扉
「君にこの扉をプレゼントするよ。願えばどこにでも繋がる不思議な扉さ。ただし1つ注意してほしい。扉を開けたままにしてはいけないよ。君以外でも自由に行き来できてしまうからね」
見るからに怪しげな人物が煙のように消え、扉と僕だけが残された。
試しにと、隣の部屋へ、最寄の駅へ、近くの県へ、遠くの国へと行ってみた。これは愉快だ。実に愉快だ。しかしどこも写真や映像で見たことがある。これではその景色を確認するだけのようではないか。
絶対に行ったことがない場所……そうだ、天国と地獄はどうだろう。天国と願い扉を開けると、そこにはまさに天国があった。地獄と願い扉を開けると、そこにはまさに地獄があった。
僕は臆病だったから、一歩でも足を踏み入れると死んでしまうのではないかと思い、扉を開けたまま見物することにした。見れば見るほどこれは面白い。幽霊の類は見えぬが、怖がりの僕には丁度良いだろう。
それから僕の住む町で超常現象が多発したが、僕は何かを忘れている気がしてならない。
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