋さん。
俺は横に置いていたダガーを装備しなおし、目隠ししていたマフラーを口元にさげて立ち上がった。
「ちょっと見てくる。鈴屋さんはここにいて」
俺はそう言うと、声が聞こえた方向に廊下を駆け出す。
そしてロビーにたどり着いたとき、何が起きたのか俺は全てを理解した。
……思わず目頭が熱くなる。
そこには真っ裸にタオル一枚で、石鹸を投げつけられている筋肉髭坊主の姿があった。
連続トリガーで号泣する破戒僧を救い出し、そのまま風呂屋の屋根上に逃げ込むと、今度は一番近い雑貨屋で大き目のローブを買ってまた屋根上にもどる。
南無さんは、それはもう素晴らしい男泣きを見せていた。
かける言葉が見つからない……この世に彼女ほど不幸な人はいないだろう。
黙ってローブを渡すと横に座る。
「……たぶん魔法無効化エリアがどっかに仕込まれてたんじゃないかな……シェイプチェンジの魔法系は悪用されるからさ……」
「……ひどいよ………私が何をしたって言うの……」
いや、まったくその通りです。
南無さんはローブをもぞもぞとしながら着ると、くっつくようにして横に座る。
「…ありがとう、アーク…」
「いや……俺もこの可能性に気づくべきだったし………ごめん…」
震えるようにして泣く南無さんが不憫で仕方なかった。
これから彼女はどうやって風呂に入ればいいんだろう…と、しばらく考えを巡らせる。
温泉を掘る………どう考えても無理だ。
自家製の風呂を作るか……でも作り方なんて…………あっ!
「南無さん、風呂、作ろう!」
突拍子もない申し出に南無さんが目を丸くしている。
「いや、俺さ、田舎暮らしだったからさ、本物の五右衛門風呂を見たことあんだよ。もう使われてなかったけどさ、大体どんなのかは知ってるぜ。それに南無さん、鍛冶師じゃん。絶対作れるよ!」
「…………………ほんとに?」
「おぅさ、失敗上等だ。成功するまで付き合うぜ!」
だから泣くなよ、と笑って見せる。
「…てか南無さん、まだずぶ濡れじゃん。いくらなんでも風邪ひくぞ」
言いながらマフラーを貸そうとすると、南無さんがぐっと押し返してきた。
「アーク、ありがとうね。…でもそのマフラー、絶対に他の人に渡しちゃだめだよ」
「…なんでさ?」
「アークさ、その時のイベントのこと、ちゃんと覚えてる?」
妙な事を言う。覚えてるも何も…
「俺が早々に風邪ひいて、ぜんっぜんインできなかったやつだよね」
「……そう……イベント賞品1位がサモナーのマントで、2~5位が赤影のマフラーだったやつ…」
「そうそう、まさか鈴屋さんがゲットしちゃうなんてね。鈴屋さん、3位だっけ…………惜しかったよね。もう少しでサモナーのマントゲットできたのにさ」
そこで南無さんが、はぁと大きなため息を一つする。
「………鈴ちゃんが有名な廃プレイヤーたちを利用して順位を稼いでたのは知ってる?」
「うん、もちろん。さすがだぜ、鈴屋さん。廃プレイヤーローテさせながら、ほとんど寝ないで狩りしてたんだろ?」
「…………じゃあ…イベ終了前日の順位、鈴ちゃんが1位だったのは知ってる?」
「え………それは初耳…………………へぇ、すげぇな、ほんとにサモナーのマントゲットしかけてたのか」
そこでまた溜め息を一つされる。
「…アーク、お風呂作りのお礼代わりに今回だけ教えてあげる。鈴ちゃんはね、最終日の終了間際に体調崩したって嘘をついてログアウトしたの」
「……へ………?」
「だ・か・ら、鈴ちゃんは最後にわざと順位を落としたって言ってるのよ」
えっと、どういうこと?
思考が全く追いつかないんだけど…
「この鈍感ニンジャ……あのね、イベが始まった初日から狙っていたのよ! アークのために! そのマフラーを!」
…え?
「鈴ちゃんは、サモナーのマントなんて最初から眼中になかったのよ…馬鹿…」
…いやいやいや…だってあのサモナーのマントだよ?
世界に一個しかない超絶性能のウルトラレアアイテムだよ?
あれを取れてたのに、わざと順位を落とした?
…だってさ…あの時…
“寝ないでがんばったけど、さすがにサモナーのマントは手が届かなかったよ~。ニンジャ用の装備なんて私いらないから、あー君にあげるね”
……って言ってたじゃん、いつも通り語尾にハートをつけてさ…
「あのあとね、わざとじゃないかって協力してた廃プレイヤーに陰口まで言われてたのよ。まぁそれはすぐにおさまったけどさ…」
なんだよ、それ…
「なのにさぁ、アークったら、いかにも古い忍者みたいでダサいって言ってさ。なかなかそれつけなかったでしょ?」
…なんだよそれ……超だせぇじゃん……俺…
「…アーク、聞いてる?」
「……南無さん………………………すまね…………ちょっと………今すぐ行かなきゃ…」
「えぇ? 私どうやって下りるの?」
「向こうに掃除用の梯子があったから!」
そう言うと屋根から飛び降りる。
しゅたんっと片膝をついて着地をすると、ちょうど目の前に鈴屋さんが現れた。
「きゃ……………な、なに、あー君?」
それはまさに姫の目の前で片膝をつくニンジャのソレだった。
そのままの姿勢で顔だけを上げる。
「どうしたの、あー君。あんまりにも遅いから出てきちゃったよ。さっきの悲鳴はなんだったの?」
胸が詰まって何も言えなかった。
まともに目を見ることなんて、できるわけがなかった。
俺は黙って…視線を外しながら横に並ぶ。
「………鈴屋さん…」
「ん? なぁに、あー君」
俺は黙ってマフラーの片方を鈴屋さんに巻く。
不意を突かれたのか、鈴屋さんも驚いて拒否できなかったようだ。
「…あ…あの……あー君?」
「……いいから」
声が震えてしまっていた。
「……どうしたの、あー君……お風呂入らないの?」
「……………いいから、今日は帰ろ。いっぱい話さなきゃいけないことがあるんだ…」
鈴屋さんは火照った顔を隠すように真っ赤なマフラーを引き上げて、小さく頷いた。
「…強引だなぁ、あー君は…」
それでもそのマフラーの下で鈴屋さんは笑顔を見せている、そんな気がしていた。
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